MOTHER マザー
※ネタバレです。
製作年 2020年
製作国 日本
上映時間 126分
監督・脚本 大森立嗣
脚本 港岳彦
エグゼクティブプロデューサー 河村光庸
プロデューサー 佐藤順子
共同プロデューサー 金井隆治、鈴木俊輔、岡本圭三、飯田雅裕
撮影 辻智彦
助監督 近藤有希
音楽 岩代太郎
出演 長澤まさみ、奥平大兼、阿部サダヲ、夏帆 仲野太賀 他

あらすじ
定職に付かず、家族や周囲の人間に生活費をせびりながら生活する秋子と息子の周平。何とかその日暮らしを続けてきたものの、秋子が行きずりの男との子供を妊娠したことで事態は悪化し、ついに両親から縁を切られ、男にも逃げられてしまい、2人は孤立を深めていくが...





映画好きな妻の友人が、「かなり胸糞悪かった...」なんてことを言ってたということで、NETFLIXで鑑賞しましたよ。


家族犯罪を題材にしたノワール作品ってたくさんありますけど、近年ではそれこそポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」や、白石和彌監督の「ひとよ」是枝裕和監督の「万引き家族」はかなり好きだったし、そして胸糞悪かったという意味で個人的には赤堀雅秋監督の「葛城事件」がかなり最悪(いい意味で)だったので、あんまり意識したことはなかったですけど、けっこう僕が好きな題材なのかなと。




でもね...



曲がりなりにも小学生の頃から映画を見続けてきて、そりゃあ相当に胸糞悪い映画だって観てきましたよ。それをいくら妻の友人が勧めてくれた作品だからって、正直ちょっと懐疑的になるめんどくさい自分っているわけですよ。「あの映画めっちゃグロかったよ~。」とか、「めっちゃ胸糞悪かった~。」とか他人に言われても、



「せいぜいおできの1つ2つできたような話で騒いでんだろ。」


とか考えてしまうというか。


だから他人に勧められるとちょっと構えるところがあるので、本作に関しては若干の不安を抱きながら鑑賞しました。








先に結論から言わせて頂くと、





ハラワタが煮えくり返るかと思いました。



とにかくやっぱり長澤まさみはスゲーというか。正直今まで僕が観てきた歴代腹が立つキャラクターの中でもトップクラスにムカつく女なんですよ。あの自分は手を汚さずに全部息子の周平にやらせるあたりが本当に腹立たしいわけですが、周平をパシリ的に使う時に、「○○ダッシュ。」とか言うのがマジでムカついて(周囲の人間の結局無関心な感じも嫌だった)。


理不尽な花京院に対して不満をぶちまけるポルナレフ。
(「ジョジョの奇妙な冒険 第三部 スターダストクルセイダース」より)



ただ、もちろん長澤まさみの演技は素晴らしかったんですが、いくらムカつく女とは言え、どうしたって長澤まさみな部分というか、やっぱりすごい美人だから、個人的にはもう少し一般人感が欲しかったです。これは別にブスならいいとかではなく、スゲー美人って訳ではないけど、なんか色気があるっていう感じの絶妙感が足りなかったかなと。そういう意味では、呉美保監督の「そこのみにて光輝く」池脇千鶴が本当に素晴らしかったので、ちょっと比べてしまったり(どことなく池脇さんに失礼な感じになってしまいましたが、彼女もすごく美人だと思ってますよ)。



それにしても、息子の少年期を演じた奥平大兼がマジですごい!彼はオーディションで選ばれたそうですが、表情から佇まい(さりげなく拳に力が入ってたり)までものすごい存在感なんですが、個人的には、声の出し方がすごく好きだったなぁと。なんか独特な脱力感というか虚無感というか、「え..あぁ...」みたいな台詞を言う時が本当に素晴らしくて。彼を見るだけでも本作を鑑賞する価値はあるんじゃないかと思います。


一人だけ背を向けて眠るこのシーンとか、すごく計算されてるなーと。



ただこれは僕の好みですが、周平が祖父母を殺害するシーンはちゃんと見せて欲しかったかなぁ。包丁で刺したっていうことは後から分かりますが、彼の演技が素晴らしかっただけに、どんな顔で殺したのか見たかったという気持ち。まあそれを入れるとR指定になりそうだし、あえて見せない方が好きっていう気持ちも分かりますけどね。



あと阿部サダヲさんは、ダンレボをしている時の脚がキレイすぎるということが本作で明らかになったわけですが、やっぱり器用な方だなと。ちゃんとダメ男としてかなり説得力のある見た目と演技でしたし、何より、妻が怒っているときに変な小躍りをするというのは、僕も全く同じことをやってしまっていて、火に油を注ぐような結果になることがよくあるため。本作を観てもうやめようと身に詰まされた次第。






本作を鑑賞して思ったのは、「家族という呪い」ってあるよなぁということで。



家族ってやっぱりそれが良い関係にしろ悪い関係にしろ、何よりも強い絆ではあって。たとえ、家族や親類にどんなに嫌いな奴がいたとしても血縁だから縁を切れない。そういうことで悩んでる人って実際たくさんいるんだろうなぁ...




本作の登場人物に対して思ったのは、結局みんな自分のために行動してるなと。



表面上好き勝手にやってる秋子と遼にやっぱり目が行きがちですけど、実は一見被害者に見える周平でさえ、ある意味彼自身のために行動しているとも言えるわけで。


彼はこれまで母親を通してしか世界を認識できなかった。例えるなら母親というサングラスをかけた状態で世界を見ていたわけで。フリースクールに通い始めて、ようやく肉眼で世界を見るようになった周平は、初めて自分の本音と向き合い、大きく揺らぎます。


でも肉眼で見る世界はすごくまぶしいし、もう一度サングラスが欲しくなるのもまた人の心で。


なんて言うんですかね、違う記事で書いたことがありますけど、




不幸でいる苦労をするほうが、幸せになる努力をするよりも楽。





誰だって自分の本心と向き合い、殻を破ることってかなり痛いし辛いことだと思うんですよ。実際、周平には選択肢がなかったわけではなくて、自ら選択して母親についていったわけです。彼の不幸は母親によるものではなく、彼が自分で不幸でいることを選んだと僕は思います。



本作は正直、劇映画としての面白さやカタルシスを求める方にはあんまりオススメできないとは思います。通常の劇映画であれば、大体は登場人物が追い込まれる展開は必ずあって、それを乗り越えることで生まれるカタルシスがクライマックスに用意されているものなんですが、本作はただひたすら登場人物が追い込まれるだけなので、本来必要な「成長」という要素が描かれないからです。


でも全く描かれないかと言うとそんなこともないというか。


ラストで周平は、



母を好きなことは間違いだったのか?


という根本的な疑問に行き着きます。僕はこれはすごく重要なことだと思って。


今まで客観的に自分自身を見ることが出来なかった彼が、初めて彼自身を自覚的に捉えた瞬間であり、自らを客観視するという、人間が精神的に成長するために重要な第一歩をまさに彼が踏み出したように見えて。暗黒な印象を受ける結末の中で、ほんの少しだけ光を感じる部分だったと思います。



本作でちょっとだけ気になっちゃったところを書いておくと、さすがに腹を刺されたりとか、事務所の金を盗まれたりしたら、いくらなんでももう少し早い段階で警察沙汰になるだろっていうのは思って。まあ実話ベースなので実際こうだったと言われたらそれまでなんですが。あと、ホームレスになった周平と妹が歩いている道の反対側に、サンタクロースの帽子を被った幸せそうなカップルを対比的に置くっていうのは、もちろんそれ自体が時世の説明にもなっていて上手いなぁとも思うんですが、あんな寂れた道をサンタ帽被って歩いてる奴いるかな?っていう違和感があって、若干、あからさまに上手い演出ですって言われてるように感じたなと。



ちょっとだけ文句は書きましたけど、この辺は本当に些末なことでね。


本作のオチは、いわゆる商業的なメジャー作品によくあるような、甘やかしは一切無い厳しいものなので、多くの方が目をそらしたいラストだと思います。僕もそうです。


でも、確かに甘やかしてくれないし、ものすごく厳しいんだけど、でも決してあきらめじゃない




それでも人はきっと変われる。



という作り手の暖かい眼差しというか、エールも同時に感じるような、優しい作品だったとも思います。


かなりキツイ作品ではあるので、「劇場版おっさんずラブ」とは別の意味で2度と観たくない映画ではあるんですが、間違いなくショックを受けるし、大きく感情が動く作品であることは間違いないと思います。オススメしづらいけどオススメです。


個人的評価
8/10


いろんな意味で最悪で最高だった家族映画。


同じタイトルですげームカついたダーレン・アロノフスキー監督作。「他人が自分の家で勝手なことをする。」これを聞いてイラっとする人は高確率で楽しめ(?)ます。