
-最新情報-
☆もっぱらつぶやいてます。
☆ホームページ (ブログ記事のindex)
思吉!北海道212市町村カントリーサインの旅 ~ 第1回旅 7.キャンプ場
八雲町のキャンプ場は日本海側の熊石町《くまいしちょう》に抜ける峠道の途中の脇道にある、おぼこ山荘という温泉の傍らにあった。
入場料や駐車料金のない、水汲み場があるだけの簡素なキャンプ場だ。
テントを立ててレトルトカレーを温めるだけの僕らにはこのくらいがちょうどいい。
「とりあえず疲れたな。温泉行こうよ。」
今日1日ずっと運転してきた岩清水が提案する。
誰一人として異論はない。
多少テント張る時間が遅くなるとしても温泉に入りたい。
温泉の入湯料は大人600円だった。
山間の本格温泉にしては格安だ。
内風呂から露天風呂までは長い長い階段を下っていく。
川のせせらぎが聞こえてくるということは、川べりに露天風呂があるということなのだろう。
あいにくすっかり夜なので周囲の風景はわからない。
ただ、見上げると満天の星空が僕らをまぁるく包み込んでいた。
山間なので小さい星までよく見える。
僕らは星空に包まれて湯に浸かるという行為に満足した。
しかしあまりゆっくりも出来ない。
湯から上がったらテントを建てなければならないからだ。
僕らは早々に湯を出て、隣のキャンプ場に戻った。
テントは大して大きいテントではない。
簡単なテントなので10分もあれば十分に設営出来た。
そのあとテーブルも組み立てれば夕食の準備に入れる。
夕食の準備と言ってもカセットコンロで湯を沸かして、レトルトカレーを温めるだけだ。
ご飯はもちろん炊いてる時間など無いのでお惣菜コーナーのご飯を買ってきた。
僕らはカレーをご飯に掛けると缶ビールも開栓した。
「かんぱーい!」
缶ビールを突き合わせる。
「明日は帰るだけでしょ?」
三浦が訊く。
「いや、折角だからとりあえずくじも引くだけ引いてみようよ。」
僕が答える。
「えっ?まだやるの?」
「帰り道の市町村が出るかもしれないじゃん。」
「そうだな、帰り道出たら寄れるしな。」
岩清水も賛同する。
「帰り道じゃなかったら?」
「それは行かないよ、さすがに。」
「そうと決まったら早速くじ引こうぜ。」
今日くじを引かずに運転だけしてきた岩清水は早速くじを引きたいようだ。
「オッケー、帰り道を頼むぜ。」
僕はくじのケースを車から持ってきた。
「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」
近隣のキャンパーの迷惑にならないよう控えめに唄う。
「よし、これだ!」
岩清水がくじを1枚引いた。
「ん?何だこの黄色い坊やは?」
そのカントリーサインには顔が縦に長くて黄色い顔のキャラクターが描かれていた。
「これは・・・芋かな?」
「わかんないな、下開いてみて。」
「厚沢部町《あっさぶちょう》。」
岩清水が読み上げる。
「厚沢部町って・・・隣じゃん!」
「隣!!?」
「すごいな、よく隣なんて引いたな。」
「これは明日行けるな!」
「もちろんだ!」
僕と三浦はそれぞれに岩清水のくじ運を称え、テントで眠りについた。
思吉!北海道212市町村カントリーサインの旅 ~ 第1回旅 6.八雲町到着
「やっと海に出たな。」
僕は疲れ果てたような口調で言った。
「こんなに走ってきて今日初めての海か・・・。」
ずっと運転してきた岩清水も流石に疲れた様子だ。
「八雲まであとどのくらいあるの?」
三浦も疲れた様子で訊く。
「1時間じゃ着かなさそうだから2時間位かな?」
僕は地図を見ながら返答した。
「じゃあここらへんで買い出ししておいた方が良いかな?」
「もう夕方だもんな。」
太陽は西の空にだいぶ傾いている。
「買い出しはカレーの材料?それともレトルトカレー?」
三浦が核心を突いてきた。
今から八雲に走って、キャンプの設営をしてからではちゃんとしたカレーなど作れまい。
「そうだな、レトルトカレーだな。」
岩清水が諦めたように言った。
「仕方がないな。」
“キャンプをする”という今回の趣旨がだいぶ崩れてしまったが、実際仕方あるまい。
外でレトルトカレーを食べて、テントで寝るだけでもキャンプをしたものとしよう。
虻田町《あぶたちょう》の市街地にはスーパーが1軒あった。
僕らはドライブの休憩を兼ねての束の間の買い出しを楽しんだ。
レトルトカレーの他に缶ビールを1本ずつだけ買い物かごに入れた。
明日は明日で八雲から札幌まで移動しなければならないからそんなに呑んでもいられない。
スーパーを出ると、西に傾いていた太陽はすっかり西に見える山並みに沈んでいた。
ここからしばらくは太陽の沈んだ方角に車を走らせ、噴火湾に沿って弧状に南に進路を変えていく。
豊浦町《とようらちょう》、長万部町《おしゃまんべちょう》と通過する頃には進路はすっかり南へと変わる。
長万部の市街地を越えて暫くすると国縫《くんぬい》の集落を抜ける。
ここまでは長万部町内で、高速道路も今のところはここまで延びている。
「やっと高速道路の終点を越えたか。」
「もうすぐ八雲町に入るぞ。」
僕は地図帳を見ながら告げた。
国縫《くんぬい》の集落を過ぎて8分ほどで八雲町のカントリーサインが左前方に見えてきた。
「あったぞ!」
助手席の僕が最初に発見し、発声した。
「なんだかもはや懐かしくすらあるな。」
400km運転してきた岩清水が路肩に車を寄せながら感慨深げに言った。
この八雲町のカントリーサインを引いてから8時間半経過していた。
「じゃあ記念にこのカントリーサインの前で記念撮影しよう。」
「でももう暗くて写んないよ。三脚も無いし。」
三脚がないので撮影しようにも暗いから手ブレが酷いし、フラッシュを焚くとカントリーサインが反射してうまく撮れない。
カメラが安物だとどう頑張ってもうまく撮れそうにはなかった。
「仕方がない。明日明るい時間に改めて撮ろう。」
思吉!北海道212市町村カントリーサインの旅 ~ 第1回旅 5.八雲町に向かう
士別の高速道路のインターチェンジは士別剣淵インターといい、名前の通り士別市と剣淵町の境目にある。
今のところは日本最北のインターチェンジである。
北海道を南北に結んでいる高速道路は道央自動車道といい、ここから南に下り、旭川を通って更に南下する。
石狩平野を一気に縦断した後は東に折れて勇払原野を弧状に回り込み、太平洋に出る。
そこからは噴火湾沿いをぐるっと回って八雲の手前の国縫インターまで延びている。
八雲町に向かうにはそこまで一気に走り抜けるのが最速ではあるが、通行料が馬鹿にならない。
そこで、江別の手前の岩見沢インターで降りて、残りは下道で向かう作戦で行くことにした。
道央道は岩見沢までは真っ直ぐ南に向かうが、そこを過ぎると札幌に向かって少し遠回りをするからだ。
岩見沢で降りて真っ直ぐ南に向かえば、遠回りせずに済む。
僕らはそこに通行料と先を急ぐ旅路との折り合いをつけた。
士別剣淵インターから高速道に乗り、岩見沢インターで降りるまでは1時間程かかった。
高速を降りたらひとまずコンビニに寄る。
ドライブを楽しむには飲み物も軽いお菓子も必要だ。
出来れば皆でつまめる物が良い。
じゃがいものスティック菓子やチョコレートなんかが良い。
3人共思い思いの食料を買い、岩見沢市を出発した。
ここから栗沢町と長沼町を縦断し、まずは千歳市まで南下する。
千歳からは真っ直ぐ西に向かい、支笏湖の縁と洞爺湖の縁を経由して虻田町の海に突き当たる。
そこからはもう噴火湾沿いを海を左に見ながら走れば八雲に着く。
久々に集まってキャンプに向かう道中の、最初の頃こそ話は尽きなかったが、1時間も話せば話すことはそんなに無くなり、僕らはもう、とうの昔に話題など尽きていた。
もう5時間も走り続けているのだ。
話すことも無くなると、退屈を持て余した人間はしりとりを始める。
単なるしりとりではあまりにもつまらない。
やがてテーマを決めてしりとりを始める。
僕らは動物の名前でしりとりをすることにした。
「しりとりの“り”。」
「リス。」
「すずめ。」
「めじろ。」
「めじろ!?ロバ。」
「ば?馬刺し?」
「喰うなや!」
動物しりとりは時間つぶしにはとても良かったが、長い時間やっていると煮詰まってくる。
どうにも動物の名前が思いつかない文字があるのだ。
「ちょっと“あ”から順番に動物の名前あるか考えようぜ。」
「あり。」
「いぬ。」
「うし。」
順に考えていった僕らに思いつかない文字は3文字だった。
「“の”と、“る”と、“ぜ”が思いつかないな。」
「うん、思いつかない。」
そうしているうちに僕らは虻田町の海に突き当たった。
思吉!北海道212市町村カントリーサインの旅 ~ 第1回旅 4.士別市へ
何はともあれお腹が空いた。
市街地に向かって食事する場所を探そう。
今居る岩尾内湖から市街地までは15kmほどある。
北海道において15kmというのは15分で着くことを意味する。
市街地に着いて食事出来る店を探してみるものの、とんと見当たらない。
そもそも店が少ない上に、今はお盆なのである。
田舎の食事処がお盆に開いていないのは必定である。
「どこも開いてないな。コンビニすら無いよ。」
「ここまで来てコンビニ飯も嫌だけどな。」
「仕方ない、隣の士別市行ってみるか。」
僕らは朝日町に見切りをつけて士別に向かう事にした。
すなわちカントリーサインの旅の最初の目的地でする事はもう何もない。
士別市はそれほど大きな街ではないが、食事処くらいはあるだろう。
朝日町から士別市までは15分ちょっとで着いた。
はたして、士別市ではすぐに食堂を見つけられた。
食堂はいかにも地方の食堂といった佇まいで、メニューには各種定食、ラーメン他にカレーなどが揃っている。
僕は不味いカレーというものを食べた記憶がない。
ここは無難にカレーを注文しよう。
いや、カツくらいは載せてカツカレーにしようか。
岩清水は生姜焼き定食、三浦は醤油ラーメンを注文した。
いずれも無難な選択肢といえよう。
不味くなりようがないと思う。
なんというか、無難ではないメニューを頼んでみようとは思えない佇まいの店である。
10分ほど待って出てきたカレーは店のカレーというよりは人んちのカレーと言ったほうが適しているような見た目をしている。
野菜がたくさん入っていて、カツは豪快に載っている。
端の方にちょっとしたサラダも載っており、赤いウィンナーも載っていた。
人んちのカレーにさすがにサラダは載っていないか。
そこにこの店の矜持を感じたが、味は人んちのカレーといった感じである。
まぁ、美味しい。カレーであるからして、とりあえずは美味しい。
岩清水の生姜焼き定食も、三浦の醤油ラーメンも無難な見た目である。
三人とも無表情で完食し、店を出た。
「普通だったな。」
「まぁ、普通だろう。」
「いいよ、夜はもっと美味いもの食おう。」
「夜はキャンプでカレーだろ?」
「今カレー食ったけどカレーだな。」
夜もカレーだからといって昼にカレーを食べてはいけないという法は無い。
カレーは何食連続で食べても構わない食べ物だと思っている。
北海道の高速道路は南北に延びている。
現在のところ、その最北地点はここ士別市である。
八雲まではおよそ400kmある。
僕らは八雲町でキャンプがしたい。
今日はキャンプをするために江別を出発したのだ。
下道を走っていたのではキャンプ場でカレーを作る時間はおろか、テントを建てる時間もない。
僕らはここからしばらくは高速道路に乗ることにした。
思吉!北海道212市町村カントリーサインの旅 ~ 第1回旅 3.2回めの抽選
カントリーサインというものは市町村の境界線上にあるものであって、市街地にあるものではない。
市街地というものは普通市町村のキワではなく少し中心に寄った位置にあるものだ。
今朝日町には愛別町からの峠越えで入ってきたので、当然ながら市街地まで少し走ることになる。
昼食場所のあてはないが、とりあえず市街地に向かえば何かあるだろう。
「オレは朝日町来た事があるよ。」
僕は大学時代にちょっとした用事で来て1泊したことがあった。
「ふーん、で、食堂とかあるの?」
三浦が訊く。
「いや、それはわかんないけどスズメバチがやたらと飛んでる町だよ。」
「危ないよ!そんな情報要らないよ!」
岩清水がすかさず突っ込む。
「スズメバチは食えないもんな。」
市街地に向かう途中に岩尾内湖という湖があった。
折角朝日町まで来たので観光のつもりで停車して降りてみる。
「全然水が無いじゃないか。」
「干上がったダム湖を観たって全然楽しくないよ!」
辛辣ではあるがもっともな意見をそれぞれに口にする。
「ところでどうする?この街のキャンプ場はこの湖の畔にあるようだけどここでキャンプする?」
僕は訊いてみた。
「この干上がったダム湖の畔で?」
「スズメバチも居るんだろ?」
岩清水が心配事を口にする。
「スズメバチが居るかどうかはわからないけど、まだ昼だしチェンジも可能だよね。」
「よし、もう1回くじ引いてみるか!」
僕は抽選用のくじを入れた陶器の容れ物を車から持ってきた。
容れ物は何でも良かったのだが、家には丁度良いものが見当たらなかったので100円ショップで適当に見繕ったものだ。
「じゃあ引くよ。」
前回は三浦がくじを引いたので、今回は僕が引くことにした。
「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」
僕らが始めたこの旅のきっかけとしている水曜どうでしょうの企画でも口ずさまれている唄である。
「よし、これにしよう。何の絵かな?」
そこには1頭の牛と牧場の風景が描かれていた。
「ん??何処だっけな、これは・・・」
「牛でしょ?道東の方じゃないの?」
三浦の推測はもっともだ。
「うーん、別海はこんなんじゃなかった気がするしなぁ。」
「何か遠そうな気がするね。」
岩清水は何かを感じ取ったらしい。
「何か南の方で見たような気がするんだよなぁ。じゃあ、開くよ。」
僕は下半分に折りたたまれた市町村名を開いた。
『八雲町』
「あ・・・、遠い。」
僕はすぐに距離感を把握した。
「え?八雲町ってどこ?」
「八雲ってどこだっけ?」
二人はピンときていないようだ。
「函館のちょっと上だよ。」
僕は二人に宣告する。
「遠いな!馬鹿野郎!」
岩清水はくじを引いた僕を責める。
「いや、いいよ。じゃあここでキャンプしようよ。」
三浦は朝日町に留まる意思を表明する。
「どうする?引いたんだから行くな?岩清水!」
「当たり前だ!引いたんだから行くぞ!」
「えー!ここでいいじゃん!」
多数決で八雲町行きが決定した。
こうして僕らの夏キャンプはカントリーサインの旅へと変貌した。
そして同時に永い永い旅の始まりを告げた。
軽い気持ちで決した決断であったが、まさに運命の多数決であった。