尾崎俊雄氏の論文より抜粋

 

【はじめに】

大阪府立高校では臨時教員が全教職員の15%を占めている。

臨時教員は高校現場において「臨時的役割」を越え「基幹的役割」を担うに至っている。

困難な問題を抱えた高校現場で臨時教員の実態や問題点についてはあまり語られていない。

 

【臨時教員の実態】

大阪府では、常勤の臨時教員は講師として任用されているが、教諭として任用されている県もある。両者の職務は同じであるが、適用される給与表が違い、給与に格差が生じる。

臨時教員は非常に劣悪な労働条件のもとにおかれている。

賃金水準が低いことだけではなく、それは雇用・待遇全般に及んでいる。

特に非常勤講師の生活実情は目を覆いたくなるものがある。

1週当たり持ち時数18時間で、30歳の非常勤講師の年収は約195万円で、同じ年齢の正規教諭の3分の1にも満たない。

この低収入のなかから交通費・国民健康保険料等を持ち出さなくてはならないのである。

さらに問題なのは、長期間継続して任用されていた臨時教員が任期切れによる雇い止め(事実上の解雇)が当然のように行われていることである。

臨時教員の身分保障がまったくないのは重大な問題である。

非常勤講師の生活の実情や雇い止めに代表される臨時教員の身分保障と待遇の適正に関する問題は、子どもの教育の本質にかかわっていることを、教育行政当局はまず理解しなければならない。

 

●高校現場での臨時教員の扱い

教育行政当局は、臨時教員を「便利屋さん」あるいは「お客さん」扱いすることを学校現場に求めているように映る。しかし教員集団のかなりの部分を占める臨時教員を「便利屋さん」「お客さん」扱いしていては、まともな教育はできない。

学校現場には、臨時教員の身分や位置づけについて理解を深めることが、子どもの教育を充実させるという観点からも求められる。

 

●臨時教員の心理・思い

ほとんどの臨時教員に共通するのは、次年度以降の将来への不安、自分の教育実践に対して確信が持てないことである。これらは職場の雰囲気によっては、疎外感・孤立感・劣等感につながり、またある場合には、正規教員への反感に転じたりする。

何より重要なのは、臨時教員を孤立させない職場の取り組みである。

教職員団体のイニシアティブによる暖かい職場の雰囲気のなかで、生き生きと教育実践に励む臨時教員が数多く存在していることもまた事実である。

 

【臨時教員制度を維持している教育行政当局の意図】

●安上がりの教育

臨時教員の賃金は、非常に低水準におかれている。

特に非常勤講師の場合、同じ持ち時数で3分の1以下の賃金水準であり、ボーナス(一時金)の金額は情けなくなるほど少ない。

常勤でも代替の場合、目の前には生徒がいて現に業務がそこにあったとしても、夏休み等の長期休業中の任用がカットされ、賃金は支払われない。

このような臨時教員の低水準の賃金は、教職員全体の賃金水準を引き下げる役割を果たしていることに留意するべきである。

それにしても文部省に対して府教委は、教員数についてどのように報告しているのだろうか。

●雇用の調整弁

今後の子どもの急減期にそなえて、簡単に雇い止めのできる臨時教員を濫用している。露骨にいえば首切要員である。

●教員集団の分断・統制

臨時教員制度は学校現場に階層構造を持ち込むことである。しかも同じ勤務内容でありながら、待遇に大きな格差をつけてである。

 

以上教育行政当局の意図を3点見てきたが、これらはすべて弊害を伴い、犠牲者が出てもそれを切り捨てるという側面を持っている。

生活に窮々として授業に打ち込めない教員に学ばなければならない子ども、教員がバラバラで冷たい雰囲気の学校に通わなければならない子どもというように、最大の犠牲者は子どもであることを教育行政当局はもっと深刻に受けとめなければならないだろう。

 

【臨時教員制度の高校教育に対する具体的影響】

●生徒の不信・不安

臨時教員がもっとも困惑するのは「先生、ほんとの先生と違うん?」という言葉であろう。

これに対しては普段の教育実践でこたえていく以外にはないけれども、現在の制度のなかでは生徒のこういった言動を非難することはできない。