(ゼノンコミックス、2022.3.5)
『ワカコ酒』の作者
新久千映の新シリーズです。
孫に勧められて
スマートフォンを購入し
設定しているうちに
ひと月前に死んだ夫の
アカウントにつながり
それ以来、夫にTALKを送り続ける、
そんなミカコ72歳の日常を
描いていく作品です。
亡夫のアカウントにつながる
という事態は
なんとなく分かりますけど
そのためには亡夫が
アカウントを持ってなくちゃ
いけないのではないか
持ってたとは思えないけれど……
という疑問が湧いたりするのは
当方がスマートじゃないから
なんでしょうかね。
TALK 機能というのも
自分が持ってるスマホと
機種が違うからなのか
よく分からない。
でもまあ
亡夫にスマホを通して語りかける
という設定さえ受け入れれば
じゅうぶん楽しめますけど。
大丈夫なのかと
心配する孫に対して
「こっちは言うだけ
思ったことを 言葉にするだけで
なんだか 心地いいんよ
話すのなんて
そんなもんじゃし」(p.11)
と話し
孫の話を聞いて訪ねてきた
実の娘に対しては
「墓へ参ったら
仏さんにいろいろ
報告するでしょう
墓までしょっちゅう
いくのもたいぎいし[大儀だし]
代わりに家で墓参り
しとるだけよ」(p.20)
と話すミカコさん。
孫にはああ言ったけど
確かにそうだ、とか
娘にはそう言っておけばいい
などと、あとで独白しているので
相手を納得させるための
その場の思いつきのような
扱いではありますけど
奥が深いですね。
ミカコさんは病院の受付で
働いているようですけど
第3話で病院の若先生が出てきて
「傾聴」という医療行為が
テーマとなっているのを読み
おおっ、と思ったり。
医療系小論文の採点を通して
「傾聴」を知っていなければ
腑に落ちなかったかもと思うと
なんとなく愉しいです。
あとがきによれば
「「ゆるくていいんだよ」
ということを
ゆるく伝えるマンガ」
だそうですけど
そこらへんは
『タカコさん』っぽいかも。
ミカコさんがいろいろと考える
というより
ミカコさんの行動が
周りに影響を与えていく
というあたりが
『タカコさん』シリーズとは
異なるポイントかしらん。
だから
孫がメインの話や
上記の若先生
受付の同僚看護師(事務職?)
やっぱり夫を亡くした
友人のイヨさんたちが
メインのエピソードもあって
それがなかなかいい感じです。
亡夫の蔵書を整理しようと
業者を呼ぶエピソードは
本好きには身につまされそう。
それはそれとして
段ボール10~15箱ぐらいというのは
一般家庭なら多いかもしれませんが
自分の知り合いを思い浮かべると
少ない方だとか思ったり。( ̄▽ ̄)
町史、市史、寺社の歴史
以後の定石本などの他に
小林秀雄全集や『智恵子抄』が
あったりするのは
かなり守備範囲が広い。
というか
普通の読書家とは思えず
どんな仕事に就いていたのか
気になるところです。
(今後描かれるかしらん)
ちなみに
作中に出てくる『智恵子抄』は
「紙絵と詩」という
副題があるバーションで
もしかしたらと思って
検索してみたらやっぱり
現代教養文庫版(1965)でした。
そうした蔵書の中に
生前、夫が勧めた本の一冊として
『十字屋敷のピエロ』
というタイトルが出てくるのには
ちょっと笑いました。
こういう面白がり方
本好きには分かってもらえるかと。
若先生以外の男性、
いわゆる大人の男性が
出てこないのも
興味深いところでして。
若先生は
『ワカコ酒』に出てくる
ワカコの後輩
白石くんみたいなものだし。
そういう意味では
『ワカコ酒』や『タカコさん』同様
女性の視点からの
女性のためのまんが
ということになりそうです。
本作品にはそれに加えて
高齢者の視線が加わっている
ともいえましょうか。
今後、どういうエピソードが
描かれていくのか
分かりませんけど
楽しみがひとつ
増えた感じなのは
間違いなさそうです。