鬼塚パンチ! -3ページ目

鬼塚パンチ!

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ハヤト


第5回 告白

ここでみどりちゃんとの恋がいっきに進展します。

「鬼塚パンチ!」は、サッカー&青春&純愛&髪型小説です。
連載を終えた頃に出版し、その後に映画化したいと思っていますので乞うご期待。

著者は鬼塚忠。「Little DJ」など著書多数。映画化原作作品多数。

イラストは淵上さきさん。
このイラストは主人公、鬼塚隼人。

ちなみに第一回はここ
http://ameblo.jp/onitsukapunch/entry-11782177144.html

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 夏休みが終わりに近づいてきた。
——夏休みが終われば、もう、こうやって勉強をする時間も、なくなってしまうんだな。それに、このまま、受験勉強がうまく行っても行かなくても、みどりちゃんとは同じ高校には行けないんだよな……。なんか、寂しいな。
 と思うようになってしまっていた。
 そう思うと熱が出たように体が妙になってくる。
 それからというもの、みどりちゃんと会うと緊張してしまう。目の前にいるのにまともに顔をみることもできない。じっと見つめていたいのに、みどりちゃんに気づかれたくないから、ほんの一瞬だけ盗み見をするだけだ。
「みどりちゃん、この数学の解き方教えて」と聞くときも、
 まともに目を見れなくなっていた。
 もしかして、これが恋ってものだろうか?
 もしそうだとすると、恋ってのはとても厄介なものだと思った。

 夏休みが終わって、秋になった。
 晴天の空にはもう秋の気配が感じられた。日差しは強いけれど風は涼しく乾いていた。
 汗をかかなかった夏だったなと思った。
 二学期の最初の模擬試験を行うと、成績はぐんと伸びていた。ここまで来たのは明らかにみどりちゃんのおかげだった。しかし、たとえ仮に、このまま成績は伸びてお互いの志望する高校に入学できたとしても、みどりちゃんと別れる日が近づくと思うと何だかやるせない。
 もう、サッカー部の練習はなくなっていたが、学校が始まってからは、平日はそれぞれの家で勉強をした。みどりちゃんは家庭教師が来る日があり、ぼくは塾に通うようになっていたので、なかなか時間をあわせるのが難しかったからだ。そのため、土日や祝日のみ、うちで一緒に勉強をした。
 その日も、朝早く起きたぼくは、みどりちゃんの教えに習い、暗記に励んでいた。英語の教科書を開き、例文の暗唱をはじめる。しかしこれがなかなかはかどらない。みどりちゃんと同じ高校にいけないことを考えると集中できないのだ。何だったら、勉強は好きでないけど、時間が止まって、このまま受験勉強が永遠に続いてもいいと思っている。
 ふう、と息を吐いて、両手を天井につきあげて伸びをする。深呼吸を繰り返せば、呼吸は安定し、呼吸が安定すれば、精神も落ちつきを取り戻す。けれど心の不安は収まらなかった。例文を目で追っていても頭はみどりちゃんのことを考えている。教科書を閉じて、椅子から立ち上がった。調子の良くないときにはねばっても無駄だ。こころを健全にしなければならない。
 ある土曜日、我が家でみどりちゃんと一緒に勉強しているときだった。
 母が「ハヤトとみどりちゃん。お茶とケーキよぉ」と差し入れを部屋に持ってきてくれた。
 もうしばらくは母はこの部屋へ来ない。そう思うと、ぼくは自分の気持ちを抑えられなくなった。
 — 言いたい、言いたい。この気持ちを、みどりちゃんに言いたい!!
 — いや、言ってはいけない。そんなことしたら、みどりちゃんが困ってしまう。
 — いやいや、言わなくちゃ。言わないでいると、ぼくの心臓が破裂してしまう。
 — 言ったら、あきらかにみどりちゃんに迷惑をかけるぞ。
 ぼくのなかの二人の人格が、堂々巡りしている。
 
 心臓がバクバクとものすごい勢いで音を立てている。こんなに早く鼓動を打ち続けたら、そのうち止まってしまうんじゃないかというくらいになっていた。
 もはや理性など抑えることが出来なくなっていた。
「みどりちゃん」と言うと、「何?」と上目づかいにぼくをみた。
 言うか、言わないか? 手を出すか、出さないか?
 ぼくは、思わず、みどりちゃんの手を握ってしまった。
 呆然とみどりちゃんはぼくを見返した。まるで
「一緒に勉強するのが、あともう少しで終わるのかと思うとつらいよ」
 いままでつっかえていたものが、どっと口から出てきた。ぼく自身も自分の言葉にびっくりした。すぐさま、「ごめん、嘘」と軽いノリで笑おうとを思ったのだけれど、できなかった。なんだかとても重たいものになってしまった。
 言ってはいけないことを言ってしまったという気持ちと、言ってすっきりした気持ちが混ざっている。しかし、ぼくははじめて自分の気持ちがはっきりとした気がした。僕はみどりちゃんのことが好きなんだ。ずっと前から、ぼくの家にあいさつに来たときから好きだったんだ。
 しかし青春の恋は簡単じゃない。
「えっ?」
 とみどりちゃんは心底驚いた表情をした。そして、昔のように頬を真っ赤にし、さらには耳まできれいな赤に染まっていた。
「……考えとく」
 なんと、みどりちゃんは下を向いて、自分の問題集と筆記具をまとめて部屋を出て行ってしまった。
——あーあ、やっちゃった。ぼ、ぼくは、もう終わりだ!! 
「こんな大事なときに余計なことをして、サイテーだよな」と参考書に向かってつぶやいた。
 ぼくは宇宙の闇に放り投げられたように放心状態になった。ふられたのだ。しかし、どうして? これから先どうなるのだろうという不安がきゅうに襲ってきて、喉がカラカラに乾いてきた。
 その日は、もう勉強する気にならず、ぼくはベッドに寝っ転がった。しばらくすると、いつの間にか、ウトウトと寝入ってしまっていた。
 翌日も、いつものように我が家で一緒に勉強する約束になっていたのに、みどりちゃんは来なかった。卓上に置かれたカレンダーには、我が家で一緒に勉強することになっている日に丸印がつけてあった。まるで串団子のように、4週分重なっていた。しかしその串団子はもう無用のものとなった。文字通り、絵に描いた餅だった。
 もう来ないのだろうか。来ないと分かっているけど、丸印の日には胸が焦がれるほどになった。
 一週間ほどして事態は思わぬ方向へ動いた。我が家へ来たのはみどりちゃんではなく、みどりちゃんの父親だった。そしてそこに愛はなく、怒りがあった。
 クリーニングやのオヤジに、対峙するのはドレッドヘアのラスタマン、つまりぼくのオヤジ。その人間関係からすると、圧倒的にオヤジの方が強いのだが、今回ばかりは違う。
 みどりちゃんのオヤジは捨て身で怒鳴り込んできた。そういう人間は覚悟が違うので誰にも負けないのだ。
「鬼塚さん、失礼なことを重々承知で言いますけど、ハヤト君に伝えてください。うちのみどりには、もういっさい近づかないでください。みどりの将来をめちゃくちゃにする気ですか? みどりにとって、今が受験で一番重要なときなんです」
 びっくりしたオヤジは、ラスタヘアを振り乱しながら、
「何だぁ、ハヤトが何したって言うんだ?えぇ」と返したが、その気迫から何となく想像はついたのだろう。顔は自信に満ちていなかった。
「みどりの様子がおかしいので問いつめると白状しました。うちのみどりが志望校を、鳳凰高校からお宅の息子と同じ玉木高校に変えたっていうんだ。どうしてだか分かりますか」
「・・・・・・」
 オヤジは返事できない。
「みどりの成績が今になって落ちたわけではない。相変わらず高いままです。分かるでしょう。その理由が」。
「……」答えられないオヤジに母ちゃんが、
「どうしてですか。説明していただけますか?」と落ち着きはらった口調で聞いた。
「みどりの気持ちを惑わさないでください。言っときますけどみどりはひとり娘なんですよ。お宅の息子さんは元気があって、いい子だというのは認めます。でもみどりは鳳凰学園から、東京の大学の医学部に行こうと頑張っているんです。みどりにはそういう人生を歩ませたいと思っています。どうか私たちの気持ちも理解して下さい」。
「はい・・・・」それ以上、オヤジは言い返せなかった。オヤジは江戸っ子のような気質を持ち、口論にはめっぽう強いはずだった。
 ということで、半年先どころではなく、すぐに、もう一緒に勉強することは出来なくなった。
 みどりちゃんと話せるのは学校だけ。通学路などで顔を合わせたときに、みどりちゃんは微笑み、
「ハヤト君、ごめんね。迷惑かけたでしょ」
と微笑んでくれた。
「そんなことないよ」
「頑張って、一緒に玉木高校に行こうね」
 とガッツポーズをしてくれた。
 ぼくは複雑な気持ちになっていた。担任の先生もこの問題に頭を抱えていたからだ。
 どうしてもみどりちゃんを鳳凰高校へ入れたかった。というのも、みどりちゃんがこの県で一番難関である鳳凰高校に入ってくれなければ、学校も先生も評価がぐんと下がってしまう。
 ぼくが、たった一言を我慢できなかったために、みどりちゃんだけでなく、みどりちゃんの家族や先生にも迷惑をかけてしまった。そんな罪悪感に苦しむようになっていた。
 みどりちゃんにとっても、玉木高校に行くのではなく、鳳凰高校に通い、医者を目指すことのほうが良いはずだ。ぼくの横しまな思いだけで、みどりちゃんの夢を壊しちゃいけない。
——俺も男だ!! 男なら、愛する女の夢を応援するのが筋ってもんだろ!!
 ぼくは妙にマッチョな気分を盛り上げて、一通の手紙を書いた。

「みどりちゃんへ
 こないだは変なことを言ってしまって申し訳ない。ぼくのあの時の気持ちは、一時の、迷いだ。だから、お互いの夢を大切にして、別々の道を歩んだほうがいい」

 これを書きながら、ぼくは苦しかった。
——ああ、これが、苦みばしった大人ってやつなんだろうな。
 苦しみながらも、ダンディな大人になった自分を妄想し、なんとかみどりちゃんにそっと手渡すこともできた。
 ところが、翌朝、みどりちゃんから帰ってきた返事は予想を裏切るものだった。

「ハヤト君へ
 嘘は言わないで。私はお見通しよ」

 確かに嘘。好きだ。好きで好きでたまらない。僕の偽らざる気持ちをもう一度みどりちゃんに伝えたい。みどりちゃんのことを考えると胸が焼きつけそうだ。みどりちゃんのためなら死んでもいい。そう思っている。
 だけどここでは嘘を言うより他に術はない。
 ところが、相手のほうが、ずっと上手だった。こう返ってきてしまうと、もうぼくはノーアイディア。どうしたらいいかなんて、思いつかなかった。
 みどりちゃんは、志望校を鳳凰高校から玉木高校に変えたままだった。
 これで、ぼくはサッカーのために玉木高校を受験し、合格すればいいなぁくらいの気持ちが、もはや玉木高校に落ちることは絶対に許されなくなった。みどりちゃんを裏切らないためにも猛勉強が必須となった。
——やばい! このままじゃ先生にもみどりちゃんの両親からも、にらまれっぱなしだー! ぼくは幸せだけど、みどりちゃんにとってはどうなんだ? だ、誰か、教えてくれ~!
 そんな気持ちのまま、試験当日を迎えた。
 もちろん、玉木高校の試験会場には、みどりちゃんの姿もあった。
 その姿を見て、
——もう、ぼくは、玉木高校に落ちることは許されないんだ!!
 驚くほど気合いが入った。
 そう、ぼくは、本番に強い男なのだ。オヤジ曰く「ジャーの神が見守っているからさ」ということらしいのだが、そうではなく、オヤジ譲りの楽天的な性格が、本番強さを生み出していると考えている。
 でも、ぼくはこれにずいぶん助けられてきた。サッカーの試合ではとくに。
 ただ、この能力を持っていることに感謝したのは、今回が一番だ。
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今日はここまで