今日はよく仕事をしたし疲れて酒も飲んだので、たまには誰も読む気がしない文でも書こうかと。

 

 キーボードだ。

 

 今日スタジオに行く途中、道玄坂でランボルギーニ社のアヴェンタドールというクルマを見つけた。クルマというのは壊れることなく人と荷物が安全に移動できればよく、その点トヨタのカローラが世界の頂点であると私は思っているが、好事家がそうした奇妙なクルマを愛好することに異論はない。モノに凝り出すと人の好みは千差万別、早い話が蓼食う虫も好き好きだからだ。だが、高価な商品でこうしたニッチが許容されているにも拘わらず、多くの人が毎日触るキーボードにこうした自由と贅沢がないのは実に意外だ。

 

 Apple社製のデスクトップを使っている人の数パーセントは、純正の Magic Keyboardに不満をもっているのではないだろうか。不満はよく耳にするし、私自身、しばらく使うと細かな不満が少しずつ堆積する。決して悪い商品だとは言っていない。パームレストを使う必要のない草加せんべい並の薄さで、パンタグラフ方式の割には打鍵感がよく、何よりもパソコンとマッチしてカッコイイ。よく考えられている商品ではあろうと思う。だが、それはカローラを至上とするごくごくまっとうなセグメントに対してだ。40年もキーボードと毎日付き合っている、私のような人間が毎日打っていると正直だんだんウンザリしてくる。嘘だと思ったら一日一万回指でかまぼこ板をペチペチしてみるといい。僕の気持ちがわかるから。

 

 さて、純正にうんざりしたところからキーボード放浪が始まるわけだが、Appleユーザーには放浪する余地すらあまりない。試すべきキーボードのほとんどはWin仕様で、Appleの純正配列を踏襲するものはごくわずか。気に入ったキーボードを使うためには、Karabinerとかのソフトでの配列変換が不可欠だからだ。

 

 ある程度の不便を承知で最近買ったのは、Razer Black widow緑軸。色がいろいろ変わるgaming keyboard。これは楽しめた。メカニカル方式で緑軸。そろばん塾のような音が四六時中するので活気があって大変よろしいが、僕の場合2日以上の連続使用には耐えない。仕事の度にそろばん塾を手元で開業されてもなんだか落ち着かない。しかもmac用の制御ソフトが最新OS-BigSurについて来ていないので、最近では派手な電飾もでてこない。

 

 で、次にAzio。これもメカニカルかな。mac配列だから何の違和感もないが、キーを打つ度に空の竹を割り箸で叩いている音がする。うんざり。嘘だと思ったら一日一万回ポケポケ音を聞いてみるといい。僕の気持ちがわかるから。

 

 で、次がこのREAL FORCEのwin版。静電容量無接点方式。物理的接点がないため、底打ちしなくても入力を認識する高級システム。打鍵感はこれがもっとも優れているが、そもそもストロークが深すぎで、押す度に「どれだけ押さなければならないのか」という気がしてくる。先代貴乃花じゃないんだから、土俵際で粘られても困る。素直に押し出されろよと打鍵の度に面白くない。普段さっさと底打ちする草加せんべいに慣れている身にとっては思いの外辛い。それにこのキーボード、所詮はWIN専用。いくら配列を変えようが、キーボードのコマはWINDOWS仕様だから、10分に一回ぐらいはミスタッチをする。うんざりだ。嘘だと思ったら、興が乗ってここぞという場面で必ずCMが入る動画サイトを想像するといい。僕の気持ちがわかるから。

 

 でだ。今回のREALFORCE FOR MAC。このキーボードは30gの力で入力でき、さらにAPC、各キーの反応位置をキー毎に制御できる仕組みが付いている。今は全キーを最淺1.5ミリで入力される設定にしているため、底打ちすることなく、キーボードの表面を撫でるだけで入力ができる、夢のフラットライド。クルマで言えばできのいいエアサスでドライブしているような感覚だ。しかもやっと東プレが発売したマック配列。まぁ普通は文句はない、はずだ。

 

 

 でもなぁ、欲を言えばキーボード本体の自重が欲しい。人間の指先の感覚は私たちが想像する以上に繊細で、重く揺るぎのないものに乗せているときと軽いものに乗せているときは心地が随分異なる。特に可動物であるキーを相手にしている指先は、それ以外の部分には揺るぎのない重さを求める。それでこそ打鍵は安定し指先から快感が生まれるのだ。このキーボードは打鍵の衝撃で動いたりしない重さは十分あるが、指先が「想像する」好ましい質量には到達していないように感じる。もっと今押したキーだけが動いている、そうした感覚が欲しい。また時折底打ちしたときに感じる「軽量」も興ざめだ。ケースがおそらくプラスチックだからだ。底打ちしたときにもケース動かず打鍵が無音の中に吸い込まれる、弾性率の低い金属の重みが欲しい。

 

 とまぁ、欲を言えばキリがない。だが、アヴェンタドールはカローラの20倍以上の価格であるにも関わらず買う人はいる。週末引っ張り出すだけのクルマにあれほどの逸脱と甘美が許されているなら、キーボードにもそうした愉悦の世界があっても良いのではないのだろうか、と僕は真剣に思う。

 

 まぁ、ランボがトヨタほど偉大になれるかはわからないけどね。