今年はマイベスト、と銘打つのは辞めました。映画館での映画鑑賞は大幅に減って26本。数か月のブランクもあったので、見逃した映画や、上映されていることを知らなかった映画も多いからです。
たまたま観ることができた作品の中から、印象深い作品(Filmarkで4.0点以上をつけた作品)を7本挙げておきます。順位はありません。鑑賞した順番に並べました。
「燃えるドレスを紡いで」
Dust To Dust(日本) 関根光才監督
ファションの作り手が、ファションの墓場となっているゴミ山に出向く。温暖化の影響で世界一の干ばつ被害を被っているとされる奥地の部落を訪ねる。(ちなみにファッション産業は地球温暖化を促す2番目の産業と言われている)
いずれもケニアなのだけど、普通のデザイナーなら目を背ける悲惨な現実を直視することで、そこから新しいインスピレーションを得て、野趣あふれるコレクションをパリコレで発表するという、クリエイティブの極致のような挑戦に打って出た、日本を代表するファションデザイナー、中里唯馬さんに密着したドキュメンタリー。
名声を得ながら傲慢にならず腰が低くて努力家。彼の剥き出しの好奇心に大きな力をもらいました。ちなみに英語タイトルはDust To Dust。こうして生まれた新しいファションもまた、ゴミになるんだけどね、という容赦のないスパイスを効かせた(と僕は受け止めた)関根監督にも拍手。
「システム・クラッシャー 家に帰りたい」
Systemsprenger/System Crasher(ドイツ) ノラ・フィングシャイト監督
周囲から手の付けられない問題児とレッテルを貼られた、暴れん坊の9歳少女が主人公。救いようのない映画だという感想はある、だろうと思います。でも、いつか救われるはずと最後まで見届けた自分は何様なんだろう? そもそも救うってどういうこと? 本気で救える覚悟はある? ひょっとして自分が救われたいだけ? そんな考えがグルグル渦巻く、容赦のない刺激的な作品。けっこうグサグサ刺されます。
そして最後のニーナ・シモンの曲「Ain’t Got No, I Got Life」で作品のテーマが仄かに見えてきます。彼女がこれから周囲と折り合いをつけながら生きていくには、どうしたらいいんだろう。そういう社会ってどういう社会だろう? 観終わった後でいろんな人と会話したくなる映画ですね。制作者側に相当な覚悟がある作品だとも感じました。
救う側と救われる側の役割が固定化しちゃうのって、どこか歪(いびつ)ですよね。映画の中では、彼女にも逆の役割を担おうとしたシーンがありました。そこに安堵する気持ちはあったかな。
それにしても9歳の若さで主演した彼女へのケアは大丈夫でしょうか。そこだけが少し心配。
「哀れなるものたち」
Poor Things(英国) ヨルゴス・ランティモス監督
埋め込まれた幼児の脳から経験値を積み上げながら見識をみるみる身に纏っていく女性主人公の成長譚が痛快。エマ・ストーンの怪演が光る作品ですが、それにも増して監督のちょっぴり悪趣味も交えたセンスが最高で、画面の世界感にも魅せられました。見世物小屋のごとく、面白い人物が一杯登場したよなー。なかでも印象的だったのは船上で本を与えたご婦人。そして数十秒くらいだったけど、娼婦の館にやってきた四つ足蟹歩きのおじさん。最後に出てきた大屋敷の主はヒトラーを意識したのかな。
それにしても皆さん脱ぐわ脱ぐわ、まぐわうわ、まぐわうわ。楽しかったです。
「かくしごと」
Stay Mum(日本) 関根光才監督
嘘が嘘を呼び、その嘘が嘘を呼ぶ。壊れそうな関係性を辛うじて維持しながら生きていく登場人物たち…。原作とはラストが違うようで、何が違うのかは確認していませんが、結果的に関根光才監督が登場人物たちの背中をそっと押しているような感覚があって、そこが優しくて心地よい作品でした。ちょっとした台詞の応酬や所作だけで、何度もじわっとさせるところも心憎い。
今まで見たことがないような杏さんがいて(こんな素晴らしい俳優さんとは思ってなかった)、見事な主演でした。奥田瑛二さんの巧さはもちろんとして、酒向芳さんが抜群に良い味を出しています。どう見ても田舎のお医者さんでした。
関根光才監督(脚本)作品は、趣里さんを世に出した劇映画「生きてるだけで、愛。」、ドキュメンタリーの「太陽の塔」と「燃えるドレスを紡いで」を含め、絶大な信頼感がありましたが、今回もやっぱり素晴らしい。そして海に漂うシーンのカメラワークも素敵でした。
監督の視点、人間賛歌の描き方、性善説をベースにした世界感がとても好きなんだと思う。
「アイアム・ア・コメディアン」
I Am A Comedian(日本、韓国) 日向史有監督
ウーマンラッシュアワー村本大輔さんの41年間の生涯と生き様を、その家族もろとも容赦なくえぐり出し、丸裸にしながら、そこに高密度な涙と笑いの要素を感じさせる見事な作品でした。
自己承認欲求の強さが原動力になっている方なんだろうなと感じましたが、そのルーツともいえる幼少時代、少年時代、家族との葛藤が描かれていて、なおかつ対峙する観客にメッセージを伝える、承認してもらうための地道な努力を惜しまない様子も窺えました。
そして、テレビ界から干され、さらにコロナ禍で劇場でも観客との繋がりが持ち得なかった時期の苦悩、わずかな観客との接点が得られた時の喜びには大いに共感をおぼえました。
マスメディアに頼らず、彼自身がMEDIAとなって、笑いを交えたメッセージを伝え続けるスタンダップコメディ、日本ではまだ未開拓の世界を切り拓く先人になってくれることを期待します。お体には気を付けて。
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」
Civil War(英国、米国) アレックス・ガーランド監督
現代社会における「分断」を全米での「内戦」に置き換えた、時代を象徴する作品でした。予告編も何も見ずに、全米における内戦の映画らしい、という事前知識だけで、たまたま時間が合ったから観た作品でしたが、周到な構成で練られた秀作と感じました。
同じ米国人どうしで何故争うに至ったのか、映画のなかで説明はありません。民主党が強い州と、それ以外の州ということかな、といううっすらとした想像ははたらくものの、背景が示されないまま内戦が始まっていた、というところから映画がスタートすることに意味があったようにも思えます。それは、殺し合いにまで発展する必然性がないまま憎悪だけが肥大化した「現代」を写している、ともいえそうです。
誰と戦っているのか、何故に殺すのか、大した理由もないまま、自分の好き嫌いだけで銃をぶっ放しているかのようなシーンは、この映画のテーマそのものなんでしょうね。
息を呑むような緊迫した場面の合間に、キラキラのシーンをぶちこむ、スカしたような音楽を間に挟むなど、けっこうアクの強い演出も個人的には面白かった。いかにもA24っぽいクセの強さだなと思いましたが、A24作品であることも映画館で初めて知りました。
帰宅して調べてみると、「MEN 同じ顔の男たち」「エクス・マキナ」の監督でもあったと分かり、ニヤリです。この監督、面白い。フォローしよう。
「ぼくのお日さま」
My Sunshine(日本) 奥山大史監督
「好き」から全てが始まる少年少女。「好き」だけでは生きていけないことを悟る大人。その対比は多くの人が味わってきた「ほろ苦い過去」でしょう。映画を観ながら、思い当たる「ほろ苦い過去」が脳内で同時並行に自動再生され、切なさがこみ上げてきます。
ままならない「好き」に纏わり付いたモヤのような淡い画づくり。そしてエンドロールで流れた曲と、その歌詞をクレジットと絡めた心憎い演出。主演の3人がとても素敵だったことも印象深いです。
この監督の天才ぶりに打ちのめされました。見事な傑作です。
ところで、タクヤがさくらに見惚れる場面は「小さな恋のメロディ」へのオマージュか、それとも偶然だったのかは少し気になるところ。あの作品もまた、思春期の少年少女にとっては永遠の傑作でした。
●ドラマ部門●
年間最優秀ドラマ賞
〈テレビ〉
・海に眠るダイヤモンド
・虎に翼
・燕は戻ってこない
・アンメット
〈配信〉
・地面師たち
・極悪女王
〈俳優賞〉
石橋静河(「燕は戻ってこない」のお芝居に対して)
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追記
ドキュメンタリー映画「The Contestant」は、伝説的なバラエティ番組「進ぬ!電波少年」の企画で登場した「なすび」さんのドキュメンタリー。海外ではさまざまな映画祭で上映、HULUで配信されたようですが、日本国内では諸条件により公開されていません。1年3か月に及ぶ過酷な体験と、その後の「なすび」さんの生き様を追った作品。国内で公開されたら相当な衝撃を広げると思います。
リアリティショーの裏側を描いたドキュメンタリーはいずれ他にも制作されるでしょうから、リアリティショーの元祖とも言われる企画を取り上げたこの作品も、いずれ国内で上映されてほしいですね。
ちなみに「Rolling Stone」誌が選出する「Best Documentaries of 2024」で5位に選ばれています。
https://www.imdb.com/title/tt13940818/mediaviewer/rm3758979073/?ref_=tt_ov_i






