今日は朝から大野さんの機嫌が悪い
周りのスタッフもその尖った空気に近付けないでいる
一体なんなの?確か昨日はオフだった筈だからプライベートで何かあったのか……
俺たちメンバーだけならまだしも番組スタッフも居るんだからいつまでもこんな空気じゃやり辛いな
フゥっと溜め息をつき、ゲーム機の電源を落とした俺はふて腐れてソファーに寝そべる大野さんに声をかけた
「大野さん、どうしたんですか?何があったか知りませんがイライラしてるでしょ?」
見下ろすように声をかければ、いつになくキッと鋭い視線を向けられた
えっ?なに?ひょっとして……大野さんのイライラの原因は俺?
むくりと身体を起こした大野さんがジッと俺を見据えた
そのただならぬ雰囲気に気付いた翔さんが読みかけの新聞を畳みながら何?と立ち上がる
「………………お前さ……」
いつもより低い声。やっぱり俺に怒っていたんだ
「………なんですか?俺、なんか貴方の気に触るような事しました?」
相葉さんや潤くんも何事かと顔を上げる
大野さんを怒らせるような事をした覚えはない
だったら理由を聞くしかないでしょ
「……お前さ……ふざけんなよ……何言ってんだよ……」
「だから俺が貴方に何を言ったって言うんですか?」
「……身を委ねるってなんだよ……」
へ?……この人、何を言ってんだ?……身を委ねる?…………あっ、それってまさか……
「まさかと思うけど……映画の事ですか?」
「俺以外の男に身を委ねるとか言ってんじゃねぇよっ!!!」
大野さんの怒号が響き渡る
その瞬間、翔さんたちは呆れたと言う顔で再び元に戻っていく
「ちょっ……あんた、何言ってんだよっ……あれは仕事だろっ!」
言い終わらないうちに伸びてきたその腕にギュッと抱き締められた
「……嫌なんだよ……仕事でも……相手が先輩でもさ……お前の口からあんな言葉……嫌なんだよ……」
まるで子供じゃん……独占欲が強い子供……でもそんな大野さんが愛しくて俺はその背中に腕を回す
「分かりました……もう言いませんから機嫌直してください……俺が身も心も委ねるのは貴方だけですから……」
「……ん…絶対だぞ?……どんなに先輩がカッコ良くてもなびくなよ?」
「クスッ……貴方よりカッコ良い人なんて俺は知りませんよ」
「んふふ……ニノ、大好き……」
「俺も大好きですよ」
ふにゃりと優しい笑みを浮かべた大野さんはほんとに可愛くて……でもスイッチが入ったこの人の神々しさを俺は知っている。この人よりカッコ良い人なんていない
「…………智くん、ニノ………そろそろ良いかな?スタッフが部屋に入れなくて困ってんだけど……」
あっ、楽屋だった
思わず離れようとする俺の身体を離さないと言わんばかりにギュッと抱き締める腕に力を入れる大野さん
やれやれ、と呆れ顔の翔さんが外で待機しているスタッフに何やら話をしている
ほんとゴメン……でも今はちょっと甘えさせて……
あの仕事を受けるのは俺だって戸惑いはあった
このタイミングで先輩との初めてのタッグ。すんなりと受け入れてくれる人ばかりじゃないって事も分かっている
でも、やってみたかった。こんなチャンス2度と無いかもしれない
憧れていた先輩と初めての芝居の現場は想像しただけで俺に今までにない興奮をもたらせていた
迷った時は大野さんの言葉を思い出す
『今、目の前にある事を頑張れないやつが何を頑張れるんだよ』
そして俺は前に進んできた
未知の世界に足を踏み入れる時、俺の背中を押してくれるのはいつも大野さんだ
だから今度もこの人の言葉と愛情を胸に俺は前に進む
大野さん……もっとちょうだい
貴方の愛を……俺に勇気を与えてください
「ニノ……頑張って来い」
行ってきます
END