『トゥルー・クライム・ストーリー』

(2021/池田真紀子訳、新潮文庫、2023.9.1)

 

2011年12月17日

クリスマスで帰省する前に

パーティーで盛り上がっていた

マンチェスター大学の学生寮から

失踪した女子大生ゾーイ・ノーラン。

 

7年後、デビュー第2作を

書きあぐねていた女性作家が

その真相を追うノンフィクション

という体裁で書かれた

フィクションです。

 

 

先週の土曜日(2日)に

仕事を終えてから立ち寄った

地元の新刊書店で見つけて

700ページ近い分厚さなので

恐れをなしながら

翌日、読み始めたところ

止まらなくなった次第です。

 

以前(月曜日)

校舎近くのカフェ・ド・クリエ

読みかけの本を読みたくて

と書いたのも

本書のことなのでした。

 

 

ジョセフ・ノックスは

解説にもあるように

マンチェスター市警の刑事

エイダン・ウェイツ・シリーズで

よく知られている作家です。

 

邦訳はどれも上下巻で

自分は必要があって

シリーズ3作目の

『スリープウォーカー』(2019)を

読んでいる程度ですけど

警察小説+ノワール+本格ミステリ

とかいわれていますが

ジェフリー・ディーヴァー風のプロットに

イアン・ランキン風のキャラクターを

登場させたという印象かな。

 

ディーヴァー風とかランキン風とか

知ったかぶって書いてますけど

いま思いついたことなので

話半分で読み流してください。(^^;ゞ

 

 

何をいいたいかというと

つまり本書は

これまで

警察小説のシリーズを

書いてきた作者が

初めてものした

ノン・シリーズ長編

ということです。

 

これまで同じ新潮文庫から

上下巻で出してきたのに

今回は一巻本で出たので

700ページになんなんとする

大冊となったわけでして

嵩張って持ち歩くのに不便

なのにもかかわらず

持ち歩いてしまうほどの面白さ

というわけなのでした。

 

 

上にも書いた通り

本書はデビュー第2作を書こうと

苦労している女性作家がまとめた

ノンフィクションという体裁ですけど

それに加えて

その第二版という体裁になってます。

 

作者が死んだために

まとめられなかった最後の部分と

作者がインタビューしきれなかった

何人かのインタビューを補足して

序文を添えたのが

ジョセフ・ノックス(つまり作者)

という体裁にもなっています。

 

メインのテキストは

事件関係者のインタビューの

要所要所を切り取って

時系列順に並べるだけでなく

本来は対話してないインタビュイー同士が

対話しているかのように

各証言が配置されています。

 

そのメインのテキストの要所要所に

作者とジョセフ・ノックスとの

メールのやり取りが挿入され

事件に関係する新聞記事や

SNSの記事が挿入される

というスタイルですが

何人かの事件関係者の顔写真まで

掲載されているのは驚きでした。

 

権利関係はクリアに

処理されてるんでしょうけど

写真の使用を許諾した人たちは

心が広いというか何というか。

 

 

以上、書いてきたことから

連想される方もいるかと思いますが

本書は映画でいうモキュメンタリー

(フェイク・ドキュメンタリー)の

スタイルを援用して書かれています。

 

それもあってかどうなのか

女子大生が失踪する前後の雰囲気は

まるでホラーのようでした。

 

学生寮が1960年代に建てられて

その後、建て増しした20階建てのビルで

火災報知器が不具合であるため

火の気がないのに突然鳴り出すとか

部屋に自分しかいないのに人の気配がする

というだけでなく

物が無くなったりもするし

いたずらで何度もインターホンを

それも深夜に鳴らされたりする等々

不気味な雰囲気が強調され

なおさらホラー度が増してる感じ。

 

 

時には相互に矛盾する

関係者の発言を組み合わせて

物語が進行するという

いわゆる「信頼できない語り手」もので

原稿を完成させたノックス自身も

信用できないようなところがあります。

 

こういう話の作りは割と好きな方

ということもあり

面白く読み終えました。

 

そういう作りが苦手な人は

読みにくいと感じるかもしれず

ご愁傷さまとしか

いいようがないですけど

これを楽しむくらいのリテラシーを

ミステリ小説を手に取る人なら

持っていると信じたい。

 

 

関係者の誰かが

嘘をついているから

謎が成立するわけですので

嘘がバレれば謎が解けるわけです。

 

推理によって

嘘がバレるわけではなく

地道な調査の結果

偶然、ある人物の嘘がバレる。

 

そういう流れのせいもあって

解決はやや腰砕け

という印象は

なきにしもあらず。

 

ですけど

事件から派生して

様々な出来事が生じ

様々な闇が暴かれたりするので

700ページを

一気に読ませる面白さなのは

間違いありません。

 

自分は読むのが遅いこともあり

途中で寝たり仕事が入ったりして

一気に読めませんでしたが

仕事の行き帰りの電車の中でも

倦むことなく読み続け

緊張が途切れなかったというのは

久々の体験でした。

 

 

最後に書かれている

登場人物のその後

を読んでいて思ったのは

作者は意外とロマンチストかも

ということでした。

 

ある人物とある人物が

出会った時にビビッときて

その後いろいろ

山あり谷ありを経て結ばれ

幸せに暮らしている

という物語パターンを

連想させるからです。

 

問題行動を起こして

どん底まで落ちた人物も

基本的に善人なら

どん底に比べれば

今はそこそこ幸せになっており

めでたしめでたし感が

強いからでもあります。

 

このラストに

ホッとする読者も

多い気がしますね。

 

自分もそうでしたし。( ̄▽ ̄)

 

ですから

ノワール度は強いですけど

一種の青春小説としても

読めるわけです。

 

 

それにしても

イギリスの若者(大学生)は

極端から極端へと

振れ幅が大きすぎる

というかなんというか。

 

日本の大学生では

考えられないような気もしますが

最近はそうでもないのかしらん。

 

 

文庫本のオビ裏が

なかなか面白いので

下に写真をアップしときます。

 

『トゥルー・クライム・ストーリー』オビ裏

 

ちなみに

「著者とは別人の“ノックス”」

というのは

『陸橋殺人事件』(1925)で有名な

カトリックの聖職者で神学者でもある

ロナルド・A・ノックスという

イギリス人ミステリ作家のこと。

 

ノックスの十戒についても

Wikipedia に項目がありますので

気になる方はリンク先を

ご参照ください。

 

 

オビ裏に書かれた全6項目のうち

後半の3項目は

最近、流行り(という印象)の

全てが伏線を謳うドラマなんかを

連想させますね。

 

全て伏線=全てに意味がある

とかいうのは

かなり強迫神経症的というか

自分のやることに無駄はない

ということを信じたいという

実利・功利的な意識も含む

現代人の想いを反映した

病弊ではないかという気が

してならない今日この頃です。

 

まあ、ミステリ好き

特に謎解きミステリ好きな自分も

そういう病弊に囚われている

ということは

否めないところですけれど。( ̄▽ ̄)

 

 

何はともあれ

おすすめです。

 

今のところ

今年のイチオシかも。