文学つぶやきアーカイブスPART2

文学つぶやきアーカイブスPART2

その日手に取った本の、印象に残った文章を書き留めています

商店街(中略)は人間の暮らしの現場そのものなのである。店にふらりと入って、これこれのものを下さいと言い、それを受け取り、代金を払う。そのついでに時候の挨拶程度の言葉は交わす。別段深い交流が生まれるわけではないにせよ、人間が他者と繋がる必要最低限の身振りがそこにある。(松浦寿輝「T字路の時間」講談社)
こまめにレコード店をまわり(中略)少しずつ数を増やしていった。彼らの残した演奏の多くは決して一流とは言えない種類のものだった。でも僕はそれらのレコードが伝える独特のインティメートな空気を愛した。世界中が一流のものだけで成立していたら、それはきっと味気ない世界に違いない。(村上春樹「人喰い猫」新潮社)
「何か食べる?」と僕は彼女に訊ねた。「ホットドッグ」と彼女は言った。「それにコーラ」ホットドッグ売りは若い学生アルバイトで(中略)屋台に大型のラジオ・カセットを持ちこんでいた。ホットドッグが焼きあがるまでスティービー・ワンダーとビリー・ジョエルが歌を歌ってくれた。(村上春樹「カンガルー日和」新潮社)