(1969/山本岳夫訳、読売新聞社、1986.10.10)
読売新聞社から出たシリーズ
〈フランス長編ミステリー傑作集〉の
第6巻です。
以前、古本で買っておいたもの
だと思いますが
読むのは今回が初めて。(^^ゞ
買ったときは
リックについて、よく知らず
どうしてこんな作家が
入ってるんだろう
と思っていたものでした。
『奇妙なピストル』(1969)や
『危険な道づれ』(1972)を
読んだ今では
他の収録メンバーと比べても
遜色ないことが
それなりに納得できます。
もっとリック作品を読んでみたい
と思い始めているだけに
訳されていたことに感謝ですね。
セーヌ川を渡航する観光船が
爆弾テロに遭遇。
スイスからフランスに入国した
共産主義活動家を確保した諜報機関は
活動家になりすました諜報員を
破壊組織に潜入させる……
というお話です。
フランシス・リックが
スパイ小説の書き手として
知られていることは
前にも書きましたけど
今回の作品を読むと
なるほどスパイ小説家だなあ
と思った次第です。
オビ表で謳っている
「謎のグループと黒幕がもくろむ
大量殺人の意図は」
オビ裏で明かされてまして
これはちょっといただけませんね。
自分の場合
読了前に見ずに済んだので
幸いでしたが
オビ付きで入手している方
これから入手しようという方は
ご注意ください。
最後の大計画は
仮面ライダーの敵役である
ショッカーがやりそうな感じ。
もっとも、黒幕の
「先進国と言ったって、
インフルエンザや天然痘みたいな
軽い流行病さえ完全に防げんのだ」(p.256)
という台詞は興味深い。
昨今の状況を鑑みると
リアルに納得できてしまい
今日の状況を予言していた
とまではいえないにせよ
ちょっと妙な気分になったりします。
『奇妙なピストル』や
『危険な道づれ』に比べると
内容が通俗的かとは思いますし
どうしてこれが
傑作集の1冊に選ばれたのか
という気がしないでもありません。
それでも、そこそこ読ませますし
バカ話にならないギリギリのところで
押さえられているのは
謎のグループの若者たちの描き方に
好感が持てるからかもしれません。
原題は Paris va mourir で
訳者あとがきには
原意は「パリ死滅寸前」だと
書いてあります。
名詞を羅列して強調する
新聞記事の見出しのような
ニュアンスなのかどうか
ちょっと疑問でして
「パリは死にゆく」ぐらいが
ちょうどいいのでは
という気もします。
それが邦題のようになるのは
心臓疾患を抱えているため
パリでわざと捕まろうとした
活動家の心情を踏まえてのことだと
あとがきで説明されてますけど
だったら
「パリを見て死のう!」
ではないのか、と思ったり。
翻訳もののタイトルを付けるのは
難しいもんですね。