悪い予感はしていたが突然面会禁止になって
日本中…いや世界中
長期入院している人や 高齢者施設にいる人たち
そしてその家族や友人…
辛く 悲しく 寂しい 未曽有の事態が始まった
他の入所者さんたちと違い
夫の母は携帯電話を使うことができたので
毎日電話で会話した
母はスマホじゃなくてガラケーだったから
ビデオ通話できないのが残念だったけど…
それでも認知症を進めてはいけないと思い
毎日何時間もいろんなことを話した
朝は8時くらいにかかってくる
10時になると曜日毎に
工作、学習(算数と国語のドリル)、お風呂などがあるので
「おかあさん、そろそろ行かにゃあいけんのじゃないん?」
「もうそがぁな時間かいね?
あんたとしゃべりよったら楽しいけぇ時間をつるっと忘れてしまうで。」
お昼には夫の弟が職場から毎日電話
それが終わると母はまた私にかけてくる
16時頃には弟が帰宅して母にかけるので
「そろそろ弟がかけてくるよ。
また施設に電話して『母親と電話が繋がらん』言うて
心配するけぇね、私は一旦切るよ。」
「また夜かけてもええ?」
「もちろん、ええよ」
「でも、おたくのダンナさんがうるさいけぇのう。
もちぃと優しい男と一緒になりゃあええのに…。」
(アナタの息子さんですが…とのツッコミは入れたり入れなかったり)
スマホのスピーカーをオンにして
朝は洗濯物を干しながら
午後は横になったまま
夕方は夕飯の支度をしながら…
まるで傍にいるかのように
一日数時間おしゃべりをした
「はよー迎えに来てぇよ。」
「うん、許可が出たらすぐ行くけぇね。」
「私はなぁ、あんたのお母さんにはホンマ申し訳ない思うんじゃけど
あんたのことをホントの娘じゃ思うとるんよ。
お母さんは死んどってんじゃけぇ、私があんたのお母さんじゃけぇね。」
「(涙があふれる)…うん。ありがとうね。」
なんか・・・
こうしてパソコンで当時の会話をそのまま打っていると
また涙があふれてくる。。。
涙々で話すことも時々はあったけど
基本は明るい”義母娘”
大抵は明るく楽しく話をした
いや そうしなければ
コロナ禍のあの状況に耐えられなかったのかもしれない
「お父さんはオンナができたけぇ私をここに入れたんよ。
今でもあのオンナのとこに行きようるんじゃろ」
コロナ前のいつ頃だったか
母は突然こんなことを言い始めた
認知症による妄想だ
それは悲しいことに最後まで続いた
実はこの件に関しては事実ではないのだが
義父には結婚当初からいろいろと問題が…
その話は前回も書いたように
とんでもジイサンスペシャル回を作ってでも
後日 記そうと思う
コロナ禍の終息は見えず
母は少しずつ認知症が進んでいるように思えた
施設の下まで行き電話をかけると
介護士さんが窓を開けてくれて
母が手を振るのが見える
私も一所懸命に手を振りながら声をかける
5階なので顔ははっきり見えない
でもそこに確かに母がいる
「はよーここから出たい。
私が帰ったら一緒に暮らしてくれるんじゃろ?
1階に私と次男と孫娘が住んで
あんたらが2階で住みゃあええけのう。
お昼はふたりで一緒に食べようで」
「そうじゃね。時々はバスでおでかけして
糖尿病の人でも食べれるような
バランスのイイ美味しいお店にも行こうやぁ」
「男どもから金をしっかりもらわにゃあいけんのう」
夕飯の支度が終わって夫を待っているときにも
電話はつながったまんまだった
途中で夫が帰ってくると
「またしゃべりょうるんか。」
あきれ顔をすることもあれば
機嫌のイイときは少し話し相手をすることもあった
「お父さんを施設に入れたら家をリフォームして
一緒に住んでくれるんじゃろ?」
「おう、ジジイがおらんようになったらの。」
「私がここを出たらお父さんを入れるけぇ頼むで。」
「何べんも言わんでもわかっとるよぉ。」
同じ話を一日に何度聞いても飽きない私とは違って
仕事で疲れて帰る夫にとってはキツイことだったらしい
でも実家のリフォームのことはちゃんと考えているようで
ローン地獄の恨みもあるし
娘を奪われたままというのも許せないし
他にもいろいろとありすぎる父なので
「バアサンは元気なけぇ、どうせジジイが先にくたばる。」
夫は本気でそう考えていたらしい
母が言うように自分たちが2階に住んで
1階には弟と娘の部屋を作って
母の部屋も用意して…
ただ 認知症が進みつつあるので
施設と家を行ったり来たりの生活になる
夫も私もそう考えていた
しかし・・・
リフォームして一緒に暮らすという
義母と娘の約束は叶わなかった
施設から搬送された病院で1カ月半苦しみ続け
ひとりで天国に旅立った義母
夫と義弟と3人でかけつけたけど間に合わなかった
病室へ入れるのは2人だけだと言われ
病院の1階ロビーでひとり置いてけぼりにされ
端っこで泣き崩れるしかなかったあの日
夫も私も
今でも悔しい想いでいっぱいだ
だけど
何をどうすれば良かったのかなんて
誰にもわからなかったし…
今はただ
「次男と孫娘をお願いね。」
と繰り返していた母の想いに応えたい
けれどそれを邪魔する とんでもジイサン
本題はまだまだこれからなのです
つ づ く