わらしべ長者 | おんぼろ不動産マーケット STAFF BLOG

おんぼろ不動産マーケット STAFF BLOG

中古マンションの売買からリノベーションまでをご提案する『おんぼろ不動産マーケット』のSTAFF BLOGです。

わらしべ長者

(NENGOのsimple richに寄稿して
いただいている、尾谷さんが書かれました)


姿の見えぬ沈丁花から匂い立つ甘い香りは、
妙にノスタルジックで、漠然とした期待と
具体的な不安の混ざり合う感覚を思い出させる。
18年前のこの季節に私は京都から東京へと出てきた。
それから、いくつものプロジェクトに関わり、
幾つもの役割を担い、いくつかの小さな山谷を
過ごして、今に至っている。

最初は先輩プランナー達や企業の事業
収支計画を作成する仕事からだった。
デザインの仕事がしたい、という私の
欲求とは裏腹に、アイディアでしかない
企画を事業性の高いプロジェクトにするため、
その企画を具体化し、その事業性を検証する
仕事を依頼されることが多かった。

そのうちに、自分がそんな形で関わるプロジェクト
の中でデザイン・プロデュースの部分も併せて
担うようになり、いつのまにか、デザイン・
プロデュースの部分だけを依頼されることが
多くなってきた。高い事業性を構築すべく、
プロジェクトの成功の確度を高めるべく、
デザインをプロデュースすることを心掛けて
いるのは、そういった私の買われてきた能力の
ストーリーにも大きく由来する。

今月のお題は“わらしべ長者”ということで
あった。ということで、あらためてもう一度、
読み返してみると、想像していた話しとは
随分と印象の違うものであることがわかった。
要約すると、こういうことだ。お金持ちに
なりたいという男がいて、その男の夢に
観音様が現れ、最初に掴んだものを大切にして、
旅に出なさい、というお告げを授かる。
歩き始め、転んだ先に掴んだものが藁で
それを大切に旅をしていると、その藁を欲しい、
という子供が現れる。男は観音様のお告げの
通り大切にしている藁をその子供に譲ろうか
迷うが、結局、譲ってしまう。その代わりに
蜜柑を受け取る。その後、喉を渇かした商人
とは反物と交換し、侍とは馬と交換し、
最後となる村の長者とは、大きな屋敷と
交換することになる。そして男は屋敷もちの
裕福な暮らしを手にする、という話。

細かくはいろんなエピソードがあるようで、
この物々交換の途中に出くわした器量の良い娘が
偶然にも最後のエピソードで登場する長者の娘で
あって、ここまでの旅のエピソードを聞いた長者が、
その男の縁と正直ものブリに心打たれて、自分の娘を
嫁がせる、という話しもある。

想像していたストーリーは、物々交換を繰り返す
うちに高価なものになり、最後には大変高価な屋敷を
手にする、いわゆる、雪だるまのように価値の高い
ものに交換される、というイメージであったが、
実際は前述の通りで全く違う。男は決して、高い価値の
ものと交換しようとしていたわけでもなく、
結果的に高い価値のものと交換できていったという
解釈とも違っている。

基本的には価値の大小、高低には関係なく、
自分の持っているもので、相手の欲する
ものを譲って、相手が差し出すものを
受け取っているだけだ。
その内の一つ、物語では最後であるが、
たまたま大変価値の高い、一生暮らすに
十分な価値のものと交換できた、ということだ。
最後は馬と屋敷の交換だったのだが、一般的には
到底、等価交換とはいえないと思うが、
村の長者にしてみれば、屋敷と交換しても
良い程の価値が馬にはあった、ということになる。
つまり、価値というものは、
絶対的なものではなく、人それぞれの状況で
違うものであり、自分の感じている価値と、
ある状況下にいる他人が感じる価値は違う、
ということである。さらに解釈すれば、
自分がそんなに高い価値と感じていないものでも、
大切にすることで、他人から高い評価を得ることが
ある、ということでもある。この大切にする、
ということが非常に重要なキーワードとなる。
大切にせず、粗末にしていたのでは、他人からも
それほど高い評価を得られなかったかもしれない。
この話しで、馬については元気のない馬と絹の
反物と交換している。
その馬を大切にして、水を与えたところ、
その馬は元気になっている。
長者が欲しがる程に。

もう一つ、違う角度では、自分が大切に
しているようなものでも、他人が本当に
必要としているものであれば、譲ってしまう、
そんな実直で誠実な生き方(?)をしていれば、
誰かが見ていて、思わぬ幸運を引き当てることが
あるかもしれない、という解釈だ。

自分が手にしたもの、偶然だとしても手に
したものは、藁であれ、元気のない馬であれ
大切にしていれば、ある状況下にいる誰かから
見れば非常に価値の高いものと成る可能性がある、
ということだ。自分のもっているものを大切にし、
磨き上げること、それを自分以外の人の目に触れ
させることが重要ということだ。

お題の“わらしべ長者”は不動産の売買について
書いて欲しいということであった。将来的な転売を
目的にして、マンションを購入し、いつかの
タイミングで売ってしまうものだからといって、
そのマンションを粗末には扱わないほうが良い
のではないか、いつか転売してしまうマンションで
あるからこそ、現在は大切にしたほうが良い、という
転じ方も出来る。

そして、リノベーションは、馬に与えた水と同じ
効果を持つ。
侍が所有していた時の馬は元気がなかったのだが、
馬が一番欲しがっている水を与えることで、
その馬は元気になる。
長者が屋敷と交換しても良いと思える程に。
水なのか、ニンジンなのか、馬が元気になるには
何を与えれば良いのかを、馬を大切に想い、
扱うことで知ることが出来る。
でも、まずは基本的な水なのであろう。

リノベーションを施された中古マンションは、
市場価値を高めることが出来るかも知れない。
適切なリノベーションであれば。

地方の資源についても同様だ。
地元ではそんなに高く評価されていない景色や、
食べ物、技術、風習や習慣でも、現代の日本に
おいては非常に高い観光資源となる可能性がある。
自分達だけの価値判断で途絶えさせたり、壊したり、
ないがしろにしないほうが良い。大切にして、
日本のみんなに、世界中の人たちに感じてもらえば、
それを欲しがり、その保護にあたりたがり、
その地元に大きな福を与えてくれる、長者が現れる
かもしれない。

これも、馬に水、が必要かも知れない。
それはきっとブランディングだ。
エナジードリンクによって必要以上に元気になり、
無理をして、寿命を短くしても仕方ない。
未来永劫存続していくために、十分な水を図る
必要がある。

自分についていえば、どんな仕事でも本気で
求められれば引き受けることが重要なのであろう。
そして、差し出される報酬を受け取る。
自身はそれに備え、丁寧に生活し、自分の能力を磨き、
誠実に社会と接すればよい、ということか。
これまでもそうしてきたつもりだが、この春、
初心に戻り、心掛けたい。
わらしべ長者の意味すら、こってりとこびりついた
社会の垢で、その本質を理解することが出来て
いなかったのだから。
もう一度、あの春のあの気持ちを思いだして、
求められるものを磨いていこうと思う。

写真は二度目の登場のプリンセス。
70年代前半の車に適切な“水”を与え、
大切に乗っています。豆柴にかじられ、
粗相をされてこそ、交換の意志なく、
一生乗り続ける気構えです。」

$おんぼろ不動産マーケット STAFF BLOG