その日 二人の男性が
お店にやって来ました
裏で チャームを作っていると
ママが来て こう言いました
" あの二人 実は私の同級生で
左側の人は Mさんと言って
奥さんの 納骨を
終えたばかりの人なの
・・・・・先日ね
同窓会が あったのだけど
皆んなに 気を
遣わせたくないって
彼は 奥さんの事
誰にも言わずに 黙っていたのよ
今もああやって 笑っているけど
本当は とても
辛いと思うわ
だから 今日は少しでも
彼に 楽しかったと
思ってもらえる時間を
皆んなで つくろうと思うの "
窓の外は 雨
時間も遅く お店は貸切状態
歌が好きな Mさんを
囲むような気持ちで
皆んなで ワイワイしながら
カラオケの曲を
次々と 入れて行きます
Mさんは 笑って
ふざけた事を言いながらも
誰かを想う " 恋 " の曲を
沢山 歌って
奥さんの事を 知っているママと
一緒に来た 友人の方は
" お前 歌めっちゃ上手いなぁ!
心に グッと来るわ〜 "
" 何か 歳をとると
夜起きてたら 涙出てくる様に
なったんよね〜 "
そう言って 笑いながら
涙を拭いていました
Mさんの奥さんは
きっと どこかで
今の 私達の様子を
見ているのだろうな
・・・そう 思いました
やがて 暫くして
Mさんが
DREAMS COME TRUEの
" やさしいキスをして " を
歌い始めた時
お店の中の 空気が
変わった 気がしました
Mさんの 気持ちが
これまで以上に
沁みるように 伝わって来て
皆んな 静かに
聴き入っています
すると
まるで カメラのズームを
合わせるように
Mさんの 胸のあたりに
引き込まれるような 感じが
したと思ったら
そこに
亡くなった 奥さんが
居るのがわかりました
歌う Mさんの背中に
そっと 両手を重ね
うずくまるように
頬を寄せて
ごめんね
ごめんね
ごめんね
そう 言っているようでした
その
言葉では 説明出来ない
優しくて とても温かい
胸が締め付けられる様な
想いに
思わず 号泣しそうになった私は
すぐに 意識をそらし
平静を装うことに 集中しました
Mさんは それからも
ずっと
いろんな 恋の歌
愛の歌を
歌い続けました
目に 見えなくとも
背中に頬をよせる 奥さんに
届けと 言わんばかりに
まるで 二人で
会話を するように
寄り添うように
そうして 時は
あっという間に過ぎ
Mさん達も そろそろ
帰らなければ ならない時間
そこで 最後の曲だと言って
Mさんが カラオケに入れたのは
" やさしいキスをして "
友人の方が
" この曲 一回歌ったやろ? " と 言うと
Mさんは
" そうやったっけ?
酒に酔ってて 覚えてないわ "
そう言って さっきより優しく
そして
小さく 歌いました
帰り際 何度も
" ありがとう! 楽しかったよ! "
雨の中 手を振りながら
そう言って 帰って行く
Mさん達の姿を
ママと 手を振りながら
姿が 見えなくなるまで
お見送りしました
私は 自分が
この人生を 終えるとき
何を 想うのだろう
誰かを 想えたり
するのだろうか