あけましておめでとうございます。
今年は卯年というわけで
干支がらみのミステリとして
すぐに思いついたのが
本作品でした。
(1981/藤田宜永訳、中公文庫、
1985.5.10/1985.8.15. 再版)
訳者は
のちの直木賞作家
藤田宜永(1950〜2020)で
小説家デビュー以前の
翻訳業のひとつです。
本が出た当時、参加していた
ミステリ愛好会の読書会で
テキストに取り上げられて読み
非常に面白いと思った記憶があります。
今回はそれ以来の再読ですので
内容については
まったく忘れてました。
今回も面白く読みましたが
フランス人お得意の
(というイメージがあるw)
艶笑譚っぽいノリが濃厚にあって
これにはびっくりでした。
フランス人は
アガサ・クリスティー作品を
映画化する場合でも
艶笑譚的要素を付け加える
というような話を
聞いた覚えがありますけど
それがよく頷ける感じがした
とでもいいましょうか。
その艶笑譚的な部分は
今日の読者に(特に女性読者に)
受け入れられるんだろうか
とか思いながら読み進めました。
それもあって
鼻白む思いをしながら
読み進めたわけですが
(昔はそこも面白がってたような……)
連続猟奇殺人の真相というか
システムが明らかになってからの
スラップスティックで
ブラック・ユーモアな展開には
脱帽させられた次第です。
あと、フランス人作家は
ミステリというものを
機械仕掛けで捉えるんだなあ
ということが
よく分かる作品でもあり
興味深かったですね。
機械仕掛けで捉える
というのは例えば
マルセル・F・ラントームの
『騙し絵』(1946)に
見られるような感覚です。
フランス・ミステリは
文芸的だと評されることが
よくあるようにも思いますけど
意外と人間心理を図式的に
捉えたりしてるんですよね。
それはエミール・ゾラの
自然主義の頃から
あまり変わってないというか
もしかすると
フランス文学の伝統とも
いえるのかもしれません。
ここらへんは
もう少し勉強しなきゃ
はっきりと明言できませんけど。
なお、本翻訳はのちに
創元推理文庫から
再刊されました。
(創元推理文庫、2009.12.25)
訳文を少し直したくらいで
まったく同じかと思っていたら
訳文レベルではない修正もあり
ちょっとびっくりしました。
たとえば第9章で
事件が起きてから出回る
新聞活字などを切り抜いて
文字を貼り合わせた怪文書が
写真版で掲載されてるんですけど
中公文庫版(p.151)では
原文ママだったのに
創元推理文庫版(p.153)だと
日本語に訳されてました。
タイポグラフィックな面白さ
というものは残されていても
フランス語の活字と
日本語の活字とでは
かなり印象が異なります。
個人的には
フランス語の活字の方が
荒々しい雰囲気があり
迫力が感じられて
好みなんですけどね。
創元推理文庫版には
功なり名を遂げた藤田氏の
新しい訳者あとがきに加え
川出正樹氏の解説が
付いています。
今回は
その創元推理文庫版で
読んだんですが
今年の干支にちなみ
表紙に兎が描かれている
中公文庫版の書影を
カバーに選びました。
再版本ゆえ
オビがないのが
物足りないんですけど。
ちなみに原題は
Femmes blafardes で
直訳すると「蒼白い女たち」
という意味になります。
(と、中公文庫版の
訳者あとがきに書いてある)
舞台となる街の
娼館の娼婦たちを
指しているのだと思いますけど
その他に何か
含みがあるのかどうかは
よく分かりません。
というわけで
今年はもう少し
本の感想がアップできると
いいんですけど
どうなりますやら。
何はともあれ
本年もよろしくお願いします。