上を向いて歩こう


UNLOCK! が発売されてからもう3か月。

ごめんなさい…今更ではあるが「上を向いて歩こう」の感想を書いておきたい。

2024年1月21日パシフィコ横浜でのFanfareのファイナルのアンコールで歌われた「上を向いて歩こう」だ。リボンをいっぱい着けたアサヒが「次は長い歴史の中で愛されている日本の歌を聴いてください」と紹介してこの歌は始まる。


分かりやすいように、初めに曲の構成とリードボーカルを書いておく。この曲はシンプルで2種類のメロディしかない。よってAとBに分けることにする。


<A1> 上を向いて歩こう…  結海

<A2> 上を向いて歩こう…  ミカ

<B1> 幸せは雲のように…  全

<A3>上を向いて歩こう…  かれん

<間奏> ギター

<A4>思い出す秋の日…  MAYU

<B2>幸せは星のかげに…  miyou

<A5>上を向いて歩こう… アサヒ


以下、ブロックごとの感想を。

キーはD (坂本九さんの原曲はキーG)。


<A1>上を向いて歩こう〜 結海のソロ。

♪上を「向」いて歩「こ」う

♪涙「が」こぼ「れ」ないように

♪思い出「す」 春の「日」

♪ひと「り」ぼっちの夜


結海のソロがあまりに美しい。ピッチが正確な上に丁寧に丁寧に歌っている。きれいに澄んでいるけれど太くて強い声が響き渡る。感情も乗って強弱による表情付けも素晴らしい。伸ばす語尾にほんのわずかにビブラートかかかっているがその他はストレート。声に震えが無い。ぶるっていない。何ということだ。結海のハートの強さに驚く。5000人の聴衆を前に、しーーんと静まり返った空間で…だ。出だしの音を外してはいけない…テンポも早まってはいけない…など先頭バッターとしてのプレッシャー、しかもソロという重い緊張感に完全に勝っている歌声だ。私だったら間違いなくちびって逃げ出している💦


上の歌詞で「」で囲んだ箇所はしゃくる(音程をすこし低いところから規定の音階までスライドして上げる)ところだ。上に示したように、この後、Aブロックのリードボーカルが結海、ミカ、かれん、MAYU、アサヒと移っていくが、全員ほぼ同じ箇所でしゃくり上げている。原曲の坂本九さんはまた違った歌い方をしているので、このメンバー間で意図して合わせたものと勝手に推測している。この共通認識は興味深い。


逆に一人一人違う部分もある。

例えば♪涙がこぼ「れ」ないように…の「れ」と、♪ひと「り」ぼっちの夜…の「り」だ(同じ箇所だがパートによって歌詞は変わる)。これについてはそれぞれのパートで述べていきたい。

 結海は♪こぼ「れ」〜は地声で強く張る。このパートの中でのクライマックスらしい声の張りだ。リード5人の中で最強の張り方だ。逆に♪ひと「り」は裏声で抜いている。しかも敢えてリズムを崩して「り」の後に余韻を残して溜めている。この感情の乗せ方がまた素晴らしいではないか。結海さん、満点!


<A2> ♪上を向いて歩こう〜 ミカのリード。

このパートの冒頭、miyouのベース的な5度の♪ラー が入る。その半拍後にミカの♪上を…だ。この入り方は相当難しい。どうやってリズムを取っているのか⁈

♪歩こう からかれんの上ハモが入る。とてもキレイ。下ハモはベース的な音から続いてmiyouか?

♪思い出す夏の日… の一瞬前にミカはアサヒとアイコンタクトを取りリズムを揃えている。アサヒは上ハモ。単純な3度ウーアーでなく5度や3度を織り交ぜたハモでとてもキレイ。アサヒ&ミカのコンビネーションはいつも良い。

♪夏の日 の直後にMAYUの追っかけコーラスが入るが、その後に隙間なくそのまま字ハモに入っている。さすがMAYU。

ミカパートのクライマックスは♪星「を」 の箇所だが、この「を」1文字の中で弱→強へクレッシェンドしている。さすが技術のミカだ。かわりに♪ひと「り」 は結海ほとは抜きはなく平坦だ。

この2人のリードのパートまではリズムはフリーなので溜めたりしてリズムを崩しながら歌っている。それだけにハーモニーで息を合わせるのは難度が高いはずだ。


<B1> ♪幸せは雲の上に〜 全員のパートだ。

かれんが優しく見守る中、残り5人で♪ルルルル のコーラス。上昇フレーズと下降フレーズがうまくハーモニーとなっている。♪幸せは雲の上に… は曲全体のクライマックスのひとつ。全員がフォルテで強く歌う。最後の「に」のMAYUの音は7thかな。濁り具合が良い。

次の♪幸せは は一転してピアニシモで。

同じくここの♪幸せは でミカが優しい目で結海を見る。これを受けて結海もまた優しく♪空の上に〜。 くぅー、優しさのバトンだ。

その後の♪uuuuu〜u、また上昇フレーズと下降フレーズのハーモニー。ここもオシャレだ。上昇フレーズはかれん? ♪ソララ♯レミーラ。下降フレーズはミカ? ♪ソソ♭ミレ「レーラ」。ここは普通なら「ミーラ」がすぐ思い浮かぶ音階だが「レーラ」にすることでテンションになっている。この<B1>の一連のコンビネーション、間の取り方、強弱の一体感、ハーモニーのオシャレさは素晴らしすぎる。全員、満点!


<A3> ♪上を向いて歩こう〜 かれんリード。

miyouは同様にベース的な入りから下ハモ。上ハモは結海か。♪こぼ「れ」ないように の「れ」は地声で強く張るのではなく、抑えたミックスボイスか?結海やミカとは違う表現だ。♪歩く では相変わらずMAYUが追っかけコーラスからの上ハモの連続技。かれんの♪ひと「り」 は声が大きくならないように抑えている。表情には感情がよく出ているので敢えて抑えていることがよくわかる。これが(この場面での)かれん流の表現だ。


<間奏> ギター🎸


<A4> ♪思い出す秋の日〜 MAYUリード。

ここは一切のハモりなくMAYUの歌声だけで勝負だ。

♪思い出「す」 秋の「日」の語尾の抜き方!スーッと引いてキレイなビブラート。さすがMAYU、抜きの天才だ。ハモりが無いのもうなづける。この歌声だけで十分に聴き惚れてしまうのだ。実はこの曲で一番心に沁みるパートかもしれない。


<B2>♪幸せは星のかげに〜 miリード。

<A4>のしんみりした空気から一転してクライマックスへ。と思ったらmiyouのソロ部分はまたしんみりと。これもMAYU同様に心に沁みるなあ。ラストに向けてハスキー2人衆を並べてきた感じ?


<A5>  ♪上を向いて歩こう〜 

トリは今やリトグリのメインボーカリスト、アサヒのリード。上ハモはかれん、下ハモはmiyou。

♪涙がこぼ「れ」ないように…の盛り上がりの美しいこと美しいこと。「れ」に至るまでのだんだん強くなる地声が滑らかで力強い。で、続く♪ように〜でスーッと音量を絞り、♪泣きながら はピアニシモ。

♪歩く〜で少し戻す。今更だが、アサヒはうまいなあ。この一連の強弱による表情付けは一番うまい。


同時に♪泣きながら…で上ハモが結海に移る。そしてMAYUは例の追っかけからの下ハモ連続技。

アサヒの♪ひと「り」は、やはり息を抜きながらのしゃくりだ。滑らかさは絶品。

♪ひとりぼっちの夜〜を繰り返して曲が終わる。

素晴らしい👏👏👏👏👏👏





この曲はほぼヨナ抜き音階(4度と7度の音を抜いた音階)という和的な音階で構成されている。

(*但しBブロックの♪幸せは〜の「しあわ」の部分のみ4度の音が使われている) 

そして題名を見ると前向きではあるが、何とも物悲しい歌詞である。6人の歌声は、このヨナ抜き音階の物悲しい世界観を見事に醸し出している。メンバーそれぞれの個性を活かしつつ、丁寧に丁寧に丁寧に、実に見事に仕上げている。


同じメロディが何回も並ぶので、それぞれのメンバーの歌い方が見えて面白い。共通のところ、個性のところ。共通はすでに述べたようにしゃくる箇所。あともう1点は、音階が上っていくフレーズはクレッシェンド、音階が下っていくフレーズはデクレッシェンド、が基本となっているところだ。たまに上りで抜くところは逆にグッとくる。♪ひと「り」…がそうだ。

一方、個性の違いは、抜き方や張り方や強弱の付け方などに現れており、実に興味深い。


実はこの曲は旧5人体制のときにMステに出演、「元気がでるウルトラソングメドレー」と題してメドレーの1曲目に歌ったことがある。芹奈の素晴らしいリードが冴えた。また、カップソングとしてもアカペラで(カップを回しながら)歌っていた。リードはmanakaだった。

アカペラはもちろんリトグリの真骨頂であるが、何せメドレーが多く、1曲まるごとを(ほぼ)フルでやり切るのは稀だ。今回も途中でギター1本のみが入ってはいるが、それでも十分にアカペラとして堪能できる貴重な作品である。

(一切の楽器を使わない"完全フルアカペラ"は実は「You don't know nothing」だけか? 「Dear My Friend」はリトグリ単独ではないし…)


完全フルアカペラの曲ってこんなに良いものなんですよ。泣けるほど良い。だから、もっとあってもいいんじゃない?

贅沢は言いません。1アルバムに1曲……切に願います。