アカペラメドレー2024


8月9日、リトグリが表題のアカペラメドレーをYouTubeで公開した。

強烈なインパクトのメドレーだ。

今回ほどブログで感想を書いて欲しいというリクエストをいただいた作品はなかった。ブログのコメントのみならずダイレクトでの依頼なども来た。それほど視聴者にインパクトを与えたということだ。しかも聴いて即の強烈なインパクトだ。

今回は全曲英語かつ有名な曲が並んでいる。馴染みの曲の方がアカペラとして聴いた時により心に入ってくる。知らない曲の場合は無意識のうちに、こんな曲なんだ、と"探り探り"に聴く分だけ余計な神経を使うが、馴染みの曲だと全神経をアカペラのアレンジや歌唱力に注ぐことができるからだろう。

そして何より今回のメドレーは(も)リトグリの技術を詰めに詰めた仕上がりだ。ハーモニーはもちろんのこと、リズム、強弱、ノリ、曲全体のストーリー性において完璧と言える作品ではないか。

だから依頼をいくつもいただいたのだと思っている。

私ごときのエセ音感、エセリズム感では捉えきらない、説明できないスゴ技が散りばめられているが、とにかくできる範囲で感想を書いてみたい。

間違いや不勉強な点は多々あるかと思いますがご了承を。


まずはメドレー全体の構成だ。

同時に原曲キーと今回キー、加えて歌唱時間(秒数)を並べてみた。カバー曲のアーティスト名は省略。


①One Last Time  原曲A♭  今回A♭  (57秒)

②Butter              原曲A♭  今回A♭  (32秒)

③What Makes You Beautiful 原曲E 今回A♭(20秒)

④Water              原曲G♭   今回A♭  (16秒)

⑤Dancing Queen 原曲A     今回A♭   (30秒)

⑥Daft Punk        原曲D     今回D       (48秒)

⑦This is me        原曲D     今回D       (58秒)


①②⑥⑦は原曲キー通りに、③④⑤はA♭に移調している。これまで何回も何回も書いているが、キー(調)が違えば転調が発生する。転調を声(音感)だけでやろうとすると曲と曲の繋ぎ目が非常に難しくなる。楽器伴奏が無いアカペラなら何倍も難しくなる。

だから①②に合わせて③④⑤をA♭に移調している。

この構成だとメドレーの中で転調の発生するのは⑤と⑥、ここのつなぎ方の難度が高いことになる。どのように繋いだかは後述。


また秒数で言うと、最初①と最後⑦に時間をかけている。これは導入と締めだから理解できる。加えて⑥にもそれなりの時間をかけている。これも後述。


では曲ごとに気づいたところや感想を。


◾️①One Last Time     (57秒)

かれんリードからスタート。MAYUとミカが下ハモ。お得意の"息で入る"スタートだ。この導入部のパートには決まったリズムがない。ゆえにかれんの思うがままに伸ばしたり間を取ったりできる。MAYUとミカは練習とアイコンタクトによってのみ合わせることができる。キレイなハーモニーだ。

続いてmiyouリードでアサヒと結海が下ハモ。これも同様に決まったリズムが無いのでmiyouについてゆく。キレイなハーモニー。

ここでループステーションの登場だ。



島村楽器の公式サイトから引用


miyouがループステーションの左下の丸いボタン?を押す。するとボタンの周りのライトが赤色に変わる。

つまりこの場でmiyouのボイパ ♪ブー(ツ)  x4回 を録音している。4拍=1小節分のリズムの出来上がりだ。次の小節の頭でもう一度ボタンを押すとライトは緑色に変わり、これ以降ずっと録音した ♪ブー(ツ)が流れ続ける仕組みだ。

miyouの♪ブーツx4回のテンポ次第で曲のテンポが決まってしまう。このループステーションによるリズムは③の曲までぶっ通しで続くので、ここで速すぎたり遅すぎたりは厳禁。miyouのリズム感覚が非常に重要になってくる。結果、実に良いリズムを打てている。


このリズムをバックに結海リードでアカペラ再開。

MAYUがベース(miyouも?)、残り4人は字ハモと♪tutuーtutuを切り替えながらのハーモニー。

結海は声が通って良い。♪I need to be のところでファルセットでなく少しミックスボイスが入るが、ここの音量が落ちないどころか、ボワーっと太く広がって逆によく通る。ア行とオ行の奥行きある声も良い。


◾️②Butter  (32秒)

前曲と同じキーとは言えmiyouリードの出だしの音はやや難しい。前曲の最後の主音がG(ソ)だが、miyou出だしの音はこれより半音下のソ♭。わかりやすくハ長調(ドレミファソラシド)で言うと、普通はドとかミとかから始まるが、このButterはシから始まる。いわゆる7thの音だ。キーと1音違いなので調和しないスリリングな感じが良い。いきなり無伴奏でこの音を出すのはやや難しい。


♪Smooth like butter…ここではBTS原曲の2番を歌っている。もう出だしからmiyouのボーカルに圧倒される。この手の曲はmiyouの真骨頂だ。ノリが最高にカッコいい。ただ英語がうまい日本人が歌ってもこうはいかない。説明できない何かが違う。

MAYUのベースがまた良い。2~3小節目はリードとベースのデュオ。リズムと闘いながら最後はニヤリ。

と、4小節めにスゴ技が来た。♪To remind me you got it でアサヒとミカのハッキリとした上ハモが来たと思ったら次の瞬間、♪bad  でリードmiyouと下ハモかれんの鬼のようなハモリ。主音のmiyouは♪ラ♭ソ♭ミ♭レ♭シラ♭と1オクターブ分を駆け降りる。マイナーペンタトニックというスケールだ。これに対して下ハモかれんはドから下のドまでペンタトニックスケールで1オクターブ駆け降りてついて行く。

ハア?これ16分音符の速さだよ? miyouのリードだけでも難度高いのに、ハモってついて行く?しかもこのスケールを? BTSだってここはソロだよ?ハア?

意味ワカリマセン、超人かれん。

その後MAYUのリードもいい調子。♪into two のファルセットはご機嫌だ。その後またかれんの♪uuuuuーは地声→裏声への切り替えでキレイに1オクターブ駆け上がる。と、miyouとミカの美英語コンビの♪Do the boogie like!がビシっと決まりサビへ突入… どうだ、このカッコよさは。

サビのリード前半はかれん。キレが良い。♪rock with my baby もかれんだけでなく全体がキレッキレで小気味良い。後半リードはミカ。これまた輪郭がハッキリとした密度の濃い声で良すぎる。♪talk is cheap の切り方もイケてる。正確なピッチでミカの良さが伝わってくる。このButterは本家BTSに是非聴かせてあげたい。


◾️③What Makes You Beautiful   (20秒)

Butterの終わりでミカリードだけになり、この曲が被さってくる。同じキーならではだ。アサヒがリード、かれんとmiyouは字ハモ、ウーアーがミカと結海、そしてベースは変わらずMAYUという構成だ。ウーアーのミカと結海は笑顔のアイコンタクトでキレイなハーモニー。リードのアサヒはいつもの安定&ご機嫌だ。

1:42辺りで視線を右上(向かって左上)に向ける可愛らしさは何だww アサヒがご機嫌だと曲に花が咲くようだ。ご機嫌なリードが終わったと思った瞬間、ミカ結海の♪ダッダッダ のコーラスにアサヒも参加しているように見えるのだが?… 元気いっぱいの声から調和の声へ隙間なく変化させるって、何という音量調節力だ。さすがオールマイティ アサヒだ。

そしてこの♪ダッダッダの直前にすかさずmiyouがループステーションのボタンを押してOFFにしている。

(このあたり、ホントに一発録りだなあ、と感心)


◾️④Water   (16秒)

リードはmiyou、オクターブ下ユニゾンでMAYU。

この低音が実に効果的でユニゾンのキレイさが倍増されている。

さて、かれん、アサヒ、結海、によるバックコーラス、そしてミカ!これはやっかい過ぎるほど難しいことをやっている。

♪ダッダッダを前曲の終わりのように書いてしまったが実はこのWaterの始まりだった。

かれんアサヒ結海は初めの小節の前半2拍で♪ダッダッダ という3連音符を打ち、次の小節の前半2泊で♪ダーー と伸ばすコーラス。次の小節ではまた♪ダッダッダ…というふうに交互に繰り返している。♪ダッダッダは2拍分のうちに3つ打つので2拍3連のテクニック。

ここまでは理解できるのだが、問題はミカだ。

ミカひとりがまた違うリズムを刻みながらコーラスしているのだが…これが難解で正解がわからない。予想としては、"ウラの2拍3連"を繰り返しているのか?

3連音符にウラをつけて6連と考えて2,4,6番目のいわゆるウラ拍だけで3連音符を作っているのか? どなたか詳しい方いらっしゃれば是非ご教示ください。


さて、これほど複雑なコーラスをよそにmiyouが抜群のセンスを発揮している。タメがすごい。特にそれぞれの♪Make me の後のワードのタメ。見るとmiyouだけは2分音符(4拍のうちの2拍分ひとまとめ)くらいのゆったりとした速度でカラダを左右に動かしてリズムを取っている。普通ならアサヒや結海のようにタンタンタンタンと4拍でリズムを取っていくのだが、彼女独特のルーズ感を出す所作だろう。複雑なコーラスをやっている横でこのルーズなノリはカッコ良すぎでしょ。それに見事に合わせているMAYUもクールだ。


◾️⑤Dancing Queen   (30秒)

♪tutututu…一方は初めの音階キープでそのまま、一方は音階が上っていく、というコーラスから馴染みのフレーズをアサヒが奏でる。あ、Dancing Queenだ、と懐かしんでしまう。アサヒの透き通った声を引き取ったミカのリードボーカルは強い。Butter同様に輪郭がハッキリとして密度が濃い声だから、この厚みのあるコーラスをバックにしてもキレイに浮き立つ。

このメロディアスなコーラスは涙ものだ。乱れが一粒もなくキレイなハーモニーだ。♪You can dance の正統派3度ハモから♪You can jive の半音上がり感(ディミニッシュ)が相変わらず素晴らしい。

♪Onh, see the girl のところで急に低音を効かすアレンジも素晴らしい。メンバーそれぞれがいい味出している。やっぱりこの歌は好きだなあ。フルで再度やって欲しい。


◾️⑥Daft Punk  (48秒)

ここで空気が一変する。前曲の途中でハーモニーをやめた結海がおもむろに♪Buy it, use it…と歌い出す。

ついに来た。Daft Punkだ。昔々、関西のローカルTV番組でリトグリ自身がアカペラのすごい曲としてDaft Punkを紹介していたが、いつかやるんじゃないか?と

ずっと思っていた。ようやくたどり着いた。感慨深い。このアカペラではある部分を通しで歌うのでなく

Daft Punkの印象的な部分を寄せ集めて詰め込んだ形だ。だから48秒にもなっているし、ここに力を注いでいるのがわかる。実際これは技術の宝箱だ。


まず結海の入りだ。冒頭に⑤と⑥のつなぎが難しいと書いたのはここ。つなぎも何もなく強引に歌い出すやり方だ。

直前の曲の最後の主音A♭が頭に残っているはずだが、何の関係もないDの音階をいきなり出す。これはかなりの音感が必要だ。前にどんな音が邪魔してもきちんと狙った音階を出す音感。

結海D、かれんG、ミカB、アサヒG♭と2小節遅れでそれぞれが入るのだが、結海はDのまま、かれん、ミカは2小節ごとに音階が移動してアサヒが入る頃にはコードDが完成するという魔法のような遷移だ。

ちなみにミカはマイクにオクターバーをかけて1オクターブ(2オクターブか?)下の音に電気的に変換している。また全員のマイクにもディレイというエフェクターがかかっているように思われる。リバーブとも似ているがおそらく音を複製して2重にし一方をわずかにずらして響かせる効果だと思われる。


アサヒのリードが始まる。画面には映っていないがここでmiyouが再びループステーションをONにしたに違いない。ここでもMAYUがオクターブ下ユニゾンで深みを出してくれている。

バックはこれまた複雑なコーラスだ。

おさらいだが、1小節は4拍で成り立っている。

ここでは1小節目は前半2拍が3連符、後半2拍がウラ3連符のうち2つ。2小節目は前半3連符、後半2拍も3連符。3小節目は1小節目と同じ。4小節目は前半3連のみ後半2拍は無く♪Ahー A のコーラス。ここのラストでmiyouのヒューっという風のような電子音が入る。


ここからまたまた高難度が続く。

♪Work it harder, make it better…のブロックはピッチとタイミングとの闘いだ。

1人が1拍ずつ歌い替わるという鬼のようなタイミングだ。1人が1小節ではなく、1拍ずつだ(その1拍の中に8分音符が2個入っている)。♪Work it はミカ、

♪harderはMAYU、♪make itはアサヒ、♪betterは結海…というふうに目まぐるしく入れ替わる。しかもだ。音階がこれまた鬼のような飛び方でもはや調を成していない。すっとんきょうな音階が飛び出すのだ。

詳細は割愛するがミカだけ例に取って紹介する。

順番1回目BD、2回目AA、3回目A♭ A♭、4回目GB

という具合だ。後半の結海やかれんの音階などは変態的ですらある。このパート、ピッチとリズムを崩さずに歌うことはスゴ技中のスゴ技だろう。

ここでミカが2本のマイクを使っているが、1本は先ほどのオクターバーでもう1本は通常のマイク。1人でオクターブユニゾンの完成だ。


♪We are up all night till the sunからはいわゆるウラのリズムの連続だ。♪We と♪sun だけがオモテのリズムでその中に挟まれる全てはウラ打ちとなる。

これ、1回だけなら簡単だが、連続するとなかなか難しい。後半は特にオモテリズムでビートが入ってくるのでそのプレッシャーで頭の中がカオスになってくる。

実際、miyouなどは手でしきりに拍子を取りながらリズムをキープしようと闘っているのがわかる。

ちなみにmiyouはここでも風のような電子音を所々で出している。彼女のインスタで「久しぶりにビートボックスをやった」ようなことを書いていたが、「ボイパ」でなくボイパに加えて他の効果音まで出す「ビートボックス」という表現に敢えてしたのだと思う。


いやあ、このDaft Punkというのは恐ろしい曲だ。たったこれだけの抜粋でもPENTATONIXの偉大さがわかる。


◾️⑦This is me   (58秒)

ミカが例のオクターバーがかかった方のマイクをスタンドに置く。この間すべての音は一旦ストップ。

で、MAYU→ミカ→アサヒ→miyouの順にソレ♭ミソのコードA7を完成し次のかれんリードへとつなぐ。

前曲が荒れた曲で脳内がかき回されるのでこのMAYUのソの音も前曲とキーは同じものの、なかなか大変なはずだ。

また後に続く3人のベルトーンのタイミングで曲のテンポが決まってしまうのでこれも簡単なようで簡単でない。


かれんリード。コーラスが美しい。この後の盛り上がりを待ちながら静かにハーモニー。

かれんが♪This is meを歌い終わるや否や、5人の全力コーラスが口火を切る。ここから12小節のあいだ、怒涛のコーラスとかれんのハイトーンボイスが続く。

リードはミカで主に字ハモがアサヒと結海。ウーアーがMAYUとmiyou。ここでもミカと結海のアイコンタクトで一体感を出そうとしている。コーラスが厚くて嬉しくなる。その上でかれんの追っかけの高音が冴え渡る。♪Look at, 'cause here I come の ♪comeを伸ばす音が一番高音。ミックスボイスだがF♯5という高音。さらに一瞬だが2箇所でその半音上のG5をだしている。かれんは先日「Catch me if you can」でG5を地声で出した実績がある。だからここでも地声を出せるのだが全体の調和を考慮してミックスボイスで抑えたものと考えている。喉の調子などを考えずに勝手なことを言えば、地声のThis is me も聞いてみたいものだ。さらに迫力がupして爆発するのではないか。


怒涛のコーラスの後半♪Wo wo wo wo のコーラスのミカとMAYU上ハモが美しい。そしていよいよThis is meが終わる。This is meに関して言えば、技術的に鬼のような難しさはないが、全力ハーモニー、全力ボーカルによって私たちの心に一番刺さるのではないか。 

そしてオーラス。キレイなHa a a aーから跳ね上がってこのアカペラメドレー2024が幕を閉じる。リトグリお得意の終わり方だ。


全体ストーリーをひとつの曲として捉えるなら、初めの4曲がAメロBメロ的で、Dancing Queenがサビ。

Cメロ的な扱いでDaft Punkがあり、落ちサビ〜大サビはThis is me という感じだろう。

リトグリの音感力、正確な音程、正確なリズムとタイミング、細かな技術、ノリの共有、一体感を存分に引き出した実に見事なメドレーだと思う。私の拙い感想ではとても描ききれない事を申し訳なく思う。


このアカペラメドレー2024は是非とも世界に発信したい。これだけのアカペラを「ライブ」でやれるグループはそうはいない。ステージの初めから観客を釘付けにする大きな武器になるだろう。


ダンスや視覚がもてはやされる現代の中で、ダンスを否定することなく、かつ、ハーモニーという核をしっかり持って勝負するグループを私は誇らしく思う。