本日の金沢は雨模様で
前回の冒頭にも書いたような事情もあり
一日中、家に引きこもっておりました。
実家に残していった本を
読めばいいんですけど
大人向けの小説は
なぜか読む気がおきず
手に取ったのがこちらの1冊。
(1954/瀬田貞二訳、学習研究社、1968.6.10)
〈少年少女・あたらしい世界の文学〉
というシリーズの第11巻で
原題は The Children of Green Knowe.
児童文学に詳しい方であれば
現在では
『グリーン・ノウの子どもたち』
という邦題で知られている本だと
気づくかもしれませんね。
おそらくはその本邦初訳版です。
寄宿学校が冬休暇に入り
地方在住の大おばから
こちらに来て過ごすよう
手紙が届いたので
グリン・ノアまでやってきた
トーズランド少年が
グリン・ノウの館で経験する
不思議な体験の顚末を描いた作品。
いわゆるクリスマス・ストーリーで
奇蹟が起こることは最初から分かってますし
幽霊との交流を描いた作品であることは
最初から予想がつきますので
あとはその顚末をどう描いていくか
結末はどうするのかというのが
興味の中心となります。
想定されている読者対象が
〈小学上級〜中学生向〉なので
還暦過ぎた大人が読もうとすると
どうしても上のような
ヒネた見方になってしまうんですけど
途中で抜群に身近な物語になりました。
本作品は
大おばさまが
昔、館に住んでいた一家の
特に子どもにまつわる話を
トーズランド少年に語る
という構成をとっています。
現在のトーズランドの体験談に
過去のトーズランド家の子どもたちの話が
挿入されるという形になってるわけです。
その過去というのがちょうど
チャールズ2世の治世時代にあたり
その過去の話のうちのひとつは
その地方を訪れた王の御前公演として
仮面劇《愛の天使と死に神》が上演され
それに当時のトーズランド家の次男
アレクサンダーが出演することになった
その顚末が語られます。
当時のトーズランド家の当主は
世界各国を回る貿易船の船長で
身内が王の御前公演に立つほどの
身分ではなかったわけですが
ひょんなことから
立つことになるわけです。
そのエピソードも面白かったですけど
仮面劇《愛の天使と死に神》
というタイトルを見て
これってマシュー・ロックの曲じゃん!
と思い至り
一気に関心が深まりました。
以前、購入したまま
まだ聴いてなかったCDに
アントニー・ルーリーの指揮とリュート
コンソート・オブ・ミュージック演奏の
《キューピッドと死》というのがあるのを
覚えていたからです。
こちらは1653年に
ポルトガル大使の歓迎式典のため
ロックがクリストファー・ギボンズと共同で
音楽をつけた作品だそうです。
それがチャールズ2世の御前公演として
地方の貴族の屋敷で上演される
という設定は
児童文学なのに
なんてマニアック!
と俄然、興味が湧いたんですね。
この本自体は
イギリスの児童文学や
ヤング・アダルト小説に
関心があったころ
古本屋で買ったものですけど
仮にその頃すぐに読んでいたとしても
ここまで感銘を受けたかどうか。
バロック音楽は好きでしたけど
基本的にバッハを聴くのが中心で
チャールズ2世時代の
イギリスの音楽家なんて
ほとんど知りませんでしたし。
ちょうど
ヘンリー・パーセルに関心がある
今日この頃だからこそ
《愛の天使と死に神》=《キューピッドと死》
ということに気づけただけでなく
作中に出てきた音楽を収めたCDを
聴こうと思えば聴ける状況でもあった
といえるわけで。
《キューピッドと死》については
いくらパーセルにハマっていても
パーセルの曲を消化するのが精一杯で
その同時代の音楽家のCDを
聴く余裕がなく
《ディドーとエネアス》以前の劇音楽として
気にはなっていたものの
なかなか手が伸びないでいたのでした。
今回のように
読んだ本の中に出てくれば
もう一気に興味が湧いてきて
すぐにでも聴きたくなったんですが
残念ながら、今は金沢なので
いつもの部屋に戻らないと
聴けないんですけど。
それはともかく。
上記のようなこともあり
全体としては面白かったです。
親から離れた子どもが
田舎の館に引き取られて
不思議な体験をする
という物語の話型は
『秘密の花園』(1911)以来
あるいはそれ以前から使われて
今やお馴染みのパターンですし
幽霊が出そうな館で
昔の子供の幽霊と交流するという物語も
星の数ほどありそうです。
本書の場合、それに
歴史的な過去のエピソードが絡み
チャールズ2世時代の風俗や音楽が
特に何の説明もなく入ってきて
一種の歴史小説的な面白さがあります。
といっても
イギリスの歴史小説的な面白さなので
当時や現代の日本の子どもたちが
どれくらい面白がることができるのか
よく分かりません。
ただ
本書が出た1960年代後半から
1970年代前半に読んだ子どもたちは
イギリスの古風な雰囲気の
クリスマスの描写に
憧れを抱いたかもしれず。
イギリスのマナーハウス
(領主屋敷)の雰囲気や風俗、
そこで供される食べものの数々
(ちゃんと書き込んであります)
主人公の少年が自然とふれあう様子
特に野鳥との交流などに
憧れを抱いたかもしれません。
そういう
イギリス的なもの
とでもいえそうな要素は
今でもじゅうぶん
魅力的かと思います。
還暦過ぎて初めて読むと
そういう、子どもらしい興味関心が
想像でしか感じられませんけど
そのかわり
マシュー・ロックの
劇作品が出てきたのには
びっくりさせられました。
こういうのも何かの縁ですし
ちょうど関心がある時に
何気なく手に取るなんて
日常の不思議のひとつ
といえそうな気がしています。