月 | 3代目大村屋

3代目大村屋

映画・ダンス・旅行を中心に、日々感じた事を…

監督:石井裕也

出演:宮沢りえ 磯村勇斗

 

 障がい者施設「やまゆり園」の事件をモチーフにした辺見庸の同名小説を映画化。夫と暮らす元作家の洋子は、森の奥深くにある重度障がい者施設で働き始める。そこで彼女は、作家志望の陽子や絵の好きな青年さとくんら同僚たち、光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない、きーちゃんと呼ばれる入所者と出会う。そして、職員による入所者への虐待や暴力を目の当たりにする。そんな理不尽な状況に憤るさとくんは、正義感や使命感を徐々に増幅させていく。

 

 全編を通じて、暗くて陰湿な雰囲気で怖かった。原作は辺見庸のフィクションだけど、やまゆり園の事件をモチーフにしているから、実際もこんなひどい状況だったのかと思ってしまう。裁判では元職員がそういう証言をしているが、園長は虐待は把握していないと言っていたらしい。辺見庸は多くの施設を取材して実際にあったことだけを小説に書いたと話している。この事件では植松聖死刑囚の犯罪行為や考え方にばかりスポットが当たってしまったが、高齢者施設や障がい者施設などでは入所者への虐待事件はその後もたくさん起きている。映画ではその当たりをしっかり描いていた。

 

 施設で働く人はみんな気が変になるみたいな台詞があったけど、そんなことないと信じたい。さとくんがなぜ障がい者を無意味な存在として、殺そうとしたのか、はっきりとは分からなかったけど、さとくんはどこにでもいる普通の青年で、むしろ、正義感が強い感じに描かれていた。誰もがさとくんになりうるということだよね。洋子はお腹の子どもをどうすることに決めたのか、最後、そこは映さなかったけど、きっと生むことに決めたような気がする。

☆☆☆☆(T)