1996年4月28日、オーストラリア・タスマニア島の世界遺産にもなっている観光地ポートアーサー流刑場跡で起こった無差別銃乱射事件を、「マクベス」「アサシン クリード」などで知られるオーストラリアの俊英ジャスティン・カーゼル監督が映画化。事件を引き起こした当時27歳だった犯人の青年が、なぜ銃を求め、いかに入手し、そして犯行に至ったのか。事件当日までの日常と生活を描き出す。1990年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。観光しか主な産業のない閉鎖的なコミュニティで、母と父と暮らす青年。小さなころから周囲になじめず孤立し、同級生からは本名を逆さに読みした「NITRAM(ニトラム)」という蔑称で呼ばれ、バカにされてきた。何ひとつうまくいかず、思い通りにならない人生を送る彼は、サーフボードを買うために始めた芝刈りの訪問営業の仕事で、ヘレンという女性と出会い、恋に落ちる。しかし、ヘレンとの関係は悲劇的な結末を迎えてしまう。そのことをきっかけに、彼の孤独感や怒りは増大し、精神は大きく狂っていく。「アンチヴァイラル」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主人公ニトラムを演じ、2021年・第74回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。


ニトラム NITRAM

Nitram

2021/オーストラリア

配給:セテラ・インターナショナル 

               (eiga.com)

感想


じゃむまるさんのレヴューを読ませていただいて、配信で見られる環境だったので、鑑賞しました。


『無差別銃乱射事件』の話と聞いて、まず思い出したのはガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」で、あれは、監督の描き出す全ての作品の特質と同様の、題材にふさわしくないほどの透明感があって、それとは違ったものかと思って見始めました。

でも、「ニトラム」も惨劇に焦点を当てたものではなく、そこに至る疎外感やいじめの激しさを執拗に描いた作品でもない。

ニトラムというのはMartinという名前を最後の文字から逆さまに読んだ呼び名で、その部分も、子供の頃からこんな呼び方で馬鹿にされて嫌な思いをしたんだよということが、わりとあっさりと描かれています。


普通とは違った存在感で、明らかに異質な者として扱われてきたことはわかるが、もし巡り合わせが良ければ、こんな破壊的なことをするには至らなかったかもしれないと思わせる空気感がありました。


完全に知的障害でもなく、病院に隔離されるような症状があるわけでもないけれど、明らかに何らかの病気であることはわかります。


ネット上には以下のようなコメントがありましたので引用させていただきます。


『まずニトラムは広汎性発達障害であるということ。 彼を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、こだわりの強さ、空気を読まない行動、結果を想像できない場違いな行為など彼のアスペルガー症候群の傾向をリアルに演じていて見事である。 そして知的にはボーダー、さらに反社会性パーソナリティ障害の可能性が高いといえる。』


精神科医の判断かどうかはわからないので、一応の目安としました。


作品の中でも、母親と精神科医にかかっている場面は出てきますが、その医師は、鬱の薬を処方していました。明らかにそれは違うだろうに…と思って観ていました。

しかし、本当の病名がわかったとしても、彼のそれまでの親との関わり方や、一つ一つの出来事の影響の積み重なり、加えて、最初の子供の頃の火にまつわる失敗後、同じことをまたするかもしれないと答えていたことからもわかるように、その病名が与えられたであろう生まれながらの性格・思考・行動パターンなどから、最悪の結果に行き着いてしまったというしかないように思います。


そんな子供に育ててしまったという責任と後悔と恥と、それに反する強い愛も両親にはあったでしょう。

父親は優しかったが、弱かった。

父親が自分の夢を他者に横取りされてしまった姿を見て、ニトラムの中にはまたひとつ社会や他者に対する不信や怒りの燻りが生まれたでしょう。


母親はどうでしょうか。

彼女の言葉や態度は、子供の頃からずっと続く人格否定であっただろうから、場違いな格好をしていたと言っても、父親の葬儀から追い出してしまったことは、ニトラムの自己肯定感を完全に潰してしまったと思われます。


ニトラムにとって唯一の救いは、ヘレンとの出会いであり、親ほど年上の彼女もまた孤独な身であったが、この2人は恋に落ちたわけではない。

お互いに癒しの存在となっていたのだろう。

そんな彼女を、自分のふざけた行動から事故で亡くしてしまったことは、自分自身で自分を奈落の底に突き落としてしまったことでしょう。


色々な要素が影響して、完全に彼が壊れてしまい、人を巻き込んで、銃乱射事件となり、銃規制やなんかの問題にも波及しているけれど、こういうことを起こす状況に陥った人は、銃がなければ別のもので代用するかもしれない。

確かに銃が手に入ることでこんな事件が容易に起こることにはなっています。


ニトラムの追い込まれた状況だと、他者を殺すか自殺するか、2つしか選択肢はないように思われます。


兄弟姉妹がいたらまた違っていたかもしれないと思います。


それと、これは、反対意見もあるだろうけれど、私はかなり母親の責任が大きいと思います。

母親も苦しかったというのは想像つきますが、それでも、あの母親は愛情や優しさをもっと息子に対して注ぐような人であって欲しかったです。

もっと子供だった頃から、息子の病気について学んでおくべきだったと思います。

医者も選ぶべきです。

病気なので、教育でニトラムの方が変わるとは思えないけれど、犬や猫に対する優しさはあるし、ヘレンに禁じられた時には、銃も放棄したのですから、周りの他人には無理でも、母親の対応が違っていれば…と、自分が女親で、良くできた母親ではないので、反省も込めて、余計に母親の責任が大きいと思いました。


主役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、顔は知っているのに、演じた役を思い出せません。

また他の作品も観てみようと思います。


❤︎