(1891/田辺貞之助訳、創元推理文庫、
1975.3.28/1980.5.23. 第3刷)
J-K・ユイスマンスのJ-Kは
ジョリ=カルルの略です。
ダブル・ネームの場合
普通は上記のように
ダブル・ハイフンが
使われることが多いんですけど
創元推理文庫版はなぜか
そうなってません。
ちょっと必要があって
繙いたんですけど
読むのは実は
今回が初めてです。
創元推理文庫の
「怪奇と冒険」ジャンルを示す
いわゆる帆船マークが
背中についている本で
謎ときミステリではないのに
購入したのはなぜなのか
まったく記憶にありません。
ただ、買った当時に
想像していたであろう内容とは
随分と違ってたような。
どういうふうに想像してたか
それも今となっては
はっきりしませんが
司修の表紙絵が象徴するような
おどろおどろしい怪奇ゴシック小説
といったところでしょうか。
実際のところは
青髭の異名を持つジル・ド・レの
伝記小説を書こうとしている小説家の話で
小説を書こうとしている小説家の小説
という枠組みの小説だったことに
まず、びっくりでした。
ジル・ド・レは
のちのシャルル7世に仕え
あのジャンヌ・ダルクの
護衛も務めた武将です。
ジャンヌ・ダルク火刑後
錬金術に関心を持ち
それに挫折してからは
所領地および近隣の子どもを
次々と拉致して惨殺するという
悪逆非道な行為に走り
ついには逮捕され処刑される
という運命を辿りました。
そういうジル・ド・レの
精神的な軌跡を辿るために
作中の小説家は
悪魔主義や神秘思想に関心を持ち
ついには黒ミサを
見学するまでに至るわけです。
途中からは
顔見知りの宗教書執筆家の夫人と
不倫の関係になる
という話が出てくるあたり
いかにもフランスの小説
……とかいうのは偏見かしら(笑)
てっきり
悪魔主義を信奉し
黒ミサを行なうヤバい人間が
主人公の小説かと
思っていたんですけど
まったく違っていたわけで。
小説を書く主人公と
その友人の医師との間で
観念的な対話が
延々と続くこともあって
割り切って読めば読みやすいし
興味深くないこともない。
冒頭はいきなり
自然主義文学論についての
議論が交わされていて
おお、メタフィクションじゃん
と、個人的には
つかみはオッケー
という感じでしたが
そのあとはえんえんと
黒魔術や悪魔崇拝の話になります。
医師の友人である
鐘撞きが登場すると
鐘に関する蘊蓄も出てきて
ドロシー・L・セイヤーズの
『ナイン・テイラーズ』とは
また違った意味で
面白かったりもするんですが……。
でも、怪奇浪漫な
波瀾万丈のストーリーを
期待したりすると
見事に裏切られる小説なのでした。
この本を買った頃は
ジャンヌ・ダルクに
まったく興味がなかったので
その後ジャンヌ・ダルクにハマり
いろいろと読みあさったことが
本書のとっつきやすさにも
少しは与っているかもしれません
まあ、そんなこともあって
今の自分だから最後まで読み通せた
という気もしています。
最初、近所の大学図書館から
借りてきたものを
読んでいたのですが
急な法事で帰省したため
法事を終えて上京する時に
実家の本をこちらに持ってきました。
図書館の本を返す前に
実家にあった本と見比べていたら
カバー裏の装丁が違うことに気づき
びっくりさせられまして。
上掲写真の左側が
実家にあった本で
右側が大学図書館の本です。
大学図書館の本は
1998年2月20日発行の第11刷で
もともとカバー裏にあった
「ユイスマンスとその肉筆」の写真は
カバー袖の方に移動してました。
いつから装丁が変わり
カバー裏に内容紹介が付いたのか
分かりませんが
備忘のために
書いておく次第です。