東京都内の小学3年生A君(8)は、1年生の時から、ほぼ毎日、授業中に教室を飛び出した。元々体を揺するような癖があり落ち着きがなかったが、「どうしても、じっとしていられなくなる時があるようです」と母。担任はそのたびに授業を中断して、A君を追いかけることになる。
“うっかり”もしょっちゅう。両手に荷物を持って出かけても、いつも一つは忘れてくる。靴下をはく途中にマンガ本に目が行くと、片方しか、はかないまま家を出てしまう。「一度、別の物事に気をとられると、最初の注意が飛んでしまう」(母)のだという。

「これはおかしい」と思った母が、A君を連れて児童精神科の専門病院である東京都立梅ヶ丘病院を受診したところ、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)の傾向が強い」と診断された。脳の機能障害が原因と考えられ、注意散漫や落ち着きのなさ、衝動的な行動が特徴だ。人口の3%が該当すると言われる。
同病院院長の市川宏伸さんは、「人により強く出る症状が異なるので、個々に応じた生活や学校での工夫が重要です」と話す。

A君の場合、荷物は一つのバッグにまとめ、中で「プール」「給食」など大きく書いた小袋に分けて入れた。放課後学童クラブのロッカーには「定期券はランドセルに」など注意書きをはった。
授業中どうしても教室を出たくなった時は、母が考案した「保健室」「校長室」などの「どこに行きますかカード」を担任に見せるようにした。行き先がわかれば、先生も慌てずにすむ。
これだけの工夫でも忘れ物は格段に減り、注意されることも少なくなった。「黙って教室を出てはいけない」というルールが身につき、やがて口頭で行き先を告げるようになった。

市川さんは、「子供たちを診ていると、ADHDには、対人関係が築きにくい広汎性発達障害などと重なっている場合も多い」と指摘する。A君にはアスペルガー症候群の特徴もあり、集団が極度に苦手。昨春から7人と小人数の特別支援学級に移ったことで、より落ち着くようになった。

ADHDには2007年、中枢神経を刺激するメチルフェニデート徐放薬(商品名コンサータ)が18歳以下に対し保険適用された。A君は使っていないが、効果が12時間と長く続き、朝1回の服用でよい利点がある。
市川さんは「生活の工夫だけでは対処しきれない場合には、食欲不振やチックなどの副作用にも気をつけながら薬も考慮する」と話す。

 

『読売新聞』 2009年1月21日付

 

「どこに行きますかカード」を考案されたA君のお母さん、素晴らしいですね(‐^▽^‐)