こんにちは、イプシロンです。

ブログの更新を元通りに戻したいんですけど、コロナに直撃された影響で何もかも思う通りに進みません。

毎日恐怖と焦燥感に悩まされています。出社拒否にならないよう頑張ります。

まだ立て直し方が分かりません。

誰のせいでもないので誰にも言えないから、ちょっとここで愚痴をはかせてもらいました。

ごめんなさい。

なので今回のブログは、夏に花をテーマに怪談祭りをやろうと思っていてそれ用に書いていた話があったのでそれを載せます。

 

 

  囁く水仙

 

 

私、結婚が決まりました。

 

彼からプロポーズされて、色々あったから嬉しくて、その日は返事が出来ないくらいワンワン泣いちゃいました。

 

バカでしょ。

 

でも、好きなんです。

 

誰にも渡したくないくらい。

 

ううん。もう誰にも渡しません。だって、私の愛情でようやく勝ち取った彼なんですもの。

 

だから、今は幸せいっぱいです。

 

・・・なんですけど。

 

ちょっと嫌なこと思い出しちゃって。

 

学生時代の話なんですけど、聞いてもらって良いですか? 誰かに話せば、少しすっきりするんじゃないかと思って。

 

駅から私の家までの帰り道って必ず墓地を通るんです。

 

ちょっと不気味ですよね。

 

高校の三年間は電車通学でしたから、ほぼ毎日その墓地の脇を通って帰ってました。

 

部活で遅くなった時にはダッシュで通り過ぎたりしてましたけど、昼間は慣れっこになっちゃってほとんど気にもしていませんでした。

 

それにその墓地の脇道って、春になると薄い黄色の水仙の花が道沿いにずっと咲いていて、とても綺麗なんです。

 

バカみたいなんですけど、水仙の花が道沿いにずらっとこう私の方を向いて並んでいて、それがまるで喝采を贈ってくれているようで、私、ランウェイを歩くモデル気分になれて楽しかったんです。

 

水仙の花って面白いですよね。大きな花びらの中央にラッパのように突き出たもう一つの花があって。

 

あれ、副花冠って言うんですって。

 

あそこが私には口の様に見えて・・・

 

墓地沿いの水仙の道、高校生の私は嫌いじゃありませんでした。

 

あれは高二になる春先のことでした。

 

私、ブラスバンド部で入学式に演奏する曲を練習していて帰りが遅くなったんです。

 

もう暗い時間でしたけど、私はそんなに気にしていませんでした。呑気にお腹が空いたとしか考えていませんでした。

 

早く家に帰ってごはんが食べたかったんです。だから、少し早歩きをしていました。

 

墓地の脇道に差し掛かった時も、私何も感じていませんでした。満開に咲いて綺麗なはずの道沿いの水仙にも目が行っていませんでした。

 

道の半ばまで来た時にようやくそれが目に入りました。

 

最初は黒い塊としか見えなかったから、ギョッとしました。

 

それで、足を止めてしまったんです。

 

よく見ると、髪の長い女の人でした。

 

そうですね、ちょうど今の私と同じくらいの年頃なんじゃないかと思います・・・

 

ただ女性だったということもあって、恐怖心というか警戒心は少し薄れました。

 

気分が悪いのかと思って声を掛けようかどうしようか迷ったんです。

 

女の人はこう私に背を向ける様な格好で、墓地の壁側、水仙の花に向かってしゃがみ込んでいました。俯いているので、長い髪の毛が顔に掛かりその表情を隠していました。

 

私は「大丈夫ですか」と恐る恐る声をかけました。

 

そうすると女の人から何かぶつぶつと呟く声が聞こえてきたんです。

 

私は上手く聞き取れなくて「どうしました」と言いながら女の人に近づきました。

 

そうしたらその人、水仙に向かって「死ね、死ね、死ね

」って囁いているんです。

 

私、怖くなっちゃって。その場から逃げちゃいました。

 

水仙の道から家まで全力で走って帰りました。家に着いても心臓がバクバクしてふるえが止まらなくて、母からも心配されました。

 

母に事情を説明すると、呑気に「まあ、その方、ずいぶん辛いことがあったのね。お可哀想に」なんて全然他人事の返事が返ってきて。

 

でも母のその返事が、私の見たモノから現実感を削いでくれたというか。急に夢を見ただけの様な感覚になって、安心したんです。

 

一晩眠ったら、本当に夢の中の出来事の様に思えて、怖くなくなりました。

 

私単純馬鹿なんで、翌日はもう水仙道を普通に一人で歩いていました。あの女の人にももう会うことはありませんでした。

 

でも一週間ほど経った時、いつもは静かな水仙道にけたたましい救急車のサイレンが鳴り響いたんです。

 

休日の昼間のことでした。

 

その時私は友人との約束があって丁度駅に向かっていた時でした。

 

水仙道に差し掛かる頃だったので、止めればよかったんですけど、野次馬根性で騒ぎの現場を覗いてしまいました。

 

狭い水仙道に救急車が窮屈そうに停車していました。路地脇ぎりぎりに停まっていたので水仙がタイヤに潰されてしまっていたのが正確に記憶に残っています。

 

可哀想だと思いました。

 

水仙道には近所の人たちも出て来ていました。

 

近付くと倒れている若い女の人の姿が見えました。救急隊員が大きな声で呼びかけていましたが、反応がない様でした。

 

咄嗟に私は蹲って囁いていたあの女の人を思い浮かべました。

 

彼女じゃないのかなと思ったんです。

 

でも、違いました。髪の毛がショートカットだったし、囁いていた女の人よりも小柄でした。

 

倒れていた女の人の顔は血の気がなく真っ青で苦悶の表情を浮かべていました。

 

体にも力が無くぐにゃりとした感じでした。救急隊員に抱き抱えられて救急車に乗せられる時、だらりと垂れた腕が死んだ人のそれに見えて、この女の人はもう助からないのではないかと思いました。

 

その二、三日後でしょうか。母が救急車で運ばれた女の人の噂を近所の人から聞き込んで来ました。

 

彼女は救急車で病院に到着した時にはすでに亡くなっていたそうです。

 

心臓の血管が急に詰まって、心臓が動かなくなって、それで亡くなった様なことを話していました。

 

「若い身空で、結婚が決まった矢先なのに、お気の毒にねえ」

 

母はそう同情していました。

 

亡くなった女の人は結婚が決まっていたんです。

 

後になって近所の人から、女の人と相手の男の人は不倫関係にあった人だと聞きました。

 

男性を略奪した女の人だったんです。

 

そのことを母に話すと嫌な臭いでも嗅いだ様に顔を顰めました。

 

「人様の男に手を出すなんて、可哀想だけど罰が当たったんだね」

 

自分勝手な女は嫌いだ。

 

そう吐き捨てました。

 

母にしては珍しく辛辣な口調だったので鮮明に記憶に残っています。

 

・・・

 

・・・

 

私、思うんです。

 

あの水仙に向かって「死ね、死ね」と囁いていた女の人は、略奪した男の人の奥さんだったんじゃないかって。

 

水仙に向かって恨みを吐き出していたから、呪いになって水仙が飲み込んで溜め込んでいたんです。

 

それで、自分の大事な人を奪い取った女が現れた時、水仙たちは一斉に呪いを彼女にぶち撒けたんじゃないでしょうか。

 

あの女の人は不倫相手の奥様に呪い殺されたんです。

 

だからあんな苦しそうな表情を浮かべていたに違いありません。

 

そう考えると、私、怖くて、怖くて・・・

 

私はこの週末に彼と一緒に両親に会いに行きます。そこで、結婚する予定だと両親に話すつもりでいます。

 

今はきっと墓地の脇道には水仙たちが咲き誇っていると思います。

 

・・・

 

・・・

 

私、死んだあの女の人と同じなんです。

 

今の彼とは会社で不倫の関係にありました。私は奥様から夫を略奪した女なんです。

 

きっと恨まれているに違いありません。

 

あの時の様に水仙たちは呪いの言葉を聞いているかもしれません。

 

私が水仙道を歩いたら、水仙たちは私に向かって一斉に呪詛を吐きかけてくるんじゃないでしょうか。

 

「死ね、死ね、死ね」と皆がみな、私を責め立ててくるんです。

 

でも、人を好きになる感情は誰にも止められないでしょ!

 

私はそれだけ彼が欲しかったんです。

 

人様の旦那を奪い取ったのは悪いと思います。奥様を困らせ苦しめたことには誠心誠意謝罪します。

 

だから、私を責めないで!

 

私は純粋に彼を愛しただけです。

 

でも今度彼と挨拶に行く時、

 

水仙たちが「死ね、死ね」と囁いたら、私はあの時の女の人の様に心臓が止まってしまうに違いありません。

 

私は怖いんです。

 

水仙はきっと囁きます。

 

(完)

 

 

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