伊藤亜紗『感性でよむ西洋美術』

(NHK出版、2023年3月5日発行)

 

〈学びのきほん〉という

ムックのシリーズの最新刊です。

 

金曜日に採点が終わってから

『ミステリマガジン』の3月号を買うため

立ち寄った横浜の有隣堂書店で

見つけました。

 

雑誌としては棚が違いますが

やっぱりNHK出版のテキスト

〈100 de 名著〉シリーズの

『独裁体制から民主主義へ』を探しに

NHKテキストの棚に行ったら

目に入ってきたのですね。

 

 

自分は双子座だからなのか

いろいろと浅く広く

関心を持ちがちなんですけど

(移り気だともいうw)

中でも苦手意識が強いのが

絵画を中心とする美術方面です。

 

そのため

美術の入門書で

適当なものはないかと思い

値段も含め、適当だと思うと

買ってしまうという癖が

ついちゃいました。(^^;ゞ

 

〈学びのきほん〉シリーズは

これまでにも何冊か買っているので

(何冊かは未読のままですがw)

これはいいと思って購入し

珍しくあっという間に

読み終えた次第です。

 

 

伊藤亜紗の本は

河合塾のテキストに使われていたり

入試問題に使われていたりするので

何冊か目を通したことがありますが

これまで読んだものとは違い

ストレートに美術史を扱っていて

しかも2500年分を110ページで済ませる

という簡便さに感銘を受けただけでなく

非常に分かりやすい。

 

これまで自分が

断片的に得ていた知識を

それなりにまとめることができ

蒙が啓かれた気がしています。

 

 

ちょっと得したなと思ったのは

ロシアのマレーヴィチが描いた

サッカー選手の絵画的リアリズム 4次元の色塊

(「フットボール選手」と直訳する場合もあるようで)

という抽象画が紹介されていて

その理論的背景が

説明されていたこと。

 

それを読んで

ハヤカワ・ミステリ文庫の

エラリイ・クイーンの装丁の意味が

腑に落ちたからです。

 

ハヤカワ・ミステリ文庫で

最初に配本されたクイーンの3冊は

こんな↓カバーでした。

 

HM文庫エラリイ・クイーン第1回配本3冊

(いずれも1976年4月30日初版発行。

 手元のはすべて2刷本)

 

デザインは詩人の北園克衛です。

 

伊藤亜紗はマレーヴィチの絵を

「ものすごく計算してつくられて」おり

「適当に図形を切って

 ランダムに並べたものでは

 ありません」(p.99)

と説明しています。

 

そして抽象画について

「具体的な対象の再現ではなく、

 印象や感覚を描くものです。

 より正確に言えば、

 『描く』というより

 『構成してつくり出す』」(p.103)

と、まとめています。

 

ここでいう

「構成してつくり出す」

というあたりが

「推理によって真相を再構築する」

という感覚と

重なるように思えたのでした。

 

推理によって真相を再構築する

というのはまさに

エラリイ・クイーンの

作品世界そのものではないか

と腑に落ちたわけです。

 

 

Wikipedia で北園克衛の項目を見ると

「バウハウスの造形理念を

視覚的に享受した」

と書いてありますけど

バウハウスというのは

抽象画の画家たちが

教師として活躍した場所なのです。

(と、伊藤のに書いてあるw)

 

北園克衛がクイーンの作品世界を

自分なりに解釈した結果なのか

当時の早川書房の編集部が

クイーンとマレーヴィチの類似に気づき

依頼した結果なのかどうかは

判然としませんけど

マレーヴィチを知ってみれば

なるほどぴったり

という感じがしてきますね。

 

 

文庫が出た時、自分は中学生で

味気ない装丁だなあ

とか思っていたものですけど

還暦を過ぎて見直すことになるとは

思いもよりませんでした。

 

双子座の移り気も

役に立つことがある

というより

やっぱり美術的教養は必要だ

と改めて思った次第です。

 

還暦過ぎても

学びは続くのですなあ

(しみじみ)