ちわわわっす。ホワイトデーをまさかの3月15日だと勘違いしてしましたwww
そんな感じでブログ連載も終了したのでたまたま書く気が起こったLifriendでバレンタインデーの小話と、バレンタイデー小話書いたならホワイトデーもだな、ってことでこの記事に一括で載せます。
Lifriendの話の根源を覆す世界線というかパラレルワールドでして、主人公の死んだカレシと初音が共存している世界という原作矛盾のトンデモ世界線なのでよろしくです。
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ヴァレンタインデーって言うんですよ、青年は穏やかに目を眇めながらそう言った。復唱してみる。異国の横文字のような単語をさらに慣れない発音で青年は言ったが、初音には難しかった。小皿に入った茶色のカケラを横から手に取り口に入れる。これは美味しいやつだ、という経験から、口に入れることに躊躇いはなかった。青年は綺麗にラッピングされたカップケーキや小さな箱、クッキーの入った袋をテーブルに並べている。小さな糊の付いたメモや手紙だけを集めて手に収める。
「ふぅん。」
縁の遠そうな話だ。僅かに、ほんの僅かに身に覚えのあるような光景が脳裏を過るがそれだけだった。
「知りませんでした?」
これ美味い、と呟く初音に馬鹿にするでもなく青年は顔を覗き込むように首を傾げて訊ねる。
「知らな~い」
「初音さん、モテそうなのに…今までチョコ貰ったこととかありません?」
世辞ではないようで、青年は少し驚いた表情を浮かべる。今まで、と言われても、青年が思うほどの年月を人間としては生きていない。
「ない、けど」
青年が真顔になり、視線を泳がせる。
「え、でも」
「あ~アイツだろ?なんかカレシとよろしくやってる感じだから入る隙ねーもん俺」
初音が困ったように言う、アイツ。契約相手の女だ。青年は彼女を好いているらしいが、カレシ持ちだと知るや否や言い寄るのをやめたらしい。
「なんかホッとしました」
「ンだよそれ」
初音が青年の意中の相手から好意の証をもらっていないことに、青年は安堵を隠さない。初音は苦笑した。
「なんて冗談ですよ。半分は、ですけど。でも相変わらずなんですね」
「ホントだよ。毎日いちゃいちゃしやがって」
「でも初音さん、なんだかんだ楽しそうですよ」
笑う青年に初音は、う、と唸ってまた茶色のカケラが入った小皿に手を伸ばす。表面に凹凸がいくつも浮かぶ茶色の薄い板状のものが乱雑に割られて小皿に入っている。
「それ、オレから初音さんへのヴァレンタインチョコです」
初音が摘み食いしている小皿を差す。
「マジ?」
「結構マジのつもりですけどね」
小皿に伸ばしかけた手を止め、初音は青年を見遣る。
「これめっさ美味いけどさ、」
「余り物ですけど喜んで頂けてよかった」
「でもさすがに-」
初音は伸ばした手を引っ込める。。その時チャイムが鳴って、すぐに青年が立ち上がった。
「あれ、どうなさいました?」
玄関へ向かった青年の声が上擦っている。アイツだ、初音は口内に広がる甘みを飲み込んで玄関の方へ意識を向ける。
『初音くん、多分片岡くんに何も渡してないでしょ?ごめんね!私と初音くんから、ってことで』
初音は自身の名が出たことにぎょっとする。
「え、いいんですか?ありがとうございます、すごい、嬉しい…」
青年の声が大きく上がる。
『ううん、初音くんがお世話になってるし、初音くんもチョコ溶かすの手伝ってくれたんだよ』
昨夜、意味も分からず溶かした物と、この小皿の破片は同じ甘さ、同じ苦味。同じ味。色も形も似ていた気がする。
「ありがとうございます!」
暫く何か世間話をして、そして青年が戻ってくる。契約相手は帰ったようだ。
「よく分からん行事だな」
「そうですか?明解だと思いますけど。どういう意味でも好きな人にお菓子渡せばいいんですから」
「どういう意味でも好きな人に?」
青年がそうです、と返してから、また小皿に手が伸びた。
「…いや、待てよ。嫌われてるってコトか、それ」
口の中に割れる音を響かせながら初音の頭の中である方程式が出来上がる。
「はい?誰にです?」
脇に座る青年の疑問に気付くことなく、べたりと座っていた身体を起こす。立ち上がった初音を見上げて青年は首を傾げる。
「ちょっと、初音さん?」
突然玄関へと歩き出す初音を青年は追う。どこ行くんです?と問いかけてからまた居間に戻り、軽く火の元を確認して照明を消す。雑に掛けてある上着を取って、づかづかと外へ出て行く初音の元へ急ぐ。
「俺素直じゃないし、やっぱこんなだから?それなりに気は遣ってるつもりだったし?でもあれか、やっぱあのカレシめがっさ甘いもんな?」
初音の肩を掴んで呼び止める。言い訳を述べる子どものようにぶつぶつと捲し立てる。聞かせるつもりもないのだろう。青年が困って、けれど笑みは絶やさず初音の正面に回り込む。
「初音さんもそういうの気にするんですね」
初音が無言のまま、背の低い分青年を目線だけで見下ろす。
「嫌われてるとかではないと思いますけど。逆に近すぎて渡さないってこともあると思うんです」
言ってみてから青年は頬を引攣らせて目を逸らす。
「っていうのはあまりフォローにはなりませんね」
「いや、さんきゅ。分かんないけどそういうコトもあるかもな」
初音が不器用に口角を上げた。青年は安堵の溜息を吐く。青年のボトムスの尻ポケットに入っているらしい端末が軽快な音を2、3度立てて点滅している。一言断って青年は端末を取り出す。初音は青年から離れ、大きな河川に架かる橋の上、欄干に手を掛け、少し暗くなり始めた空を見つめる。
「ちょっと、早まらないでくださいよ?」
端末を弄りながら初音の腕を掴む青年。
「何が」
「たかがヴァレンタインですよ、メディアに踊らされているだけなんです!そんな落ち込まないでください」
青年が端末をしまって、わたわたと取り繕う。初音は青年が何故慌てているのか分からなかった。
「そんなことより行きましょ」
「どこへ?」
青年が初音の腕を掴んだまま歩き出す。青年が住んでいる、初音が出てきたアパートとは反対方向だ。
「もうこういう日は飲みましょ!オレ奢りますから、元気出してください」
初音の腕を掴んだ青年の腕がもう一本増やされる。
「いや、別に俺は」
青年に連れられやって来たところは青年の勤務先の近くの大きな駅に隣接した大型の商業施設付近だ。バスターミナルの上に設置された立体横断施設はよく見知っている場所の中でも特に立ち寄ったことが多い。
「休みにも勤務先来るの嫌じゃないの」
青年の勤務先はここからすぐにでも行けてしまう距離にある。
「ワーカーホリックみたいですね」
初音が青年の勤務先が入った建物を見つめながらそう零せば青年は全く別の方向をみて笑いながら答える。
「言ってみたらいいじゃないですか、さっき言ってたこと」
青年が引き摺るようにしていた腕が放れる。大型の雑貨屋の前のベンチに座る男女。
「態々呼んだのか」
初音が青年を振り返る。青年はただ笑うだけ。よく知る顔の女と一緒に能天気な顔をした男。
「遅くなっちゃったね」
初音は、あーともうーともつかない声を漏らして、女の顔を直視出来なかった。女が赤紫の箱を初音に差し出す。
「初音くんにはバレてるから、買った物でごめんだけど」
いいのか?カレシの目の前で?という冷やかしの言葉も浮かぶには浮かぶが声が裏返りそうで、口も開かない。
「あ、り、…さんきゅ」
差し出された箱を受け取って、初音は囁くように声に出す。女が笑って、それから男の隣にすぐ戻る。
「片岡くん、ありがとう」
女が青年に言った。青年が会釈して、それからまた初音の腕を掴んでこの場から去らされる。そのまま引き摺られるように、地下1階に相当する堀込式の施設へ連れて行かれる。沢山並んだテーブルとイスの一角に座らされる。おそらく向かうはずだった居酒屋、という雰囲気はない。暗くなった空が天井になっている。
「嫌われてなかったでしょ」
青年が呆れたように言った。複雑そうで、あまり明るい話題にはならないだろう、初音は返事をしなかった。
「メディアだの企業戦略に踊らされて、厄介ですよ、ほんと」
青年がテーブルの上に置いた端末を、指の背でぴんぴんと突いたの初音は見つめていた。



続きまして、WD小話です。



ぼぅっとしていた初音の肩を青年が掴む。大丈夫ですか?と僅かに挑発も入っていそうな心配していますという表情を浮かべて初音を見上げる。
「へ!?あ!?」
初音は大声を上げてしまい、掴まれた肩ともう片方の肩を浮かせた。
「考えてください、どれがいいか!」
青年は頭を抱える。初音は背丈があり容姿も秀でているためよく目立つ。
「ん~じゃあコレとか?」
図書館の本棚から適当に本を選ぶように初音は並んだ青や水色、緑の箱が並ぶ棚からひとつ薄い箱を手に取る。
「そんなテキトーでいいんですか?」
「だって分からねぇもん俺」
初音が苦笑いを向けると青年は顔を逸らす。
「だから何度も説明しているんです。チョコ貰ったんですよね?返さないと…」
「変な文化だな?貰った後日に返せばいいだろ」
唯一初音にチョコを渡した人物は返しを期待するような者でもなかった。さらにお返しをすることに躊躇いがある、それなりの相手がいる。
「中身なんてないです。形式ですから。でも世間では求められるんです」
青年はカートに箱を入れていく。棚からカートに運ばれる工程を初音は呑気に頭を動かしながら見ている。右へ左へと首が動く。じゃらされている猫のようだ。
「そんなに要るのか?」
「大体貰った数の分でいいんですよ」
青年は流れ作業のように箱を入れていく。
「すげぇな」
「前の仕事先の縦と横の繋がりがなかなか切れずにいるんです」
青年が仕事中に薄いブルーの上下の服を着て、名前の書かれた札を付けた青い紐を首に掛けていたのを見たことがあるが、前の仕事先のことは知らなかった。
「へぇ~。じゃあこれとこれでいいかな」
白いクマのぬいぐるみが青と銀のリボンを首に巻いて、緑のプレゼント箱を抱いている。おそらくプレゼント箱に何かお菓子が入っているのだろう。そして茶色のクマのぬいぐるみは赤と金のリボンを首に巻いて紫のプレゼント箱を抱いていた。
「中身確認した方がいいですよ。なんか返したお菓子によって返事に意味が出来てしまうみたいです」
初音は後ろで数を確認しながら淡々と話す青年を振り返る。
「面倒臭いな?」
「ホントですよ。マシュマロ以外ならハズレなかったと思いますけどね」
青年が初音をホワイトデーの買い出しに誘った。バレンタインデーを知らないようだから、おそらくホワイトデーも知らないだろうと。
「じゃあマシュマロにしよ」
初音が一度手に取ったクマのぬいぐるみのケースを戻す。青年は訝しむ視線を寄越す。
「まぁいちいちお返しに意味を見出されちゃやっていられないですし」
初音が置いたクマのぬいぐるみが入ったケースを青年は一瞥する。
「マシュマロここ売ってます?」
青年が尋ねながら初音が置いたクマのぬいぐるみのケースを手に取って見つめる。クマのぬいぐるみのケースに貼られた成分表を読む。白いクマがバニラ味、茶色のクマがいちご味のマシュマロ。珍しさに青年は二度見した。マシュマロの返事にネガティブな意味合いがあるのだと広まった世間で、内容はチョコレートか、キャンディか、クッキーかと思っていた。
「これマシュマロみたいですよ」
成分表を指して青年が言えば初音は再びその2つを抱えた。
「じゃあこれで決まり」
会計を済ませて、青年の重そうな量の荷物を半分持つ。人間関係を大事にしているらしい。青年の面倒見の良さは初音もよく知っている。そしてそれに助けられた。バイトを紹介されもした。そうしてやっと自分で稼いでバレンタインデーのお返しが出来る。
「返す相手が意味知らないといいですけど。でも厄介ですよね、お互いにお返しに込められたメッセージ分かってなかったら成立しませんもんね」
初音の片手で抱かれたクマのぬいぐるみのケースが2つ入った袋を一瞥して青年が言った。
「俺はマシュマロ好きだけどな」
「好きとか嫌いとかは関係ないんです。オレだってチョコ好きじゃないですから」
初音はふぅん、と興味なさそうに空を仰ぐ。曇天だが溶けたような雲の狭間から太陽が見えた。
「でも俺好きなヤツには俺の好きな物渡したい…っつーか、――には、みんなと同じ物渡すのか?」
初音が青年の黒目がちな双眸を捉えるがすぐに顔ごと逸らされる。
「みかんの飴、買ってあるんです。和風な感じの、ホワイトデーとはちょっと外れてるんですけど」
照れているのか少し様子を変えて話す青年をみて初音は笑う。
「ほぉ」
「もっとなんか、ちょっといいケーキとかにしようと思ったんですけど、カレシ居ますし、あまり出過ぎた真似は出来ないし、形に残る物もなぁ、って思って…」
言い訳をするような青年の口調。初音には分からない事情や背景があるのだろう。
「みかんっぽいよな、分かるわ」
青年の俯き気味な頭が上がって初音を見上げる。お仕置きから赦されたような犬を思わせる。
「初音さんは本当にマシュマロ好きなんですか?なんでマシュマロにしようと…」
「他のやつがどうせチョコとか返す仕組みなんだろ?」
説明された内容的にはそういうことだ。それを教えた青年もチョコレートで返すつもりはないようだが。
「渡しに行きましょうか」
「もう?夜の方がこういうのってロマンティックじゃないのか?」
夜空に上がる花火、夜だが明るい地上を歩き回るゾンビやミイラ、雪の中飾られた木や光る装飾が街中を輝かせ夜に盛り上がっていた。その数日後はやはり夜に寺の鐘が鳴り、日の出を迎える。それから少しして、世間はまたピンクの看板や真っ赤なハート形のポスターに浮足立つが、初音はそれを、見ていながら気にはならなかった。大きなイベントだとは思わなかったから。青年は眉間に皺を寄せた。
「ロマンティックってなんですか。おそらく夜は予定あるでしょうし」
青年の声音はどこか低い。気の回らない初音に呆れているのだろうか。
「なんで知ってるんだ?」
「え、多分ですけどカレシがディナーコースとか予約しているんじゃないですか?」
自棄になっている。初音は疑問符が浮かんだまま。青年はそれを説明するつもりはないらしく、ホワイトデーを渡す相手のアパートへ向かっていく。
「あれ?また片岡くんと遊んでたんだ?仲良いね」
アパートの扉が開き、初音の契約相手が出迎える。青年が初音の後ろへ隠れてしまう。
「なぁ、今日ホワイトデーなんだろ?返すわ」
初音は茶色のクマのぬいぐるみが入ったケースを渡す。恐る恐る初音の契約相手は手を伸ばす。
「初音くんホワイトデー知ってるんだ?ありがとう!」
初音の契約相手は驚いたようだ。ケースの中のクマのぬいぐるみに視線が向く。
「オレからも、お返しです」
青年が小さな薄い紙袋を渡す。開けていい?という問いにこくりと頷く。青年が渡したみかんの飴が気になり、初音も黙って凝視した。
「みかんの飴?ありがとう!みかん好きなんだ」
透明なフィルムに数個入った、みかんのひとつひとつをばらばらにしたような形の飴が入っている。和風なシールで留めてあり、レトロな雰囲気を感じさせる。
「それじゃあ、帰りますね」
「もう帰るのかよ?」
青年が初音の腕を引く。初音が青年に訊ねる。
「ごめんね、今度来た時にきちんともてなすから」
初音に言ったのか青年に言ったのか、それとも2人に言ったのかは分からなかった。おそらく青年に、だろう初音は思った。彼女はあまり初音には気を遣わないのだ。青年は初音を当然のように自宅へ通す。そうするのが自然のように。ファミリー向けのアパートなため、部屋数もあり広い。
リビングにべたっと座り込む初音が、ソファの前の床に行儀良く座る青年に問う。
「他の人たちには配りにいかないのか?」
「昼から出勤です、今日は」
青年は立ち上がっていじけたように言ってリビングの横のキッチンへと向かう。
「あ、そうだ。板チョコの破片みたいなのもらったから、返すわ」
テーブルに白いクマのぬいぐるみが入ったケースを置く。
「あれくらいでお返し用意してくださったんですか」
「いや、色々ご馳走してもらってるし」
「ご馳走していたつもりはないんですけどね」
粉のレモンティーを注ぎながら、テレビを点けだす初音の背を見る。ホワイトデー特集だらけの番組も今日からは。
「マシュマロ初めて食わせてもらったし。みかんも。それから柿ピーだろ、それから…」
今日はテーブルの上に縦長の煎餅が盛ってある。
「まどかのですけどね。初めてだったんですか?そんな珍しい物でもないでしょう」
青年の妹とは休日によく遊ぶ。人見知りが激しいことを心配していた青年も、初音と遊ぶことを若干懸念もしつつ受け入れていた。
「あまり物食わないから」
青年の妹とは様々なことを話した。おやつも気前よく分けてくれた。
「そうでしたか。ありがとうございます」
白いクマのぬいぐるみを青年は見つめる。初音はテレビを見つめていた。
「マシュマロはハズレなんだろ」
「諸説あるみたいですけど、柔らかいですからね。柔らかく包んで返す、だから断るの意味になるそうなんです」
青年はぼそぼそと説明した。
「きちんと守るのか、そういうの」
「面倒だとは思いますけど、少し言葉が足りないだけで、言葉でもないメッセージで隔たりが生まれるんですよ、厄介な人間関係この上ないですけど」
初音は青年を年下に見ていたが、どこか老けたように見えた。
「もうホントに嫌になりますよ、誰か終わらせてください、この謎イベント」
「楽しいじゃねぇか、面白いダジャレ考えてキザに返すの」
はぁ?と青年は一度テーブルに寄りかかり項垂れた顔を上げる。
「柔らかく包むねぇ…何を柔らかく包んだんだ。なら黒幕はイチゴジャム、チョコソース、リンゴジャムだな」
初音が初めて食べたというマシュマロは子どもが食べやすいように中にジャムが入っている。青年は、はいはいと雑に返事をする。
「後悔しているんですか?マシュマロ渡したの」
「いや、後悔はしてないけど、気に入らないだけっすわ」
青年が仕事中にいつも着ていた薄いブルーの上下の服がマシュマロに似ている。青年の妹はそう言って笑っていた。