オスカー・ラリオスvs粟生隆寛(1) | すぱんち~Sのボクシング徒然

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ボクシング観戦歴二十数年、今まで見たボクサー、試合等について適当に書き込んで行きます。

〈2008.10.16 代々木第一体育館 テレビ観戦〉

職場の新しいバイトさんが…何とマイキー・ガルシアに瓜二つ(笑)
写真撮らせてってのも変だし、職場の人達は分かってくれないし…。
I先輩…早く見て感想聞かせて下さいね。

今回は粟生の世界初挑戦となったこの試合です。
王者のラリオスはSバンタム級とフェザー級の二階級を制覇。
この時点で70戦63勝という驚異的な戦績を誇り、
日本絡みではかつてリナレスには敗れているものの、
福島、仲里、石井など数々の挑戦者を退けて、日本人には負けなし。
一方の粟生はここまで17戦16勝1分と無敗をキープ。
前戦で引き分けて全勝が途切れ、勢いの面では?だが、
その前戦は東洋王者・榎と自らの日本王座も賭けたダブルタイトルマッチ。
攻撃面で課題を残したものの、粟生の評価を下げる内容ではなかった。

ラリオスも粟生も、僕にとっては正直どちらも見知った選手。
しかし試合前の段階で、僕はこの試合がどうなるか、
全く予想がつきませんでした。
ラリオスのKO勝ちもあるだろうし、粟生の大差判定もあり得る。
1~2ポイントの接戦になることだってあるだろう。
なぜこれほど予想が難しいか?
今にして思うと、この時僕は粟生の実力を測りかねていた気がします。
日本王者時代のここ数戦、粟生には会心の試合がありませんでした。
前戦も試合のレベルは高くても、結果は引き分け…。
少なくとも、胸を張って世界に行ける内容ではありませんでした。
ラリオスの衰え等、他の要素もあることはありましたが、
結局たった一つのシンプルな疑問を解消できなかったことが、
この試合を予測不能なものにしていました。
「粟生は世界に通用するのか…?」

タイプ的には対象的な両者。ファイターのラリオスと、ボクサーの粟生。
当然粟生が足を使って捌くと思いきや、開始直後から僕の予想は外れた。
若い挑戦者をねじ伏せようと、ゴングと同時に出たラリオスに対し、
粟生はその場で平然とカウンターを取ったのだ。
試合開始数秒のこの出来事で、序盤の試合展開が決まった。
「真正面からはマズイ」踏み込み方が中途半端なラリオス。
「真正面からもイケる」足を使わず打ち合いに応じる粟生。
お互いにいつもと違うボクシング…これが吉と出たのはまずは粟生の方だった。

この日の粟生は、全体的にパワフルだった。
ラリオスの前進に押し込まれず、下がる場面が少ない。
打ち合いで被弾してもダメージは全く感じられない。
(粟生が打たれ強いと気づいたのはこの試合辺りからです)
試合前のイメージと全く違う姿に、ラリオスは明らかに戸惑っていた。
一方で粟生は、やりたいボクシングを展開出来ていた。
前述のように打ち合いも出来るし、いつも通り足も使える。
加えて最大の武器であるカウンターが冴える。
そうして迎えた4R、そのカウンターが火を噴いた。
粟生をロープ際に追い込んだラリオスが右を振ったところに、
粟生の右フックがカウンターで直撃!
たたらを踏んだラリオスが耐えきれずにしゃがみ込んだ。ダウンだ!
この瞬間、試合前の僕の疑念は吹き飛んだ。「粟生は世界に通用する…!」
このまま倒し切っていれば、スーパースターになっていたかも知れない。
しかし…ここから勝利の女神は粟生に背を向けてしまう…。

ダウン後…R終盤にラリオスはバッティングで右目尻をカット。
切れてない粟生が自動的に減点され、ダウンの2ポイントが、
1ポイントに相殺された形になってしまう。
4R終了時の途中採点は、何とジャッジ2者がイーブンというもの。
流れは完全に粟生だが、打ち合いに応じての被弾数でポイントが流れている。
5R…粟生のカウンターが面白いようにヒットして、ラリオスはフラフラに。
しかし仕留めきれない。粟生の最大の弱点、詰めの甘さが出てしまっている。
そして…ラリオスがアウトボクシングに切り替えた。
ダメージを抜くためか、戦術的な判断か?
あまりにも意外なこの戦法…今度はラリオスに吉と出た。
粟生は気持ちばかり前に出て、手数が出ないという悪循環に。
8R終了時の採点は、3者3様のイーブンだった。

この採点で勢いづいたのはラリオスだった。「まだ行ける…」
修羅場を潜った数が違う。ポイントアウトに徹して抜け出しにかかる。
ハイペースで飛ばした粟生はスタミナも苦しくなってきた。
パンチを嫌がるそぶりも見せて、若さが裏目に出ている。
勝敗の行方は混沌としたまま判定へ。さあ、どっちだ…?

結果は無情の2ー1…この日、粟生は世界の頂には届かなかった。

一言で言って、この試合はいい試合ではありました。
粟生はこの試合で、自らの実力を証明しました。
「世界に通用するのか?」の問いには一発回答を出し、
そのポテンシャルの高さを見せつけもしました。
事実この試合の半年後、粟生はダイレクトリマッチでラリオスに雪辱し、
世界王者としての道を歩み始めます…が、
それら全てをひっくるめた上で、僕は今でもこう思います。
「あの時逃がした魚は大きかった…」と。

この試合でラリオスを倒していれば、粟生はもう一皮剥けたのではないか?
この時見せた詰めの甘さを、粟生は未だに解消出来ていないのではないか?
自らの持つ潜在能力を出せずじまいで、このまま埋れてしまうのだろうか?
もっと出来るはずの粟生の現状に対する歯痒さ…
元凶はこの試合にある気がして、今でも何ともいえない気持ちになります。
粟生はこういうボクサーだ、と言ってしまえばそれまでですが…。