空を見ると雲がこの世界を覆っている。
そんな雲を見て、
「今日と同じ空はない」
と曇りを楽しむあなたに夢みたいな時間を過ごさせてもらった。
ここ数年、空を真剣に見た事がなかった。
流れる雲達は、たしかに美しかった。
「あの雲、ヒトデみたい」
と、空を指さして笑う君に
「ヒトデの前に、星が来るでしょ」
と、ぼそっと言う。
「ミカンの皮」
と言うとゲラゲラ笑ってくれる。
彼女もミカンの皮を星型に剥く人だということが分かった。
今日の空はどうだろうか。
インドカレー屋さんで出てくる細長いナンみたいな雲がある。
彼女はきっとゾウの舌という。
でもそれを話せる相手はもういないらしい。
もし、まだ君が私の隣にいたらと考える。
やけに楽しい時間を私にくれた。
私は彼女に何かをあげられただろうか?
「今なにしてる?」
とLINEで聞くと、
「明日提出する課題と戦ってる」
と返信が来る。
「新作が美味しいから、大学終わりに寄ってきな」
とスタバのチケットをプレゼントする。
大した金額でもないが、値段以上の反応をくれる。
彼女が私に
「今何してる?」
と聞いてくる。
「明日までの課題がいじめてくる」
「いっぱい頑張ったらよしよししてあげる」
「ぎゅーもセットだとありがたいです」
「2つセットだとお値段張りますが」
「私もお返しします」
「助かります」
「しかし私は力加減が出来ないため、よしよしで頭を禿げさせ、ハグで圧死させてしまうかもしれません」
「禿げても愛してくれるなら構わないですが、死ぬのだけは勘弁です。」
といつもの調子でふざける。
別れ話をした時の記憶は無い。
お互い泣いていた気もするし、いつも通り笑ってふざけていたかもしれない。
帰り道、地面を見つめていた。
水溜まりに映る街灯は美しく、笑えてきた。
80年後も空を覆う雲を見て、笑っていたかった。