小中学校の普通学級に通う子供たちの約6%に可能性があるといわれる「発達障害」

脳機能の障害が原因とされるが、教育現場での理解は深まっていないのが実情だ。

児童精神科医として豊富な臨床経験を持ち、新年度に福島大大学院教授に就任する内山登紀夫・大妻女子大教授(52)が26日、この障害の特性や教育、指導のあり方などについて福島大で語り、保護者や教職員ら約400人が熱心に耳を傾けた。

 

●今春福大就任 内山さん講演

内山教授は順天堂大医学部を卒業後、東京都立梅ケ丘病院などを経て、多くの子どもたちを診断してきた。院長を務める横浜市の「よこはま発達クリニック」は、待機期間が3年以上になったため、一時初診の受け付けを休止したほどで、現在も全国から多くの患者が集まる。
「広汎性発達障害に対して教師や家族ができること」

と題した講演で内山教授は、発達障害をめぐる教育現場の現状について、「脳の機能障害は外見からは判別しづらく、問題行動を起こす子どもがいても、多数派の子どもたちと同じ教育になってしまう」と指摘。

「発達障害と診断されたら、何らかの工夫をしなければならない」と話した。

具体的な対策法として、絵や写真などを使った視角による指導やスケジュールを明示することなどを紹介。

アメリカのノースカロライナ大学で採用されている支援プログラム「TEACCH」も交え、「健常児への教え方が善とは限らない。普通ではない方法でも、障害の特性にあうのであれば積極的に取り組むべきだ」と話した。

 

●現場で活躍 学生に期待 取り組みへ意欲語る

外見では判別しづらい発達障害を抱えた子どもたちは、学校などで「扱いづらい」と見られ、親も孤立感を深めがちだ。

内山教授は講演前の24日、朝日新聞の取材に応じ、障害の特性にあった指導の必要性を強調、本県での取り組みについて「一人でも多くの学生に現場で活躍してほしい」と語り、発達障害についての啓蒙普及と指導者育成の重要性を指摘した。

 

――発達障害にはどのようなものがありますか。

「社会性やコミュニケーション、想像力に障害が見られる自閉症アスペルガー症候群、落ち着きがなく衝動的な行動を取る注意欠陥多動性障害(ADHD)、知的の遅れはないのに読み書き計算に障害が出る学習障害(LD)などがあります。いずれも急に症状が良くなったり悪くなったりはしません」

 

――子どもに発達障害の可能性がある場合、家族はどのように接すればよいのでしょうか。

「兆候が見られる場合、まずは専門家にしっかりと診てもらい、原因をはっきりさせることが重要です。その上で発達障害と診断された場合は、その特性にあった対処法を選択することになります」

「例えばアスペルガー症候群の子は、皮肉や冗談を理解するのが苦手なので、具体的に伝えるよう心がけるのがいいでしょう。自閉症児であれば絵カードやジェスチャーでコミュニケーションを取るのも有効です。ADHDの場合は休憩時間を多めに取るような工夫が大切です」

 

――現場の教師たちが指導をする際に留意する点はありますか。

「障害の特性に合わせた教育が大切です。個々の特性に合わせて、視覚的な教材を使ったり、多くを話すのではなく板書やプリントを多用するようにして余計な刺激を少なくする。次に何をするかを予告したり、席の配置に気を配ったりすることも集中できる環境作りには必要です。こうした指導は障害がない子どもたちにとってもプラスになります

「学校の先生方に会うと『授業に取り組んでくれない』『わがままな子が多い』といった子どもの行動面の質問を受けることが多いですね。指導はその子どもの診断などに基づいて行わなければなりませんが、なかなかうまくいっていないのが現状のようです」

 

――臨床家でなく、教育者として福島に来られると聞いています。

   今後取り組みたいことは何ですか。

「今の大学には10年間在籍し、縁があって春から福島大大学院で指導、研究することになりました。これまでは学部生が対象だったので精神医学一般の講義が中心でしたが、今後はより専門性の高い内容を指導することができます」

「学生に臨床の実践指導をするのも初めて。楽しみです。発達障害児を支援する臨床心理士の数はまだまだ不足していますが、臨床心理を学ぶ学生たちは一生懸命です。一人でも多くの学生が能力や経験を身につけ、現場で活躍できるようにしていきたいですね」

 

『朝日新聞』 2009年2月27日付