『生活はクラシック音楽でできている』

(笠間書院、2024年1月5日発行)

 

副題「家電や映画、結婚式まで

日常になじんだ名曲」。

 

こちらは先日の木曜日(28日)

冬季講習で自由が丘に行った際

同地の新刊書店

Book 1st.(ブックファースト)で

見つけたものです。

 

自由が丘の Book 1st. は

こぢんまりしていますが

興味深い本が並んでいて

以前にも

三ヶ尻正[みかじり・ただし]の

『ヘンデルが駆け抜けた時代』

(春秋社、2018)という

良書に出会ったことがあり

そういう成功体験があるため

塾の仕事で行った際など

余裕があれば必ず

覗いてみるようにしてます。

 

 

それはともかく

今回の本ですが

副題や書影のオビの惹句から

想像がつくように

日常生活を送る中で

知らない間に耳にしている

クラシック音楽を

紹介した本です。

 

家電、テレビ番組・CM

映画、アニメ、運動会、結婚式

ポップスにアレンジされた例など

基本的に7つの場面・状況

メディアに即して

紹介されていきます。

 

有名なものだと

自分も知っているものが

ありましたけど

マイナーな音楽家のものになると

自分も知らないものがあり

後者について教えられたのは

ありがたかったです。

 

中でも

ノーリツ製の給湯器で

お風呂に入る準備ができた時に

流れるメロディーや

《キューピー3分クッキング》の

テーマソングなどは

クラシックの原曲があったのかと

びっくりさせられました。

 

 

言及した各曲には

QRコードが付いていて

ストリーミングサービス等に

リンクが張られています。

 

本の束が閉じないように

押さえながら

QRコードを読み取るのは

自分のような

古い時代の人間にとって

ひと苦労ですし

各ストリーミングのアプリを

入れていないので

個人的にはあまり

役に立ちませんでしたけど。( ̄▽ ̄)

 

気になるものは検索して

YouTube にアップされているものを

聴きましたが

それで充分です。

 

自分のような昭和脳にとっては

巻末に「掲載曲・使用場面索引」が

まとめられている方が

使い勝手がいい感じがしますね。

 

 

ちなみに

パッヘルベルは

「パッフェルベル」と

表記されてましたが

これが最近の表記法なのかしらん。

 

これだけは違和感がありました。

 

 

ところで

たくさんの楽曲が

紹介されていますけど

演奏者については

映画《2001年宇宙の旅》の

〈ツァラストラはかく語りき〉や

《ウルトラセブン》最終回で使われた

シューマンのピアノ協奏曲以外

あまり問題にされてないようです。

 

《2001年宇宙の旅》では

カラヤンの演奏を

使いたかったそうですが

音源の権利を持つデッカが難色を示し

「デッカ/カラヤン/ウィーン・フィル」

というテロップをエンディングに

使用しないという条件で

許されたのだとか。

 

その後、映画がヒットして

別の会社からサントラ盤が出た際は

カール・ベーム指揮

ベルリンフィルの演奏が

収録されることになったそうです。

 

《ウルトラセブン》については

巻末に参考文献であげられている

『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』

自分も読んでいるので

初見の情報ではないのみならず

紹介の仕方が簡単すぎて

かえって物足りなかったり(笑)

 

なお、巻末の参考文献表では

版元が新潮社となってますけど

初版はアルテスパブリッシングで

新潮社のは文庫版ですね。

 

 

それはともかく

上記のように

演奏者がポイントとなる

エピソードがあったりすると

演奏者もフィーチャーされますけど

それ以外は作曲家に言及されるのみ

というのが物足りない。

 

自分などは

CMで使われているのを聴くと

特にそれがバロックであれば

古楽演奏かどうか気になって

しょうがないタチなもので

なおさらです。

 

 

ちなみに最近だと

キリン〈午後の紅茶 おいしい無糖〉の

CMで使われている

J・S・バッハ作曲

ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト短調

第1楽章の演奏が

気になったもののひとつでした。

 

 

 

バッハの

ブランデンブルクであることは

さすがに聴けば分かりますし

第何番の何楽章か

確定しているブログも

多々あることでもあり

演奏者まで特定しないと

ブログのネタにできない

と思ったので(そこかw)

ちょっと調べてみたところ

これは幸い判明しました。

 

ヤマハの音楽配信サイト

mysound によれば

ハンス・スワロフスキー指揮

バンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

による演奏で

おそらく古楽演奏ではありません。

 

古楽演奏ではありませんけど

〈午後の紅茶〉がイメージしている

明治時代の社交場という雰囲気は

むしろ現代楽器による演奏の方が

合っている気がしますので

これはこれでいいのかな

と思っています。

 

自分の耳では

楽器の音だけで

古楽器か現代楽器か

区別がつけられない

というのは措いとくとして。( ̄▽ ̄)

 

 

CMに使う場合は

渋谷の著書でも言及されている通り

いろいろな権利関係の問題で

使えるものと使えないものが

はっきりと分かれていて

古楽演奏はむしろ

使用されにくいのかも

とか思ったりしましたけど

実際はどうなんでしょう。

 

そこらへんを

フィーチャーした本が出れば

すぐに買うんですけどね。

 

狙いがニッチすぎで

出す版元がないかしらん(苦笑)

 

 

今回の本を出した笠間書院

同社のホームページにもあるように

日本文学、日本語、日本文化を対象とする

専門書、学術書を出す版元で

近代文学を専攻していた大学時代

お馴染みの出版社でした。

 

それだけに今回の本は

畑違いのような印象を

受けなくもないのですけど

近年は取り扱うジャンルの幅を

広げているようです。

 

もともと学術関係の

専門書を出しているところだから

こういう本も出せたのかも

と思う一方で

学術系の専門書を出すところであれば

もうちょっと突っ込んだものを

期待したいとも思いましたが

啓蒙書としては

突っ込んだものなのかもしれず

ちょっと判断がつきかねます。

 

クラシックに興味のある方

これから知ろうと思う方には

おすすめですが

クラシックが趣味の方だと

ちょっと物足りないかも

しれないですね。

 

 

個人的には

先にあげたノーリツ製給湯器や

《キューピー3分クッキング》のほか

アニメ《名探偵コナン》の

〈ピアノソナタ「月光」殺人事件〉に

楽譜暗号が出てくると教えられ

いろいろ啓発されました。

 

あと

ポップスにアレンジされた

クラシックをいくつか

教えられました。

 

 

伊福部昭作曲《ゴジラ》のテーマが

ラヴェルのピアノ協奏曲 ト短調

第3楽章からインスパイアされた

というのも知らなかったです。

 

その一方で

その《ゴジラ》のテーマにふれた際

「日本人である伊福部があの時代に

日本語でこの『管弦楽法』を書いた功績は

計り知れません」と書きつつ

『管弦楽法』の刊行年が記されておらず

それはどうかと思いましたが

Wikipedia によれば

 上巻1953年、上巻補遺と下巻1968年

 完本2008年とのこと)

それはともかく。

 

 

日常空間に流れる音楽が

クラシックかどうかに

興味が持てるようであれば

じゅうぶん楽しめる一冊である

というのが

感想としては

妥当なところでしょうか。

 

QRコードで

いちいち楽曲を聴かなければ

あっという間に読めるのも

良いところかも。( ̄▽ ̄)