明日、仕事があるので
本日、実家から戻ってきました。
金沢は暑くて暑くて
夜、コンビニへ行くとき以外
家から一歩も出る気になれず
ですから土産話は
前回の無花果の木くらい。
新幹線に乗っている時や
実家にいる間に読もうと思い
本を何冊か持って行ったうち
帰った翌日に手に取って
読み終えてしまったのがこちら。
(2021/田村義進訳、
ハヤカワ・ミステリ、2023.8.15)
原題は Suburban Dicks で
邦題はその直訳ですかね。
オビ背には
「オフビートな探偵コンビが
郊外の難事件に挑む!」
と書かれているのに加え
裏表紙の作品紹介に
「オフビートな痛快ミステリ」
と書かれているのに惹かれて
出がけに手に取ったのでした。
郊外のガソリンスタンドで
インド人の給油スタッフが
射殺されているのが発見されます。
当初は
麻薬の取引をめぐるトラブル
と臭わされたんですけど
どうやらそうではなく
驚くべき背景が分かってきて……
というお話です。
本作品の魅力を
一言でいうなら
キャラが立っている
という点でしょうか。
4人の子供を抱えている上に
妊娠8ヶ月の身重の身体で
探偵調査に乗り出す
元FBIプロファイラーの主婦。
ピューリッツァー賞を取りながら
その後は鳴かず飛ばずで
焦るあまりに
でっちあげ記事を書いて転落
今は故郷の地元紙でくすぶりつつも
一旗上げるチャンスを狙う記者。
この2人が協力して
調査にあたるんですが
元FBIの主婦は学生時代
記者の兄と付き合っており
そのとき弟の記者の方は
密かに一目惚れしていた
という因縁もあったりします。
人間関係の因縁はそれだけではなく
かつてFBIで同僚だった
今も愛する男性上司と再会し
上司の方も既婚者ですけど
今でもかつての部下に
親しみを抱いているようで
その親しげな様子を9歳の長女が
胡散臭げに見たりする
という一幕もあったり。
元プロファイラーの主婦は
警察が封鎖中の事件現場に
たまたま通りかかって
漏らしそうな二歳児のため
トイレを借りようとした際
現場を一見して
麻薬取引のトラブルでも
強盗の仕業でもないことを見破る
という場面が冒頭に書かれています。
漏らしそうだった子どもが
けっきょく漏らしてしまい
現場を汚染してしまう第1章からして
オフビート感がありますけど
自分のイメージするオフビート感とは
ちょっと違うというか
笑いの狙いが分かりやすいため
よくあるギャグという感じも
しないではなく。
調子を外すというのは
なかなか難しいものなのです。
主婦と記者のコンビが地道に調査を重ね
真相に迫っていくストーリーも
分かりやすいくすぐりを入れてきて
楽しめるのはもちろんですけど
それと同時に
郊外の歴史を背景とした
コミュニティーの人種問題や
女性が持ち前の才能を活かせず
家庭に収まることをめぐる葛藤やら
子育てをめぐるゴタゴタやらが
きちんと描かれています。
妻が元の仕事に戻ることを
あまり好まない夫と
ことあるごとに対立し
喧嘩になったりする様子が
描かれたりするのは
お約束ながら
お約束を微妙に外すところも
ないではない。
これはオフビートかも知れない
と今になって思いつつも
やっぱり自分のイメージする
オフビート感とは
ちょっと違う印象がします。
妊娠8ヶ月であるため
ペンギンのようにしか歩けない
元プロファイラーが
頭脳とコネを利用して
子育てをこなしつつ、また
ママ友の協力を得つつ
真相に迫っていく姿が
悲壮にならず
バランスよく
ユーモラスに描かれているのは
さすがはアメリカ人作家
という感じ。
というか
アメリカに限らず欧米の作家は
子育てをギャグとして描くのが
上手い気がします。
作者は男性なので
ユーモラスに描けたのかも
とか思ったりしましたけど
オビ背には「全米絶賛!」
とありますから
楽しむ余裕がある女性が
多かったのかも知れず。
女性読者の感想を
聞いてみたいものです。
本書は
アメリカ探偵作家クラブ賞
最優秀新人賞と
アメリカ私立探偵作家クラブ賞
最優秀新人私立探偵長編賞の
それぞれ最終候補作に
ノミネートされたそうです。
私立探偵って
サム・スペードとか
フィリップ・マーロウとかを
イメージさせるので
その長編を顕彰する賞に
選ばれたのには
ちょっとびっくりですね。
作者は
アルゼンチン出身の
コミックライター兼編集者で
『X-Men』や『デッドプール』
といった作品に
関わっているのだとか。
キャラ設定のうまさは
アメコミ仕込み
というわけですね。
小説はこれが
第一作だそうですけど
このキャラクター設定なら
シリーズになりそうだし
読んでみたいかも
とか思っていたところ
すでに第二作が発表されてるようで
これもそのうちに
訳されるでしょうか。
ちょっと楽しみ、かな。