今年9月5日、奈良県の近鉄富雄駅西約500mの線路内で、小学2年の男児(7)が電車にはねられて死亡する事故があった。男児は以前にも1人で外出し、警察に保護されたことがあったという。

NPO法人・奈良県自閉症協会の会員で、自閉症の子どもを育てる親たちは「他人事とは思えない」と、この事故を受け止めた。

 

自閉症は、人とのコミュニケーションが苦手▽興味の対象が偏っている▽言葉の発達が遅れるなど、人によってさまざまな特徴が現れる。電車などに強い興味を持った場合、時間や手段を問わずに見に行ってしまう人もいる。

 

「よく無事に育ってくれた」。上園裕美子さんは、長男の諭史さん(33)と接するにつけ、そう思う。

諭史さんは子どもの頃から、電車に強いこだわりを見せた。小学6年の時、1人で特急に乗り、名古屋駅まで行った。駅員から「特急券を持たずに乗っている」と電話があって車で迎えに行った。

現金を持たせなかったら大丈夫かと思ったら、今度は知り合いの化粧品店のレジから現金を盗んで電車に乗った。「どうすればいいのか」と途方に暮れた。

そんな中、親はどんなことができるのだろうか?

 

上園さんは「周囲に助けを求めることが大事」と話す。乗り換えに使う主要駅の駅員に、諭史さんのような男の子が来たら連絡してほしいと、あらかじめ伝えた。服に名札を付け、最終電車に乗せてもらうように駅員に頼んだ。

「『あんたの教育が悪い』などと言われたこともあった。でも何度も話せば分かってもらえる」と話す。

 

「情報交換も大事」というのが、自閉症の子を持つ親の共通意見だ。

 奈良県自閉症協会では、年齢や症状に応じて、療育部、成人部、高機能・アスペルガー部の三つのグループに分かれ、 悩みを共有する集まりや勉強会などを、月1回のペースで開催している。

時には昼食を囲み雑談を交えながら、ざっくばらんな雰囲気で、 一人一人が話しやすい環境を作るよう、心掛けているという。

自閉症に関する一般への理解を求めるため、講演会も開催。同会の河村舟二理事長は「他の親と話すことで、『自分の子どもだけではない』と悩みを共有できる。悩んでいる人は一度足を運んでほしい」と話している。

 

『毎日新聞』 2008年12月14日付

 

<引用は以上>

 

全国の都道府県で、この記事のような取り組みが盛んになれば、1人で悩みを抱え込む親御さんが減っていくと思います。

社会福祉用語に「福祉ミックス」という言葉がありますが、行政が取り組むことも、民間組織が活性化することも必要です。

発達障害の分野も、地域活動をもっと充実しなければ、自分たちが暮らす地域での理解や支援が得られません。特別支援学校の教員を目指す者として、また、社会福祉を学ぶ者として、すべての人々が「生きやすい」まちづくりが重要だと考えます。