WPB19観戦記① | すぱんち~Sのボクシング徒然

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ボクシング観戦歴二十数年、今まで見たボクサー、試合等について適当に書き込んで行きます。

〈2014.4.23 大阪城ホール テレビ観戦〉

・キコ・マルティネスvs長谷川穂積

以前に話題に上げて、「この春最も注目している」と書いたこの試合。
長谷川本人も述べた集大成…待っていた結末は壮絶なものでした。

番組が始まると、既に両選手がリング上にいるところから。
両者の表情も特に気負った部分は感じられない。
ゴングが鳴って中央でグローブを合わせる…身体の厚みが違う。
なるほど、典型的なボクサーvsファイターの構図になりそうだ。

1R…立ち上がりの長谷川の動きは「悪くはない」
足は動いているし、ジャブを中心に手もよく出ている。
しかし、復帰後最も良く見えた昨年8月の試合と比べると、
正直あの時ほどのコンディションではないように思えた。

一方のマルティネス…この選手を見るのは全くの初めて。
被弾を恐れず頭を振って前へ、前へ…う~ん、ファイターだ。
強打を振り回すだけでなく、細かく手数を出す場面もあり、
確かに粗さはあるが、前評判よりも丁寧に戦う印象を受けた。

この日の長谷川は左の打ち分けが冴えていた。
左ストレート、左フック、左ボディ…
多彩な左を使い分け、再三マルティネスを狼狽えさせる。
しかし、ジャブを突くだけでなく、左を出し惜しみせず使っているのに、
マルティネスを捌き切れていない。距離を取り切れていない。
これは王者のプレッシャーが強いのか、長谷川のスピードが足りないのか、
或いは…その両方か…?

2R…早くも試合が動く。
開始30秒、ロープ際で両者の左が同時に交錯した。
「ナイスカウンター!」解説の浜田が口にしたこの言葉に、僕は違和感を覚えた。
「王者のパンチの方が深く入っていなかったか…?」
両者はそのままロープ際で打ち合う。
明らかにマルティネスの土俵。しかし長谷川はロープから脱出しない。
これは王者のパンチが効いているのか、長谷川の気の強さが出ているのか、
或いは…その両方か…!
無謀な距離での打ち合いで、長谷川の頭が2度、3度と跳ね上がる。
最初の「カウンター」から僅か10秒足らず、長谷川はマットに転がった。

この時…僕の中で何かが見えてしまったような気がした。
決して認めたくない、決定的な何かが…。

辛くも立ち上がる長谷川に、容赦なく王者が襲いかかる。
力無くロープに追い詰められる長谷川。
今度は悪癖ではない。足が動かない。危険なパンチも幾度ももらう。
しかし長谷川は手数、防御技術…キャリアの全てを駆使してサバイバルをはかる。
拍子木をゴングと間違える王者のミスにも助けられ、
文字通り絶体絶命のピンチを乗り切った。

2Rにして深刻な痛手を負った長谷川。
インターバルでの完全回復は難しく、次のRもダメージを引きずったままだ。
正直厳しい…しかし、やはり長谷川は並の選手ではなかった。
続く3R、長谷川はボディ攻撃を起点に盛り返して見せたのだ。
ストマックへのストレート、サイドから突き刺すレバーブロー…
多彩なボディ打ちでマルティネスの前進を食い止める。
王者には前のRで倒しに行った打ち疲れも見られ、
このラウンドは明らかに長谷川が取り返した。

しかし、この日の長谷川はどうしてもパンチをもらってしまう。
流れを掴みかけても、一発のパンチで足がフラつき、
逆にマルティネスを勢いづかせてしまう。
数は長谷川の方が当てている。ポイントは取っているかもしれない。
しかしフィジカルの差は歴然だ。すぐにでも倒されそうなのは長谷川の方だ。
典型的なボクサーvsファイターの構図。
この展開はボクサーがファイターに飲み込まれる時のそれだ。
どこかで変えたい流れを変えられないまま、ラウンドだけが積み重なる。
6Rまで終わると、長谷川はもう満身創痍だった。

インターバルで山下会長が語りかける。
「俺達は何度もこんな場面を乗り越えてきただろう?」
しかし僕はそうは思わなかった。
モンティエル戦もジョニゴン戦も、負ける時はほぼ一発でのKOによるもの。
これほど打たれて追い詰められた場面は記憶にない。
しかし、ボロボロにされても長谷川は試合を諦めない。
王座返り咲きへの執着か、3階級制覇への夢か、勝利への飢えか…全て否。
言うなれば、これは自らのボクシングへの執念。
一介のファンに過ぎない僕は、もう見届けるしかなかった。

7R…そしてその時は訪れた。
明らかにキメに来た王者の猛攻に晒される長谷川。
まだ気持ちは切れていない。しかし身体は言うことを聞かない。
1分過ぎ…左フックでたまらず膝をついた長谷川。
辛くも立ち上がったが、ここまでだった。
もう一度倒されて、レフェリーが両腕を交差する。陣営がタオルを投げる。
長谷川穂積の集大成がこうして終わりを告げた。

2R…最初のダウンの時に見えてしまった「何か」
それは紛れもなく、ボクサー長谷川穂積の衰えだった。
打ち終わりに頭の位置を変えられない。
打ち合いの最中にガードが下がる。注意力も散漫。
小さい綻びが修正出来ず、安易で無謀な打ち合いに転じる。
それら全ては衰えから来るものだった。

そして同時に見えてしまったもの…それはこの試合の結末と、長谷川時代の終焉。
最初のダウンの時から、僕は勝敗度外視で
試合を見届けようというスタンスに変わっていた。
試合を見届けることそれ自体は概ね出来たように思うが、
世界の舞台で煌めくかつての 長谷川の強さはついに見られず仕舞いだった。

一つの時代が終わりを告げた。しかし、ボクサーの功績は色褪せない。
「自分は本当に強いのか知りたい」試合前に本人が口にしたこの言葉。
この試合を以って、長谷川本人の中で答えが出たかは分からない。
しかし僕の中ではこの試合を見るまでもなく、とっくに答えは出ている。
日本の絶対エース、長谷川穂積は強かった、と…。