ブレインデッド
※ネタバレです。
製作年 1992年
製作国 ニュージーランド
上映時間 103分
監督・脚本 ピーター・ジャクソン
脚本 スティーブン・シンクレア、フラン・ウォルシュ
製作 ジム・ブース
出演 ティモシー・バルム、エリザベス・ムーディ、ダイアナ・ペニャルバー 他


あらすじ
母親と2人で暮らすライオネルは、雑貨屋の娘パキータと恋に落ちる。ある日、2人が動物園でデートをしていると、後をつけてきたライオネルの母親が誤って珍獣のラットモンキーに噛まれてしまう。母親の具合は次第に悪化し、ついには恐ろしいゾンビとなって人を襲いだすが...



北米では「Dead Alive」というタイトルで公開されたんですね。





なんだか最近ホラー映画ばかり観ている気がするんですが、僕は子供の頃から元気が出ない時はホラーが観たくなるタチでして。



本作は昔から観たいと思ってたんですが、近所のTSUTAYAにも無ければ、配信もしてないということで初見でございます。


あの「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズピータ・ージャクソン監督作ということで、かなり自分の中で期待値が上がってはいたんですが、




大好きでした!




とにかくたくさんの方がおっしゃっているように、バリエーション豊かな度を越した残酷描写や不謹慎描写がてんこ盛りで、それだけでも十分楽しいんですが、どこかコミカルで、本質的にはコメディ映画なんだなと思えるぐらい楽しい作品でしたよ。ていうか、こんな作品が政府の助成金で作られたなんて信じられないです。ニュージーランド政府って寛容。



個性豊かで生き生き(おかしな表現ですが)としたゾンビたちは見ていて本当に飽きないし、「パーティーは終わりだ。」からの怒涛の展開は、正直このくだりだけ何度も見返したいくらいテンションが上がりましたよ。


カンフーで戦う神父っていうのもバカバカしくてよかったです。こんなんなっちゃいましたが...



どこまでも悪趣味で不謹慎なホラー要素に、ユーモアを絶妙なバランスで織り混ぜて仕上げたというだけでも、本作は傑作と言えると思うんですが、僕が感心したのが、登場人物の成長もしっかり描いているというところで。これはこの手の作品には意外と珍しいことだと思います。


主人公のライオネルは、過去に事故で亡くした父親に対する罪悪感から支配的な母親に縛られて生きています。確かに優しい青年ではあるんですが、主体性は無くて。彼がゾンビ化した人々を匿う場面は、彼の優しさを表しているようで、実はその場しのぎの無責任な行動にも見えるというか。鎮静剤で誤魔化してはいますが、それは問題の解決にはならないし、単に問題を先送りにして、ゾンビたちの命に向き合おうとはしていないように見えるんです。



結局ライオネルは、覚悟も無いままにゾンビたちに対して責任を負った代償として、現実問題としての「彼らを殺さねばならない。」という問題に向き合い、大きく成長します。



終盤でライオネルは、実は父親の死の真相が母親による殺害であったということに気がつき、ショックを受けます。これは母親が彼を騙していたとも取れますが、不都合な真実から目を背け続けてきた彼が、真に自らの心に向き合ったがゆえの結果でもあります。



クライマックスで、怪物化した母親の胎内に取り込まれたライオネルは、腹を突き破り脱出。母親を殺します。このシーンは出産のメタファーになっていて、まさに彼の「再生」、「生まれ変わり」を表しています。ジャンルは違いますがサンドラ・ブロック主演の「ゼロ・グラビティ」でも、「出産」→「再生」のメタファーとなるシーンがありました。



ロマンスキャラクターであるパキータもまた、ライオネルと共に成長していきます。彼女は占い師である母の言い付けに従って自らの行動を選択してきましたが、最終的にライオネルが、彼女の母から渡されたお守りを投げ捨てるシーンで物語は幕を閉じます。これは運命は自らの手で切り開くということを2人が決意した瞬間です。







ライオネルもパキータも、これまでの人生における選択を、他者の責任にして生きてきました。彼らはゾンビに立ち向かうと同時に初めて自分自身に向き合い、自らの責任において人生を選択していく強さを獲得していきます。



ともするとその悪趣味かつ不謹慎なルックで、バカ映画という認識を持ってしまいそうな本作ですが、「自立することの大切さ」という、とても普遍的なテーマを持つ気骨のある作品になっていると思います。また、「支配的な母親の元で育った主人公」という意味でも、先日鑑賞した大森立嗣監督作「MOTHER」を少し思い出す作品でごさいました。



あと細かいところだと、冒頭で部族に追いかけられるシーンは、同監督作「キングコング」をなんとなく連想したんですが、「裸のジャングル」「食人族」の影響なんかもあるんですかね?



もちろん残酷描写は激しいですし、不道徳な場面も多いので、万人にオススメできるかと言われると難しいです。ただ、本作の軸となるメッセージやテーマといったものは、誰もが共感できるものだと思いますし、特に「親子関係における確執や葛藤」をテーマにした作品が好きな方は結構楽しめるのではないでしょうか。



この手の作品に対して、「こういうのって、一部の好事家だけが喜ぶ映画なんでしょ。」というようなイメージを持たれている方がいるなら、それはやっぱりもったいないし、一見別々のジャンルの作品が、実は同じようなテーマやメッセージを持っていて、何気なく観たらビックリなんてこともたくさんありますのでね。もちろん食事中の鑑賞は決してオススメできませんが(笑)



ホラー、コメディ、そして物語の背骨となる強いメッセージ。名匠ピーター・ジャクソン監督の出世作として、個人的には大満足の作品でございました。残念ながら今なかなか観るのが難しいようですが、もし観る機会があるなら逃さずチェック!
オススメです。


個人的評価
8/10



大好きなピーター・ジャクソン監督作。何度観ても興奮&号泣してしまいます。