黒澤明監督の不朽の名作「生きる」をノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本で、イギリスを舞台にリメイクしたヒューマン・ドラマ。
主演は「ラブ・アクチュアリー」「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」のビル・ナイ、共演にエイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク。
監督は南アフリカ出身のオリヴァー・ハーマナス。
1953年のイギリス、ロンドン。
役所の市民課に勤める英国紳士の公務員ウィリアムズ。
仕事一筋の彼だったが、淡々と事務処理をこなすだけの毎日に虚しさを感じ始めていた。
そんなある日、不治の病で余命半年と宣告されてしまう。
人生の意味を問い直していく彼はやがて、それまで誰からも顧みられることのなかった地域の母親たちからのある陳情と真剣に向き合おうとするのだったが…。
(allcinema より)
感想
黒澤監督の「生きる」を観たことがないので、初めてのストーリーとして、新鮮な受け止め方ができたように思います。
最初から引き込まれる上手い導入でした。
通勤列車内での、同じ市民課で働く新人を含めた部下4人の会話から始まり、課長として、当て書きされたのかと思うほど、あまりにもハマりすぎなウィリアムズ(ビル・ナイ)の登場シーンと、後で思うと、葬儀後、帰宅の途につく列車内での4人の会話の内容の違いが、対照的に配置され、上手い構成だなと思いました。
ウィリアムズが、子供の頃に何になりたかったかと問われて、駅で見た、電車で通勤していく人々のようなジェントルマンになりたいと言った言葉が印象に残っています。
ある意味、夢を叶えたことになるが、その長い通勤人生を振り返って、余命宣告を受けた身としては、真に生きていなかったと、強い後悔に見舞われたのでしょう。
残された日々をどう生きたら良いのかと、無断欠勤をして試行錯誤している様子が、このままではまだ生きたとは言えない燻った気持ちのままでは…と、感じました。
その時付き合ってくれたサザーランドを演じたトム・バークは、配信のドラマ「私立探偵ストライク」で知って印象に残っていました。
特に深くも考えず、一般の男が時間を過ごすようなことをウィリアムズに経験させますが、それは彼の心を完全に満たすには至らなかったようです。
ビル・ナイは「ラブ・アクチュアリー」の時に歌えるのは証明済みだけれど、あの時とは全く違った曲調に彼のやや枯れ気味な声がこの作品のトーンに合っていました。
その後、部下であったミス・ハリスと職場の外で出会い、彼女の生き生きとした明るさに感化され、自分にとっての『生きる』ということが何かに気づき、軌道修正した彼の姿は、彼の葬儀の後、先に述べた列車での会話からの回想などで、目の前に展開されます。
あの部下4人によって新たに評価と共に残された者達の中で蘇るウィリアムズの真に生きた姿に、本当に久々に映画を見て泣かされました。
そこで感動させられましたが、後を継いで、ウィリアムズの席に座った元部下が、日々の流れの中で、結局は気づきも教訓も生かされていない現実も、人間ってそんなもんなんだろうなと、人はそんなに簡単には生まれ変わり、真に生きることはできない生き物なんだなとため息が出るけれど、ただの美しい幕切れより、現実感が漂っていて、それがまた良かったのでしょう。
1952,3年だと癌は不治の病だっただろうし、余命宣告もされたとなると、心に受ける打撃は相当大きなものだったでしょう。
彼のように、残りの日々の生き方に悩んだ人も今よりも多かっただろうと思います。
私の場合は、ラッキーだったけれど、術後までステージや転移などがわからなかった時には、どう生きるかより、どう後始末をするかをまず考えました。
生き方はあまり後悔しませんでした。
けっこう好き勝手してきたから。
まだ5年は経ってないけれど、今は家族や犬に対する思いが強くなっているかなと感じます。
だから、ウィリアムズが亡くなるまで、家族に心を開かなかったのは、家族に取れば何故⁉︎という疑問と共に罪悪感も残ったでしょうが、それが彼のジェントルマンとしての生き方だったのでしょう。
オリジナルも観て比較して観たいです。
❤︎

