タイトル「暗く深い出口のないトンネルの入り口」

 

 イメージをしてみました。

 

 首が無くなった体を強く抱きしめ泣き叫ぶ女性の姿を足元に見ていた。

私は血塗られた刀を手に呆然と立ち尽くしている。

俺の手が奪い取った亡骸を強く抱きしめて、嘆き悲しむ姿を前にしていたたまれない気持ちになる事も許されない。

誰か今ここで俺を殺してくれないか。頼む・・・・・

自分が生きている事をこれ程後悔する事が他にあるものか・・・・・

 

えへ・・・・   自死するしかないか・・・・・・・・

 

 「オイ! 行くぞ! 早く車に乗れ!!・・・・・」

 

背後から上官の声が聞こえた。先にあいつを殺しちまおうか・・・

 

 

 BAN! BAN!

 

俺を囲んで立ちすくむ数分前までの仲間たち。

 

誰か俺を殺してくれる奴はいないのか・・・・・

 

俺は車に揺られるまま生きる屍。もうどうにでもなれ・・・

 

   完

 

 

 

 前回に引き続き進めます。内容的に嫌だと思ったら直ぐに読むのをやめてください。

それでも書く理由は日常的な事ではないのは百も承知なのですが、戦争のニュースの向こうで起きていることは罪という観点ではなくとも自滅に向かう道で絶対に引き返せない事なのだという事を一緒に考えて頂きたいが為に書きます。

 

 前回の話の核である映画作品「月」の主人公についてここで再確認しておきたいのは加害者は大量殺人犯ではあったが無差別殺人ではないという事。

そして、誤解してはならないのは障がい者を一括りに対象とした犯罪でもないということ。その動機は個人的な感情に基づくものでもなく犯人は社会的に又はその家族の為に意思疎通の出来ない障がい者は不幸を生むという一方的な理由で対象にして犯罪に及んだというところが戦慄させる点なのです。

あの事件や映画作品についての感想の中で障がい者の方からの怒りや悲しみのコメントも多くあったと思います。

現実に辛い思いをされている方の怒りや悲しみは当然だと思います。しかし怒りや悲しみを感じた障がい者の方は犯行の対象の方ではなかったというのも事実なのです。

「ロストケア」や「月」が映画作品として「誰にも人の命を奪う権利などない」という幕引きで作品化した事は正解だったと思います。何より作品化させたことは凄く深い意味があると思います。ただ、もし僕が付け加えるなら結果としてあの事件の犯人は深く出口のないトンネルに入り込んでしまったという事実なのです。それは生涯の苦しみであり、犯人が死刑を確定させたのはおそらく出口を探しての事なのだろうと想像できるのです。

 

 

 

 地上から紛争は絶えることはないのだろう。第二次世界大戦が終戦した後でも民族や宗教を火種とした紛争はなくなることはありません。近年では湾岸戦争(1990起)、アフガニスタン戦争、(2001起)シリア内戦(2011起)と数万から数十万人の戦死者を出している戦争がおおよそ10年毎に起きています。そして現在、ロシア、ウクライナとイスラエル、パレスチナと大きな犠牲者を出しています。この流れでいくと、2030年代に戦火が大きく拡大している可能性があるかもしれませんね。

 

 日本人の思想も転換期に入っていると思います。しかし一方的な観点から仮想敵国をイメージづけるかのような報道は危険だと思います。一つの報道で偏向する事はあっても立場を変えての報道をする事も大切な筈です。僕の社会の窓は立場を変えて沢山の窓を探していきたいと思います。

終戦から4代も代替わりすれば敗戦国という記憶も史実に存在する事実でしかなく、世界情勢から我が国を見た時に未だ敗戦国のままであることに納得いかないという思想が出始めてもおかしくない頃でもあるのだろう。

「戦争を知らない子供達」という歌が70年代にありましたが本当に戦争を知らない世代は戦争体験を祖父母からも聞くことのない平成二桁以降に生まれた子供達なのではないだろうか。

 

 確かに我が国は敗戦国のまま自立しきれていない国家でもあるかもしれない。防衛力強化にシフトチェンジしつつあるようですが、国民を拉致されたまま数十年消息も分からないまま解決の糸口が見つからないという現状はとても自立した国とは思えないのも事実です。だからと言って自立してイザとなったら大義名分で起こしてはならないのも戦争でしょう。

 日々ニュースで報道されている戦争の現場では人として最も恐ろしい行為が合法的に行われているという事を知っておいて欲しいというのが今回、僕がお伝えしたい事なのです。それは通常の犯罪行為と違って合法的であったとしても行為の後に来る心の傷跡というものは歪な現象として埒が明かないまま不幸を連鎖させていくものだと・・・・

 冒頭で書いた戦地のイメージは全く個人的な動機もないまま目の前の人間を殺める事を義務付けられ、人間同士でありながら意思の疎通も必要とせずに合法的に人を殺すことが義務付けられている異常な事があるのというのをイメージして書いたものでした。

大義という名のもとに、時にその人の家族が見ている目の前だとしても・・・

しかし、その行為の後に来る心のダメージは自身の自滅だけでは済まされないのも恐ろしい事です。その場に居合わせた目撃者や家族などを巻き込んだ連鎖をしていく事なのです。その恐ろしさはウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナのどちらを支持するのかという次元の話ではないという事なのです。

 

★事例から

 

 包丁がクルクルと回りながら転がってくる家を想像できるだろうか・・・・

父が母に暴力を振るうのを見ている子供が居た。酔って包丁を畳に投げつける父。

 

 想像するだけで吐き気がする気がします。しかし、その父もその父(祖父)から日常的に暴力を受けて育ったとしたら見方が変わるかもしれません。そしてその祖父はその昔戦地で何の動機もないままに上官の命令のままに現地の人様の首を切っていたとしたらどうでしょうか・・・・

その負の記憶は親から子へと連鎖していくのでしょう。どれだけ心を強くしようが我慢ならないでしょう。忘れることなど出来ないでしょう。

動機もないのに現地の人達の面前で人様の首を切ったり、家を焼き払ったり、毒物を注射された人がどのようになっていくのかを目の当たりにして。殺された人の家族の阿鼻叫喚を聞いた記憶をどうしたら消せるのでしょうか。

記憶から逃げるように酒を浴びるほど飲んでも消すことも出来ず、辛い思いを理解してもらえない家族に暴力を振るう事しか出来ずに自滅していく戦争帰還兵。

日本では戦後70年以上経過してようやく2018年に「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」という団体が出来たそうです。そこに集まった方々は父や祖父等の問題行動の原因が戦地での経験から来てるものだと後になって知ることも多いようです。似た境遇の家族同士が集まると様々な共通点が出てくるのでしょう。

 日本兵の帰還者には数十万人の精神神経疾患の患者が居た可能性があるようです。というのは陸軍病院に保管されていたカルテは終戦直後に軍によって殆どが焼却されてしまっていたのです。戦争の傷跡を隠滅されていたのです。

奇跡的に残ったカルテから研究成果として「戦争とトラウマ」として出版されたのですが、その心の傷跡を何の為に隠さなければならなかったのでしょうか。後にあるであろう戦争犯罪による軍事裁判の為でしょうか。大切なのは生き残った人たちにどれだけのダメージが残ったのか後世に伝える事だった筈です。

 

 

 改めて日本の戦争を考えてみるとどうでしょうか。アメリカと地上戦があった沖縄の人達の感情は地上戦が無かった本土の人達と違っているのは何故でしょうか?

東京大空襲を始め本土で行われた空襲や原爆投下で亡くした人たちの数は沖縄戦と比較にならない程に多かった筈です。しかし戦場として見た光景に大きな違いがあったのかもしれません。目の前で家族が敵兵に虐殺された例や追い詰められて自決した事を見聞きした連鎖と爆撃で見えない敵に殺されたのでは記憶の残り方に違いがあるのではないのかと思いました。

 中国や韓国での対日感情の拗れの一因に過去に日本兵に目の前で自分の家族や同胞を殺された例を多く見聞きしてきた事が関係しているとしたら見過ごせない部分でもあります。それは死傷者の数の問題とは違うのかもしれません。

日本兵が戦地でした事例はその数の問題ではなく、聞くに堪えない行為であることも多いのは事実なのです。例えば旧満州で起こったソ連兵からの暴虐行為を聞いて起こる感情を想像したら分かり易いかもしれません。自虐ではなく、負の歴史と向き合うことなしに誇りも何もないでしょう。そしてその後には多くの自滅していた日本兵が居たということです。

 

 

 倫理観で戦争は止められません。そんなことは誰にも出来ないのでしょう。しかし、避けられない戦争があったとしても、その利を何処かが得たとしても早く止めなければならないのが戦争であり、負の連鎖を拡大させてはならない責任が国のリーダーにはあるのではないでしょうか。

 

 現在、戦争のニュースが日常化してきています。しかしその先に起こっている負の遺産を考えてみました。取り返しがつくうちに考えていかなければならないと思いました。

 

イザ事が起きてしまうと自滅しか残されていない道に進んでしまうという事は見過ごしてはならないことなのでしょう。

 

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