screamという組織自体、そう歴史のあるチームではない。
全国区となったのは最近であり、3代目のトオルが己を頂点とする樹形図を
いとも簡単に描いてみせた。
傘下と呼ばれる2次団体、3次団体が破竹の勢いで誕生し、
全国に飛び火した。
下は下を造り、下を馬鹿にする。一番下は一番上に問題があると不満を口にしながら
さらに下を探すというループを描く。
ループの円周はトオルの勢力に比例し、その大きさが下部団体のモチベーションとなった。
時に、scream本部との一体感を味わえる瞬間であるのだ。
本部とイコールで結ばれるループ構造と、現実としてのヒエラルキーであるピラミッド構造とでは、
図形的には相似関係には無いのだが、どうやら紙一重の関係であることは確かだ。
アメとムチではないが、トオルは巧みにその形を操っていた。
現実には、各地に流布される格付けが、ピラミッド構造の底辺を底なしにして行った。
いとも簡単に人の命が奪われる事件が相継いだが、それはトオルの狙い通りであった。
残酷な情報が飛び回るほど、トオルの支持率は上昇して行く。
無茶をしながら生き残りをかける下部団体が起こす危険度の高い事件は、
scream本部に恐怖という名の勲章をもたらした。
トオルの神格化は、自らの演出のもと成功した。
『今、ロシア人の彼女がいるんだ』というトオルの冗談が、地方の支部まで伝わる頃には
ロシアにSCRESMの支部ができたらしい、という誤報に置き換わってしまう
アクシデントもあったほどだ。
たった一台のパトカーにびびる大人は腐るほど見てきたが、
どんなに悲惨な状況にいようとも、コイツといれば、もう恐いものなど存在しないだろう
と思わせてくれるほどの男として認識され始めていたのだ。
トオルがパクられることがあれば、報復として翌日、全都道府県の警察署は爆破されるのではないか
と、逆に心配する構成員がいたほどだ。
チャラ男、実はロリコン・・・。噂にきりはない。
話したことがある者はほぼ皆無であったが、
トオルの代名詞である悪魔が乗っているような真っ黒い不気味な車が
夜中になると、ある店の前に駐車されているのが目撃されていた。
いつもは、店前のガードレールに腰掛けた末端と思われる構成員が数人談笑しており、
近づく者などいない。
犯行当日、雨は勢いを増していた。
トオルの誕生日パーティーが行われている、この店前には人影が無く、
真っ黒なボディーの車が雨に撃たれて待っているだけだった。
野見山はふてぶてしくこう言っていた。
『SCREAMなんて3日もあれば潰せるぜ。』
トオルも野見山の存在を知らないわけが無い。
知名度は淳の比ではないかもしれない。
SCREAM以上に無茶苦茶やっている男だからだ。
トオル自身恥をかかされた経験も、一度や二度ではなかった。
恐いもの知らずの男の嗅覚はいかほどの物なのか?
安いメッキはすぐ剥がれると言うが、野見山にはトオルが偽者
に見えていたのだろうか?
誰とも群れたがらない、いや、正確には、誰とも相性が合わない
この男と淳が結成したチームがTokyo Midneght Candyだった。
リアルかフェイクかの見極めなど、野見山は持ち合わせていなかったかもしれない。
半ば、口にはしないものの、淳への友情に近い物があったに違いない。
勿論、単純に自分よりデカイ顔してふん反り返っているトオルを潰す興奮が
主な原動力になっていたことだろう。
野見山のような強引な男は見たことが無かった。
ただ、人間それだけでは生きては行けないようだ。
役者な一面を兼ね備えていた。
淳は彼のその一面を見抜いていた。単純さと同時にアレンジ能力があることを密かに注目していたのだ。
淳は野見山に色んな話をした。野見山の一般的には規格外と思われる
キャパの狭い、目詰まりしそうなろ過装置を通過した言葉は、彼の胸の深いところまで到達し、
後日、野見山の口からあたかも自分の言葉かのように淳に発せられる機会がしばしばあった。
信頼関係が生まれる頃には、野見山の口からは、かつて淳が野見山に話した内容がこぼれ出していた。
淳はうんうん、と頷き、野見山の話を聞いたものだ。
ある種、純粋な野見山はこうして神のポジションへと担がれた。
偽者も本物もあったものではない。
それでも、神が幾つも存在してしまうと、うまくいかないらしい。
土砂降りの雨の中、野見山は早くも一人でトオルがいると思われる店の前の道を歩きだしていた。
目は血走り、今にも殺してしまいそうな勢いだ。
集合時間は決まっていたのに、野見山の完全なスタンドプレーだった。
ダイナマイトの爆発時間まではコントロールしきれなかったようだ。
この蹴撃が失敗すれば、今後Candy自身が危ないのだ。
爆弾は予定外の時間に投下された。
第10話に続く。
