一時間近く医療機関で話しを聞いただろうか。看護士もオカザキさんも終始親切に応対してくれた。
「何もわからなくてすいません」
 看護士は申し訳なさそうに頭を下げた。だからコウヘイの方も、「突然にお邪魔して」と神妙に会釈してから歩き出した。
 正門から出た時、コウヘイは一度後ろを振り返った。視界に入ったのは、写真撮影された場所そのままの構図だった。
 手を伸ばせば届きそうで、だけどそれは幻のようであった。
 行きよりも帰りの方が足取りは重い。コウヘイも何か手掛かりがあると期待していたから、来た道をトボトボと歩いて行くしかなかった。
「あ、水谷さん!」
 突然の呼びかけだった。コウヘイも驚きながら振り返った。そこにいたのは、写真を持っていたオカザキの姿だった。

 どれくらいここで、いろんな場所を歩いていただろう。

 本当はこんなに長居するつもりはなかった。

 文章を書く。想いをつづる。ただそれだけのつもりでここへ来た。


 歩けば人とすれ違う。

 素通りしてしまう時もあれば、会釈する時も「こんにちは」と声を掛ける時もある。

 相手だって気付かずに行ってしまう時もあるし、立ち止まってくれる時もある。


 あいさつして「元気でね」そう言い合って別れた友も多い。

 そんな友が、この星空の下、どこかの街で笑ってくれているのなら僕も嬉しい。

 僕の周辺ではまるで一つの時代が終わるかのように、いろんな物が変わっていく。


 人。物。風。いろんな物が僕の周りから消えて、新しく生まれ変わっていく。

 そういう時。変わらなければいけない時期、それを強く感じている。

 変わらないもののある。空。太陽。夢。ほかにもいろんな物は変わらない。


 僕はたくさんの人に愛されていて、優しさを分けてもらって生きている。

 貴女の優しさにも感謝しているし、貴女との思い出をこれからも忘れないつもりだ。

 こんなにここが素敵な場所だとは思いもしなかった。


 まるで、僕は卒業生にでもなった気分だ。

 見覚えある学び舎を巣立っていく時のよう。

 普段は何でもない一つ一つが、全て懐かしく、大切なものをして目に映る。


 思い出すのはいつも楽しかったこと。本当にありがとう。

 人に出会い、貴女に出会い、僕は時間を共有できた喜びに感謝している。

 もしもそれが、幸せのカケラだというのならば、僕はたくさん拾い集めだろう。


 涙が空に舞い、そして星になる。僕は星空を見上げて、流れ星に願った。

 これからも貴女がたくさん笑っていられますように。

 そして、幸せのカケラをたくさんここで見つけられますように。