小学生の時は冬が好きだった。手に息を吐きアナ雪ごっこをしていた。
楽しい冬は、高校野球では地獄の日々だった。
中学生の頃までは騒がしく、親は何度も学校に呼ばれ頭を下げてくれた。
高校野球で心を折られ、今の非力な人間が誕生した。
私の父はThe昭和の男で、甲子園に何度が出場し、優勝には手が届かなかったが、準優勝まで登りつめた。
私が一度野球部を休部した時に、酷く怒った。
「辛いことから逃げるな」
今でも脳裏に響き、揺れる。
そんなある日、電車に飛び込み大遅延したニュースが夜に流れ、父は言った。
「電車は慰謝料がかかるから、自殺するなら海にして欲しい。」
その瞬間父の視線が私に向かった。
見透かされていた。
ちょうど1週間前ほどに首をくくる様の紐を買い、遺書も書いていた。
親に自殺を願われていると思った瞬間に、死ぬ決意ができた。生きる意味なんてないと思った。
次の日に、大好きな先生に感謝を伝え、友人と大好きなラーメンを食べた。
家に帰り、江ノ島に向かった。
イヤホンから流れるファンモンは、来世への希望の唄に聴こえた。
橋を歩いている時に、中高同じの友人2人と出会った。
「おぉ、こはる。1人でどうしたの?」
「紫芋ソフトクリームを食べに来た」
咄嗟についた嘘だった。江ノ島のお店はもうどこも閉まっている。
小さい頃に家族で紫芋ソフトクリームを食べて、大好きな味を思い出した。
察した友人は私に近づき
「大丈夫だよ」
友人に抱きしめられた。温かかった。
「ありがとう、俺は大丈夫だから」
涙を堪えつつ、絞り出した。
しかし私の足は依然江ノ島に向かっていた。
崖に着き、身を投げようとした。
受け止めてくれるのは海じゃないと、
体に残る温もりで知った。
抱きしめられた瞬間自殺する気はもうなかったのかもしれない。しかし崖に行き、自分の意思で生きることを選ばなければ、後日また江ノ島に向かうと思った。
人の冷たさに触れ、海の冷たさにも触れようとしに、向かったはずが、心の温もりを知った。
今では父とも良い関係だし、父の不器用さも知っている。
江ノ島を見ると当時を思い出す。
江ノ島が放つ光は、未だに眩しい。