昨年、僕は夢の中の登場人物と

この現実世界(水天宮)でお会いするという

不思議な体験をしました。

 

みえない世界を紐解く力が夢にあるとしたら。

 

夢の断片を繋ぎ合わせていくことで、

自らが辿ってきた魂の軌跡や他次元の世界を

もっと知ることができるかもしれません。

 

そこで2020年、新たな試みとして、

夢で見たお話を一話読み切りの小説として

書き下ろしていくことにしました。

 

シリーズタイトルは『COLORS』。

第一話 ことのはのちょっとエロい夢

 

精一杯に生きたそれぞれの過去生や

夢の中の主人公たちが、今を生きる自分に

彩りを与えてくれることを願って名付けました。

 

ファンタジーとしてお楽しみいただけたら幸いです。

よろしくお願いしまーす。(-^o^-)

 

 

「……ん、あぁ。」

 

目を覚ますと、私は無機質な部屋にいた。

 

中央に台座がただ一つ。

私はその上で膝を抱えて眠ってしまったようだ。

 

人は古代にも現代と同程度、

あるいはそれより進んだテクノロジーが

あったと知れば、驚くだろうか。

 

実際、天井から吊るされた

タブレット端末が私を常時監視しているし、

この部屋には電磁ロックも掛けられている。

所詮、技術者でも科学者でもない私にとっては、

古代にいようと、現代にいようと、

その仕組みを理解することはできないのだけれど。

 

ところで私がなぜここで囚われの身と

なっているのかは、当の私にもわからない。

ただ身に纏うボロ布と伸びた髭の不浄が、

元いた世界から隔絶された時間の長さを物語っていた。

 

 

“バベル”と名付けられたこの塔に自由などない。

少なくともこの階層においては。

 

一日にほんの数時間、

部屋から出て談話ルームに

立ち入ることが許されるのみだ。

 

とは言え私は、

そもそもそこへ行きたくもないのだけれど、

その自由すら私にはない。

時間になると囚人たちが挙って私を呼びに来る。

 

私の話を聞くと救われるのだという。

 

全くおかしな話だが、

私は人を救いたいと思ったことなど

生まれてこの方、ただの一度もない。

 

ほら、今だって私の話を聞きながら、

男が二人、腕に注射針を刺して

恍惚の表情を浮かべている。

 

私にこの囚人たちを救うことなどできはしない。

 

私が愛について語れば語るほどに、

異端者と呼ばれ、

こうして我が身の虚しさを知っていくだけだ…。

 

と、その時、

ヒューーー、ドーーーーーーーン!!!!!

 

塔の外で大きな被弾音がした。

遥か地上から聞こえていた喧騒が瞬時にして凍り付く。

 

 

ドカーーーーーーーーーン!!!!!

 

大きな爆発音とともに

逃げ惑う人々の悲鳴が世界を塗り潰していく。

 

ついに戦争が始まったのだ。

 

この塔にもアラート音が鳴り響いて、

「全ての電磁ロックが解除された」とアナウンスが告げる。

 

「さあ、こちらへ!!急いで!!」

 

一人の囚人がそう叫ぶと、

私は本能のままに階下へと駆け出していた。

 

人間とは全く不条理な生き物だ。

遥か下の地上へと続く螺旋の階段で

塔の内周を這いながら、私は自問自答を繰り返す。

 

それでもなお、

生きたい衝動に駆られるのはなぜなのだ。

 

階段の内側はまるで奈落の底へと続く空洞だ。

 

ヒューーー、ドーーーーーーーン!!!!!

 

足元が大きくグラつく。

ついにこのバベルの塔に被弾したのだ。

 

ガラガラガラガラ…。

 

大きく入った亀裂から、

細かく崩れる瓦礫の音がした次の瞬間、

 

ガガガガガガガ……!!!

 

螺旋階段の数メートル下から

塔の足元が見事に崩れ落ちていく…。

 

ズドーーーーーーーーーーン!!!!!

 

焼け焦げた臭いと砂埃が激しく吹き上げてくる。

 

もはや私たち囚人は、

地上に降りる術を失ってしまったのだ。

 

途切れた階下を恐る恐る覗いてみると、

そこに茶色く濁った濠があった。

 

「この塔はもう持たない!!」

 

「飛び降りるんだ!!」

 

誰彼とはなしに頭上から

次々と囚人たちが飛び降りていく。

 

底の深さはどれ位だろうか。

 

もう一度、足元を覗き込むと、

濠に浮かぶ一人の少女の姿が目に映った。

 

 

淀んだ水にたゆたう鮮やかなシアンのドレス。

 

…生きている!

 

今にも沈みそうな少女を見下ろして、

私はその時、生涯で初めて感じていた。

 

あの娘を救いたい、と。

 

主よ、どうか私にあの娘を救わせたまえ。

 

私の足は宙を舞った。
 

宇多田ヒカル / COLORS

 

※画像はすべてネットからお借りしました。