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鬼塚パンチ!

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オヤジ


連載 第6回 ハヤトと池P、坊主頭よさらば
更新しました。

みどりちゃんにコクったハヤト。

髪は伸びて、坊主から抜け出せる。
オヤジに切ってもらおうとすると、そこに池Pとノブ先輩がきた。
話は盛り上がる。

イラストはハヤトのオヤジで、ラスタマン。

爆笑。

では。

ーーー
 合格発表の日、池P、みどりちゃん、ぼくの三人は一緒に玉木高校まで出かけた。池Pとみどりちゃんの二人はもちろん、ぼくの受験番号もしっかりと貼り出されてあった。
「やったね!!」
 ぼくたちはハイタッチをして、お互いの合格を喜びあった。
 長い冬が終わった。春である。
 ヒャッホーイ!!
 もう、頭のなかはサクラ色だった。
 ぼくの人生の、長い冬が、やっと終わったのだ。受験勉強、あれはぼくのような純真でナイーヴな少年の心に対する拷問である。
 玉木高校に入って、サッカーが思いっきりできる。
 そして髪を伸ばせる!! ということは、おしゃれが出来る!!
 合格発表を担任の先生に告げた後、ぼくは清水中学校の校庭の真ん中で、天に向かって、
「うぉー。サッカー頑張るぞぉ。髪伸ばすぞぉ。みどりちゃんと青春するぞぉ」
 と叫んでいた。
 ぼくは学校に寄った後、走って家に戻り、息を整える間もなく、自慢げに
「受かった!玉木高校、受かった」
 とオヤジに叫んでいた。受かったら奇跡だと言っていたオヤジがどう反応するか、この目でしかと確かめたかった。すると、おやじは「あ、そうか」とニッコリ笑顔。案外あっさりとした反応だった。あの暑苦しいオヤジの意外な反応に、ぼくは少々驚いた。
 喜んだのは、むしろ母さんのほうだった。親戚中に電話をしまくり、親バカが恥ずかしくなるほど、ぼくを褒め、そして電話先の人に喜びの共有を強制していた。
 それを見て、ここでバランスがとれているのかもしれないな、と思ったぼくだった。
 そして、もう一つの難関がやってきた。それはみどりちゃんの両親だ。最後まで、玉木高校にいくことを反対していたが、合格までしてしまうと、もはやみどりちゃんの両親も諦めていた。しかし、ぼくはきつく釘をさされた。
 商店街でばったりみどりちゃんの両親と会ったときだった。
「ハヤト君、変なこと考えないでね。ふたりっきりで会ったりして、みどりを傷ものにしないでね」とみどりちゃんの母さんから言われた。
 傷もの! ぼくはそんな野蛮な男に見えるか? ぼくを野獣のような目で見るな、と言いたいけどそう言うことを言えるわけもなく、
「大丈夫です。ぼくは騎士ですから、みどりさんを真摯にお守りいたします」
 と、うやうやしく頭を下げて帰ったが、正直いって、野獣にならない自信はどこにもなかった。それが十代ってやつである。

 早速、ヘアスタイルを変えることにした。先にも書いたが、ヘアスタイルをどうするかはこれからの学生生活において非常に重要なことなのである。
 ぼくは年が明けてから髪を切っていなかった。
「この坊主頭、どうにかしてくれよ」
 囚人のような坊主頭を一刻も早くどうにかしてもらいたかった。オヤジに、
「とにかく坊主頭と言われないものにしてくれ。とりあえず襟元だけ刈って、上と前は漉いて」とお願いする。
「とりあえずはそうしておいて。あと一年後にはラスタヘアにしなきゃいけないな」
「ラスタヘアって、そんなオヤジみたいな長髪はあり得ない。面倒くさいし、かっこ悪いし」
「あり得ないって、なんでだ? 面倒かもしれないけど、かっこ悪いことはない」
「なんでって。高校生にラスタヘアってありえないでしょ」とぼく。
 そうなのだ。ラスタヘアは長い髪を束ねるので、オヤジの場合でも髪を洗うのは三日にいっぺんくらい。それも大ごとだ。三日目は、「くさい!!」と叫びたくなるくらい匂うのだ。
 髪を洗うだけで1時間はかかる。それから乾かす。それもドライヤーを使って1時間、自然乾燥で1時間、延べ三時間もかかる。この最後の自然乾燥を怠るとあとで大変な目に遭う。洗濯物の生乾きを濃縮した匂いになるのだ。
 理髪店のオヤジがそんな髪の匂いを振りまいていたら致命傷でしょ。
「とにかく切って。襟元は刈り上げて、上をすいて……。ソフトモヒカンみたいにしてよ。ベッカムみたいな」
もともとモヒカンなんてダサいヘビメタロッカーの象徴だった。おしゃれに敏感な爽やかな若者はしない髪型だった。ところが、ベッカムや市原隼人がこの髪型をしているおかげで、一気におしゃれな髪型として定着した。価値観なんてカリスマの登場でがらりと変わるものだ。
それにこのソフトモヒカン、坊主頭がちょっと伸びただけで、トライできるバリエーションがあるのが嬉しい。ぼくの気分は、すでにベッカムだった。
坊主頭でなくなるというのは人生のステージがひとつ上がるような気がした。坊主は涼しくていいとか、髪を洗ったらすぐ乾くからいいとか言う人がいるかもしれないが、とんでもないことだ。考えてみるといい。坊主はガキ扱いしかされない。
 オヤジがはさみを持ち出した。まずはこれに興奮した。今までは坊主頭なのでバリカンで刈って五分で終わりだった。味もへったくれもない。それがはさみを使う。それもひとつではない。まずは直線のはさみを使って襟元を刈り上げ、指間刈り。トップを揃える。それからすきばさみという、櫛のような刃をしたはさみで髪を透く。そうすると、頭に整髪剤を付けるとつんつんとかっこ良く立つのだ。
 オヤジは鏡を見て、
「よっしゃ。左右対称までもうちょいだな」と言い、またはさみを入れて微調整する。
 職人の手が入っているっていう感じで、これがまたいい。
 バリカンだけの坊主頭とはまったく違う。坊主頭なんて、誰だって、いやぼくにだって出来そうだ。何の芸もない。
 鏡の中の自分に見とれていると、池Pが入ってくるのが窓越しに見えた。
 「坊主頭をどうにかしたいから切って欲しい」。考えていることは同じだった。
 さらに偶然にも清水中学のサッカー部の先輩で、同じ玉木高校サッカー部に入ったノブ先輩までもが、鬼塚理髪店へ髪を切りにやって来た。
「こんにちは、おじさん」
 落ち着き払ってやってきたノブ先輩はオヤジにあいさつをした。
「よお、今日もまた面白い髪型させてもらえんのかい?ありがとな」
ノブ先輩は誰かの視界に入る前から、もうすぐ来るという予感がする。ぼくに超能力があるというわけではなく、それだけノブ先輩の存在感がすごいのだ。
 ノブ先輩はたった一学年しか違わないのに、ものすごい大人に見える。いや、実際に大人なのだ。いつもホストのようなちゃらいファッションをしていて、その日も、黒いシャツに黒いジャケット、黒いパンツでキメていた。ヒョウ柄のストールを巻き、腕にはシルバーのアクセサリーをじゃらじゃらとつけ、長めの髪の毛を無造作にクシャッと固めている。
 中学の頃のあどけなさなどまったくなかった。特に驚いたのは青い目だった。
「ノブ先輩、その目は何ですか?」と聞いたら、
「青のカラーコンタクトだ。似合っているだろ」と同意を求めてきた。
「似合っています」そう言う以外に返事はない。
「俺はな、高校出たら、歌舞伎町に行ってホストになるんだ。いい女たちを愛して、散々貢がせて、歌舞伎のナンバー1ホストになる!」
 それがノブ先輩の夢であり、口癖だった。
 なるほどとも思った。顔をよく見ると眉毛もきれいに揃え、うっすらと化粧をしていた。
「20代はホストで稼いで金を貯めて、その後は、事業を興してカリスマ経営者になる。で、きれいな愛人をいっぱい囲うのさ」
「じゃあ、なんでサッカーなんて汗臭いスポーツするんだ」とオヤジ。
「そりゃ、やっぱ、学校でモテたいからでしょ。それにスポーツもしないで脂肪だらけの体になっちゃモテないでしょ。ブヨブヨした体で色気出せるかってんだ」。
 ノブ先輩が話す内容は、まるで異世界。自分の人生には、一切起こりえないこと。そんな印象の人である。ぼくがそんなことを言ったら、大爆笑され、「大丈夫? 熱あるんじゃない?」とツッコまれまくるのがオチだが、ノブ先輩なら現実的な話である。
 そもそも、玉木高校に入学できているのだから、元々は成績がいいのだ。今はどうだか知らないけれど、中学のときは、優等生としても評判だった。いつどこで、何をどう間違ったのか知らないが、いつしか、地域でも有名なチャラ男になっていたのだ。
 そんなちゃらいノブ先輩だが、サッカーは抜群にうまい。
 三年生が抜けたあと、一年からレギュラーになっている。長い髪を風になびかせ、グランドを自由に駆け巡る姿は男から見ても惚れ惚れするほどで、「遊びでもいいからつきあってほしい」とひっきりなしにコクられるのも理解できなくはない。
 だから、横には大島優子や板野友美ばりのかわいい彼女を常に連れている。もちろん、ご想像どおり、その女性がよく変わるのだ。なんとも羨ましい身分である。
 で、しかも、その芸能人みたいな彼女たちとは、みんな経験ありだとの噂なのだ。
 うおーっ!! 信じられねえっ。羨ましすぎるっ!!
 そう叫びたいくらいの……、もはや事件である!
 その事件の渦中のノブ先輩が言った。
「ふたりとも合格おめでとさん。もちろんサッカー部に入るんだろ? 期待してっからよ」
「もちろんです!! 頑張ります!」
 池Pとぼくは声を揃えて返事をした。
「先輩、お下がりでもいいんで、ぼくに、いつかかわいい彼女も紹介してください!!」
 と図々しいお願いをしたのは、池Pだった。
「気が向いたらな」
 ノブ先輩はニヒルに笑うと、オヤジに向かって、
「いつもの感じでカットお願いします」と言った。
 耳が隠れるくらいのちょい長めの、ちょっと無造作な感じのヘアだ。
 もちろん、池Pはどうぞどうぞと脇に寄り、ノブ先輩に中央に座ってもらった。その後ろに立ち、鏡越しにぼくと池Pが話しかける。
「ノブ先輩、どうやったらそんなにかっこ良くなれるんですか?」
「おしゃれの基本はなんていったって髪型よ」。
 そこでオヤジは「そうだ、そうだ。髪型だ」と呟く。
「どんなに洋服が格好よくても髪型がダサければ、一気に野暮ったくなるし、逆に服装がシンプルでも髪型が決まっているとオシャレに見えるんだ。しかも高校は制服。学ランなんて、少し変わったのを着ても大して変わんねえけどよ、髪型は個性を出せるんだぜ」
「なるほど!! 先輩の言うことは説得力ありますね!」とおだてるぼく。
「で、ちなみに、どんな髪型がいいと思いますか? ぼくもノブ先輩みたいにかっこよくなりたいんです。まだ髪が短いですが、これでもかっこよくなって女の子にもてますか?」
 池Pがノブ先輩にアドバイスを求める。
「今はまだ髪が短いから無理だけど、やはり長髪がいいと思うぜ」
「長髪ですか。なぜですか?」
「髪型は主張だからさ」
 そこでオヤジが出てきて、「聞いてっか、ハヤト。髪型は主張、つまりポリシーだってよ。オイラと同じこと言ってる」と言う。ノブ先輩は聞き流すようにして続けた。
「俺の尊敬するマラドーナがこう言ったんだ。『アルゼンチンのサッカーの歴史は髪の長い選手によって書き込まれている』ってな。これは当時代表の監督だったパサレラが選手に長髪禁止令をだしたとき、マラドーナがそれを批判して言ったんだ。当時代表でマラドーナとフォワードを組んでいたカニーヒャはこれを批判して代表から外された。なぁ、かっこよくないか。その話を聞いて、俺は長髪にしたんだ」
 なんだかぼくのおやじに似ている。
「ノブ先輩、あんたはなんだかちゃらい恰好しているけど、案外かっこいいこと言うじゃねぇかよ」
 おやじはしみじみ言った。
「それほどでもねぇけど」
「ノブ先輩、分かりました。で、ぼくの髪型はどうすればいいですか?」
 池Pが口を挟んだ。
「そうだな。今のうちはまだソフトモヒカンくらいにしたらいいんじゃねぇの。バッチリ決まると思うぜ」
 その言葉を信じ、池Pは、その場で、
「ツーブロックでお願いします。それからハヤトよりもかっこ良くしてください!」
 とオヤジに申し出た。
 そこまでは威勢が良かったが、それからの話が爆笑なのだ。
 おやじは「分かった。ハヤトよりかっこよくな」と言いながら、池Pをノブ先輩の左に座らせた。そしてエプロンをかけ、はさみで髪を整える。
 池Pも悦に入った感じで、「おぉ、この感じ、かっこええ。もう坊主とはおさらばじゃ」と鏡に映った自分に吠えまくる。
 髪型を整え、オヤジが「もみあげはどうしようか?」と聞くと、池Pは一瞬戸惑い、黙り込んだ。そしてもう一回、オヤジが、
「もみあげはどうしようか」と聞くと、
「……もんでください」
 と答えたのだ。
「ハ?」
 オヤジは目がまん丸になっている。
 ノブ先輩もぼくも、とっさに「ダハハ」と吹き出してしまった。そしてノブ先輩はあまりのおかしさに椅子から落ちて、
「ハッハッハ、池P、おしゃれの前に一般常識を勉強しろよ、ハッハッハ」
 と笑い転げている。
 池Pはもみあげが何かを知らなかったのだ。
 とまぁ、これがぼくの友達、池Pのおばかと言われるゆえんである。
 こんなお馬鹿な池Pが玉木高校に合格しただなんて信じられなかった。
ーーー
今日はここまで