黒光りしたトオルの車を遠目に発見した野見山の口元が緩む。
リズムをとるように体を揺らしながら頭上のフードに手をやる。
雨はえらく降っていた。
両手の中指でフードを後ろへとやると、舌で唇を舐め回しながら、
少し癖のあるロン毛をあらわにした。
アスファルトを擦る野見山の足音は異様な音がした。
常に堂々としている彼の性格がよくあらわれた音であった。
一方淳は、めり込みそうなほど足場の悪い公園の土の上に立っていた。
静止してるがごとく、微動だにしない。
クスブリの様子をじっと眺めていた。
クスブリの指の爪が密かに隠れた。
それは人格が隠れ、折りたたまれた瞬間であった。
クスブリも本気のようだ。
相手に爪を見せながら平気で嘘を付けるような、根っからの詐欺師的人種ではない。
『わかりました。刺してきます。』
殆ど口を開かずにクスブリは真っ暗闇の中、小さな声で淳にそう言った。
クスブリは左足を前に出し、その反動で右手を振った。
『バッコリね。』
クスブリは開き直ったような顔で淳の顔を凝視ししながら言った。
頬からモミアゲにかけて、クスブリの横顔は妙にビッショリであった。
淳の腹に新聞に包まれた包丁が固定化されていた。
新聞は一瞬にして真っ赤に染まり、淳の口から鋭い悲鳴のような声が漏れた。
淳の鼓動と共鳴するように、野見山の胸は高まって行った。
BPMを上げながら体を揺らし、徐々にボクサーのように首を振り始めている。
クスブリは淳に渡された包丁以外に自ら持参した警棒で淳を打ちのめした。
はやる気持ちの妙な汗と雨が混じりあった。
伸縮自在の警棒が曲がり、形状が変わらなくなった頃、面倒になったクスブリは
淳の胸から腹を目掛けて蹴りを見舞った。
泥で真っ黒になった淳の顔と、熱の入ったクスブリの赤い顔が対照的だった。
SCREAMの襲撃に失敗は許されない。淳が一番懸念していたことだった。
魂の抜けた淳の顔からは想像できないが、彼の指先は地面の土を力強く握っていた。
クスブリは自分の足跡をかき消すかのように、そこいらじゅうの地面を足で引っ掻き回した。
まるで雨が降った夜中に、翌日の練習を中止にする為、不良運動部員が懸命に校庭を荒らしまくる様と
代わり映えしないほどお粗末なものであった。
野見山のボルテージは臨界点に達しようとしていた。
パチンコ店の自動ドアの開閉時に漏れる店内の騒がしい音が気に入らなかった。
看板や装飾を蹴飛ばしながら歩き出した。
破片が車道に飛び散る。
『確変だぁ?』
大人が一喜一憂するその言葉のスケールがしゃくに触った。
そして、自分で言ったその言葉にキレ始めている。
『グリーンピースでも突っ込んで打っとけや!』
中指を立てて雄叫びを上げた。
『トオルさん、なんとか淳、刺しました。けっこう根元まで・・・』
息を切らせたクスブリが雨宿りしながら、SCREAMの3代目トオルに一報を入れた。
第11話に続く