あけましておめでとうございます。

 

 

昨年、刊行されたのを見かけて

念頭にアップする

干支に絡んだ本の紹介に

ちょうどいいと思って

買っておいたのが、こちら。

 

貫井徳郎『龍の墓』

(双葉社、2023年11月25日発行)

 

書き下ろしではなく

雑誌『小説推理』の

2022年12月号〜2023年9月号が

初出です。

 

 

タイトルを見て

これ、ちょうどいいじゃん

と思っただけで

オビの惹句類や

各作家の推薦文も読んでおらず

本当に龍が出てくるかどうか

確認すらしないまま

不見転で読みました。

 

もっとも、本物の龍が出てくる

現実の世界を舞台にしたミステリなど

ありえないわけでして。

 

辰年に絡めた本でミステリとなると

龍に殺されたように見せかけるとか

異世界ものの設定にして

本物の龍やドラゴンが絡んでくる

という設定にするくらいが

関の山でしょう。

 

本書の場合は

VRのRPG《ドラゴンズ・ブレイブ》

というゲーム世界を

現実の事件と並行して描くことで

ゲーム世界でのこととはいえ

ドラゴンが登場するという条件を

いちおうクリアしていると

いえるかもしれません。

 

 

プロローグでは

死体をドラム缶に入れて焼く

という場面が

犯人の視点から描かれます。

 

続いて地元署の刑事が出張り

捜査本部が開かれ

警視庁捜査一課の刑事と

地元署の女性刑事とがコンビを組み

女性刑事の視点から

事件の捜査が描かれていきます。

 

それと並行して

ある事件をきっかけに

人間不信となって退職し

半ば引きこもり状態の元巡査が

《ドラゴンズ・グレイブ》

というゲームにハマっており

そのゲームをクリアしていく

という様子が描かれていきます。

 

(本当はそのゲーム描写が

 プロローグのすぐ後の章で、

 その次の章において

 現実の捜査が描かれるんですけど

 そのズレは、ご海容ください)

 

そのゲーム内の

サブ・イベントとして

領主館内の連続殺人が用意されており

となると予想がつくでしょうけど

現実の事件とゲーム内の事件とが

あとあと関連していく……

というお話です。

 

 

作中の設定では

眼鏡型のゴーグルが普及しており

スマートフォンではなく

ゴーグルを端末として

ネットに接続したりするのが

一般的になっている

ということになっています。

 

ゲームもゴーグルを介してやるため

ネット依存のみならず

ゲーム依存症の人間が

やたら増えている社会という

ちょっとだけ未来な設定ですけど

使用のありようは現在のスマホと

ほとんど変わりません。

 

 

面白かったのは

ゲーム内のサブ・イベントが

論理に基づく謎解きの興味をメインとする

エラリー・クイーンばりの

本格ミステリになっている点と

現実世界の事件であれば

諸々面倒な証明の手続きが必要なところ

ゲームということで

細かい詰めなどを

うまく省略しているところ。

 

つまり

RPG内の事件にすることで

ある意味、純粋な謎解きを

成り立たせることに

成功しているわけです。

 

そしてこれは

クローズド・サークル系

謎解きミステリの

ヴァリエーションともいえますし

本格ミステリのルールをネタにした

パロディになっている

と読めなくもない。

 

なかなか凝った設定

であるにも関わらず

凝っていることを

微塵も感じさせずに

読ませてしまうあたり

さすがだと思うのでした。

 

 

現代社会に蔓延している

ある病理を背景としている点も

いかにも貫井さんらしい

という気がします。

 

……といいつつ

貫井ミステリを

そんなに読んでいるわけでは

ありませんけど

数少ない読了本の印象から

何らかの社会性を感じさせるのが

貫井テイストだろうという

印象を持っているもので。(^^ゞ

 

考えようによっては

重いテーマを扱いながら

特殊設定ものの

ミステリの要素も加え

それでいて

特異な書き方を

しているわけでもなく

ゲームとかに詳しくなくとも

じゅうぶん楽しめるように

書かれていると思います。

 

文章も分かりやすいし

300ページに満たないので

さらっと読めることでもあり

新春の1冊目としては

ちょうど良いのではないかと。

 

 

ひとつ気になったのは

225ページに

アイドル・ファンの発言として

「ブルーレイを擦り切れるまで見てる」

という表現が出てくること。

 

そういう言い回しに接すると

発言者は昭和生まれか

と思っちゃうんですけど

30歳くらいという設定なので

どうも平成生まれっぽい。

 

アナログ・レコードや

ビデオ・テープ

カセット・テープなどに

親しんだ世代でないと

自然と出てくる言い回しとは

思えないんですけど

平成生まれだとどうでしょう、

ギリギリくらいなのかなあ。

 

ちょっとだけ未来

という設定なだけに

そこだけ違和感を覚えました。

 

 

 

ところで

これを打っている途中で

地震がありましたが

震源が石川県能登地方で震度7。

 

その影響で

今、住んでいるところが

震度3くらいの揺れになるとは

思いもよらず。

 

幸い実家の方は

飾り物が落ちた程度で

たいした被害でも

なかったようでした。

 

こちらは

積み上げた本の山がひとつ

崩れましたけど

それだけで済んで幸いでした。

 

(部屋のどこかで「ごとん」と

 何かが落ちた音らしきものが

 聞こえましたけど

 目で見える範囲では

 確認できておらず、

 確認するのがコワイ……)

 

被災された方には

お見舞い申し上げます。

 

 

新年の初頭から

列島を激震が走るなんて

これは何かの予兆なのかしら

とか思ったり。

 

困ったことです。

 

 

 

何はともあれ

本年もよろしくお願いします。