アメリカの女性作家

エリカ・ルース・ノイバウアーの

アガサ賞最優秀デビュー長編賞受賞作

『メナハウス・ホテルの殺人』と

そのシリーズ第2作にあたる

『ウェッジフィールド館の殺人』を

読みました。

 

エリカ・ルース・ノイバウアーの2冊

(左:2020/山田順子訳、創元推理文庫、2023.2.10

 右:2021/山田順子訳、創元推理文庫、2023.7.14)

 

アガサ賞を受賞した

『メナハウス・ホテルの殺人』は

叔母とエジプト旅行に来たヒロインが

殺人事件の死体発見者だったために

容疑者となってしまい

自らの容疑を晴らすため

探偵活動にいそしむという話。

 

シリーズ第2作の

『ウェッジフィールド館の殺人』は

エジプト旅行からイギリスへ渡り

叔母の友人の男爵が住む館に滞在中

館の使用人が自動車事故に遭い

それが殺人事件だと判明し

叔母の友人の男爵が疑われたために

またぞろ犯人探しに乗り出す

という話です。

 

設定年代は共に1920年代で

アガサ・クリスティーの小説ないしは

カントリー・ハウスものの

イギリスのミステリを

思わせるような話の作りになっており

いわゆるコージー・ミステリと

呼ばれる範疇の作品かと思います。

 

 

第1作ではヒロインが

クリスティーの『茶色の服の男』を

読んでいることになっていますし

エジプトでピラミッド観光とくれば

『ナイルに死す』を連想させますけど

お話自体は『茶色の服の男』系統の

スリラー・タッチのものでした。

 

ちなみに第2作では

男爵の屋敷の図書室に

チャールズ・ディケンズや

ドロシー・L・セイヤーズの本が

並んでいるという

ということになっています。

 

読み終わって考えてみれば

セイヤーズのある作品を

踏まえたようなところもありましたが

(だから伏線なのかもしれません)

それは伏せておきましょう。

 

 

面白く読めたのは

第2作の方ですけど

第1作で明らかになった人間関係が

前提となっていますので

第1作のネタバレを避けたいなら

あるいは第2作を楽しむためにも

第1作から読むにしくはありません。

 

第2作を面白く読めたとはいっても

エッジの効いた謎解きやら

トリックやらがあるからではなく

ヒロインが飛行機の操縦を習っていて

(当時のことですから複葉機です)

それが最後に活かされる場面で

ワクワクしたからなんですね。

 

読み慣れた人なら

最後に活かされることくらい

想像がつきそうなものなので

(自分は迂闊者なので気づかずw)

書いちゃいましたけど

気になさる方がいましたら

ご容赦くださいませ。

 

 

ちょっとヒロインの設定にふれると

彼女は最初の結婚で

サディストの夫に虐待され

男性不信に陥っている

ということになっています。

 

その夫が

第一次世界大戦で戦死したので

ようやく自由を得たのでした。

 

ですから

ホテルでハンサムな

謎めいた男性と知り合い

その男性に心を揺らしながらも

どうしても思い切って胸に飛び込む

ということができずにいたところ

協力して事件を解決していく中で

少しずつ心を開いていく

というのが

読みどころなのかもしれず。

 

第2作では

二人の距離が

縮まるかどうかということも

興味の中心になっていて

縮まろうとすると邪魔が入るという

ラブコメ映画みたいな場面があります。

 

あまり何度も邪魔が入るので

そのお約束すぎる展開に

おもわず笑いを誘われました。

 

 

夫からDVを受けていたという

ヒロインの設定のみならず

女性がアスリートを目指すのではなくて

家庭に入って夫に尽くすのが当たり前

(スポーツは趣味にとどめるべき)

という価値観に反発する女性キャラがいたり

レズビアニズムが忌まわしきものと

男性に思われていたりするので

隠さなければいけなかったりとか

クリスティーやセイヤーズの作品には

はっきりと書き込まれなかった要素が

作品の成立要素として紛れ込んできます。

 

そういうところは

やはり現代の作品といった感じで

ヒロインが飛行機の操縦を習うのを

叔母が快く思っていない

というのもその類いでしょう。

 

現代の女性作家が書く作品ですから

ジェンダーに関わる偏見に対する

カウンターな視点が出てくるのも

分からないではありません。

 

が、その一方で

ヒロインの恋愛相手や

叔母の友人の男爵が

実に理想的に描かれているのは

御都合主義のような気がされ

いかがなものかと思った次第です。

 

そういう男性が

いないわけではないでしょうけど

ヒロイン側の人間がすべていい人

というあたりは

鼻白んでしまいますね。

 

そういえば

ヒロインに恋した警官も

告白して振られたけど

男らしくしこりを残さない

という、これまた理想的キャラ。

 

下手にフェミニズム的視点が

前提となっているだけに

男性に関しては

まるでロマンス小説みたいなあたり

よけい目立ってしまう気がするわけです。

 

トリックとかストーリーとかより

そんなところが気になるのでした。

 

まあ、コージーものですからね

そういうツッコミは

野暮というもの

なんでしょうけれど。( ̄▽ ̄)