中村紘子『チャイコフスキー・コンクール』中公文庫版

(1988/中公文庫、1991.11.10)

 

副題は

カバーにもある通り

「ピアニストが聴く現代」

ですけど

奥付には記載されていません。

 

今、気づきましたが

カバーのタイトルには

「チャイコフスキー」と

「コンクール」の間の

中黒点が落ちてますね(笑)

 

 

こちらは先月、7月4日に

長澤奈央&山本康平主催のイベント

《忍びの密約》三の巻を観覧し

ヲ仲間との飲み会を済ませ

新宿のディスクユニオンに寄った際

見つけたものです。

 

チャイコフスキー・コンクールに

特に思い入れはなかったんですが

中村紘子の書いた本

ということで購入。

 

本書を読む前に読んでいた

青柳いづみこ

『ショパン・コンクール』の

 

青柳いづみこ『ショパン・コンクール』

(中公新書、2016.9.25)

 

「あとがき」で

中村紘子の訃報についてふれており

それに虚を突かれたこともあって

夏期講習の行き帰りに

車中で読み始め

最終章は就寝前に一気に読了。

 

 

内容は

中村紘子が審査員を務めた

第8回チャイコフスキー・コンクールの

現地レポートといったようなもので

第1著書にあたるようです。

 

以前ご案内の

『ピアニストという蛮族がいる』

(以下『蛮族』と略記)が

第2著書にあたると知って

ちょっとびっくり。

 

というのも

『蛮族』で詳しく書かれている

久野ひさ子や

明治以来の洋楽事情について

本書でも言及されているからです。

 

 

1982年に開催された

第7回コンクールのピアノ部門で

日本人として初めて審査員を務め

その4年後の1986年にも

2度目の審査員を務めた中村は

その後、さまざまなコンクールで

審査員を務めることになりますが

その内幕を書いたのは本書くらい

ではないかと思います。

 

解説で吉田秀和が

ソ連[現・ロシア = 老書生註]の音楽界の現実をこれほどの迫力とリアリティでもって書き伝えている文書は(略)世界的にみても、珍しいのではないだろうか。(p.303)

と書いていますけど

そこまで肩肘張ったもの

シリアスなものという印象はなく

コンクールの歴史や

日本の洋楽受容の事情なども

盛り込みながら

ユーモラスに書き綴っている

という印象です。

 

『蛮族』もそうでしたが

中村紘子には歴史的な視点があり

それが知らず知らずのうちに

分析的な筆致として

行間に滲み出てきている

という感じがします。

 

ですから

国際コンクールの歴史や

日本のクラシック需要について

書かれている章などは

自分の見聞だけでなく

参考文献なども引き

説得力があるのみならず

読んでいるこちらも

勉強になる内容になっている

と思いました。

 

初版本刊行時から数えると

もう40年近く前の

本になるわけですが

国際コンクールや

日本の洋楽受容については

内容が古びていません。

 

 

ちなみに

吉田秀和は解説で

やや推理小説めいたタッチでとらえたソ連像を、読者に、与えてくれる(同)

と書いていますけど

どこが推理小説めいているのか

見当もつきません。

 

自分と吉田秀和とでは

推理小説に対するイメージが

違うでしょうし

時代的な背景に由来する

イメージもありますので

しょうがないんですけどね。

 

 

巻頭には

写真を掲げたページが

12ページにもわたっており

こういうところも

歴史的な視点というか

資料を提供する

というような姿勢を

見出せるのでした。

 

惜しむらくは

索引がついていないこと

ですかね。

 

青柳の『ショパン・コンクール』には

引用文献リストと

人名索引がついていて

今風というか

あとで見直すときに便利だなあ

と思っただけに

なおさらです。

 

 

青柳の『ショパン・コンクール』の

「あとがき」を読んで

虚を突かれたと

上で書きましたけど

本書もまた、本扉をめくったら

「福田章二さんに」

という献辞があるのに気づき

虚を突かれました。

 

福田章二は

今年の4月5日に

老衰で亡くなった

庄司薫のことで

中村紘子の配偶者です。

 

古い本を読んでいると

こんなことがあるわけで

しばし感慨に

耽ってしまいました。