お正月になったのに
《クリスマス・オラトリオ》を
取り上げるのは
日本人には違和感がありますが
第4部は、後に述べるような由来で
1月1日が初演ですから
しょうがないのですね。
では、まずは
これまでの通例によりまして
手持ちのディスクのご案内から。
以前ご案内の
20枚組ボックスには
《クリスマス・オラトリオ》が
2種類、収められています。
最初のものが
1967年11月に
イギリスのデッカ・レーベルから
LP3枚組でリリースされた、こちら。
(Eloquence: 484 4722 の内
484 4738&484 4739、2023.3.28)
録音は1966年9月19〜30日で
カール・ミュンヒンガー指揮
シュトゥットガルト室内管弦楽団と
リューベック・カントライ
(合唱指導ハンス=ユルゲン・ヴィレ)
による演奏です。
アメリング以外のソリストは
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ピーター・ピアーズ(テノール)
トム・クラウゼ(バリトン)
という面々。
器楽のソリストは
特に記載がありません。
シュトゥットガルト室内管弦楽団は
Wikipedia の
ミュンヒンガーの項目によれば
基本編成はヴァイオリン8
ヴィオラ4、チェロ3
コントラバス1だそうで
当時としては小編成です。
にもかかわらず
オケも合唱も分厚いし
テンポもかなりゆっくり目な印象で
戦後のバロック演奏を牽引した存在として
共に語られることの多い
イ・ムジチ合奏団の
演奏から受ける印象とは
かなり異なる感じですね。
器楽演奏中心のイ・ムジチと
声楽曲を指揮する
ミュンヒンガーの演奏とを
単純に並べて比べるのは
酷かもしれませんけど。
ミュンヒンガーは
主観的な解釈を排し
楽譜に忠実に演奏することを旨とした
いわゆる即物的な演奏解釈で
一時代を画した指揮者です。
ですけれど、実をいえば
礒山雅の『J・B・バッハ』(1990)で
否定的に評されており
自分もそれを読んで以来
そういうものか、と
ずーっと思っておりましたが
本演奏を聴いた限りでは
即物的かどうかは分かりませんけど
とにかくテンポが遅いのに参りました。
《クリスマス・オラトリオ》では
第1部第1部のソプラノは通常
合唱団からの選抜で
第3部のバスとの二重唱が
ソプラノのソリストの
初めてのお目見えとなります。
ここでのアメリングの歌唱は
アルトのヘレン・ワッツのように
妙にビブラートをかけておらず
素直な歌いっぷりなのが
さすがですし
ほっとさせられます。
第4部でも
後に述べる通り
バスとの二重唱があって
ソプラノがコラールを
独唱するものが多い
かと思いますけど
本盤では
合唱団からの選抜メンバーが
歌っているようです。
ソプラノ独唱アリアは
そのあとにようやく出てきますが
後に述べる通り
エコー(こだま)との掛け合いで
純粋な独唱とはいい難い。
ですけど
アメリングの歌唱は
こちらでも
妙なビブラートをかけず
嫋々とした、といえそうな歌声を
聴かせてくれるのでした。
以下、記事タイトルの内容に入ります。
最初にも書いた通り
バッハの《クリスマス・オラトリオ》は
1735年1月1日に初演されました。
イスラエルのユダヤ教徒の男子は
死後8日目に割礼を受ける習慣があり
父親が子どもに名前を付ける
という習慣があるそうで
イエスが生まれて8日目が
1月1日に当たるため
イエスの割礼と命名記念する日
となっているそうです。
1735年の場合
午前に聖トーマス教会、
午後に聖ニコライ協会で
初演されたようです。
第4部のアリアのうち
第1曲目(全体では第36曲目)の合唱
第4曲目(全体では39曲目)と
第6曲目(全体では第41曲)のアリアが
《ヘラクレス・カンタータ》から
転用されたものです。
第4曲では
メインのソプラノ独唱が
救い主に呼びかけると
別のソプラノがエコー(こだま)として
返答するという構成になっています。
このソプラノは
リピエーノ(合唱)から
メンバーの一人が選抜されて
演じます。
第6曲目は
2挺のヴァイオリンと
テノールとの掛け合いで
歌われますが
2挺のヴァイオリンの旋律が
実にドラマティックでカッコいい。
『バッハ事典』(1996)で
2挺のヴァイオリンと
テノールの「競い合いには、
第一級のコンチェルト楽曲を聴くような
迫力がある」と評されており
聴きものといえるでしょう。
これはさすがに
ミュンヒンガー盤でも
なかなかリズミカルで
いい感じです。
他に
第3曲(第38曲)と
第5曲(第40曲)が
バスのレチタティーヴォの後に
バスとソプラノの二重唱になる
という構成になっており
目を引く、というか
耳を引きますね。
両方とも二重唱部分は
ソプラノがコラールを歌い
バスが省察的な歌詞を歌っていて
ガーディナー盤のライナーだと
アリオーソとなっています。
バッハの自筆譜に
そう書いてあるのかどうかは不詳で
『新バッハ全集』の校訂者による
表記の可能性もありますけど
『新バッハ全集』の楽譜が
手元にあるわけも(はずも)なく
よく分かりません。
Wikipedia によれば
レチタティーヴォよりも旋律的
あるいは
アリアよりも小規模なもの
なのだとか。
というわけで
第4部の動画なんですけど
オランダ・バッハ協会で探しても
なんと、見つからず。
かえって
スイス・バッハ財団の動画が
フル・サイズのものとは別に
アップされていましたので
そちらをアップしておきます。
「動画を再生できません」となっていて
「YouTube で見る」をクリックすれば
観られるかとは思いますが
アドレスでもアップしとくことにします。
ソリストは
ミリアム・フォイアージンガー(S)
ダニエル・ヨハンセン(T)
トビアス・ヴィッキー(B)で
エコー役はクレジットされていません。
冒頭合唱と
最後のコラール合唱では
ナチュラル・ホルンが
高らかになっているのを
確認できるかと思います。
以前、ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンチェントゥス・ムジクスが
《ブランデンブルク協奏曲》第1番を
演奏する映像を観たことがありますけど
その際、ホルンのベル部分(朝顔)に
手を入れて演奏してました。
こういう演奏法を
ゲシュトップフト奏法といい
(『文藝別冊 バッハ』では
「ゲシュトプフト奏法」と表記)
半音から全音低い、くぐもった音が
出せるそうですけど
『文藝別冊 バッハ』に
インタビューが掲載されている
金管楽器奏者
神代修[くましろ おさむ]によれば
バッハの時代にそういう吹き方はしなかった
とのこと。
スイス・バッハ財団の演奏は
ベルを上に向けてはいないものの
ゲシュトップフト奏法をしない
というところが
古楽原理主義者的に
嬉しくなるのでした。
最初にも書きましたが
バッハの《クリスマス・オラトリオ》は
1735年1月1日に初演されました。
当ブログの吉例にしたがいまして
昨日は、干支絡みのタイトルの
本の感想をアップしましたので
1日ずれてしまいましたこと
ご海容いただけると幸いです。
続く第5部は
新年後の最初の日曜日に
初演されました。
1月2日から5日の間であれば
いつでもいいそうで
1735年だと1月2日だったんですが
2025年では1月5日になります。
だったら1月5日でいいか
と思ってたんですが
当ブログでは毎年1月5日は
長澤奈央さんの誕生日を
祝うことにしているので
またまたマイ・ルールと重なってしまい
今、悩んでいる最中だったり。
さて、どうしましょうかね。( ̄▽ ̄)