(1973/日影丈吉訳、
ハヤカワ・ミステリ、1981.3.15)
日本で訳された
フランシス・リックの2作目ですが
翻訳はなんと
原著刊行から8年後。
邦訳から数えても
5年後になるわけで
よく出たなあと思います。
ある施設から
看守を殺して脱走した
主人公トマは、逃亡中に
世間から隠棲して暮らしている
カップルと出会う。
知り合ったカップルは
トマが何ものかから
逃走していることに気づき
逃亡を幇助しようと
行動を共にするのだが……
というお話です。
同じ作者が書いた
『奇妙なピストル』と
よく似たプロットの話なのですが
『奇妙なピストル』の方は
グレート・ゲームであることを
読み手にも知らせていたのに対し
『危険な道づれ』の場合
追跡者側が描かれないこともあり
その辺がはっきりしない。
それが異様な緊張感と
不条理感を醸成しているのが
特徴といえるでしょうか。
共に逃亡する3人の
特に2人のカップルの心理が
物語の中心となるので
ちょっと息苦しい感じも
してくるくらい。
少ない登場人物の間の心理劇
というのが、いかにも
フランス・ミステリらしい。
トマが追われる理由は
最後の最後になって
示唆される形で終わります。
物語の途中で
トマが抱えているらしい秘密が
同行するカップルに
抽象的に(喩え話として)
語られはしますけど
結局なんだったのか
具体的には示されません。
ミステリとしたら
そこが物足りないのですが
(いわゆるマクガフィン
というやつなんでしょうけど)
サスペンスをはらんだ小説
と見るのであれば
それで充分といえなくもない。
訳者あとがきには
本作がどう落着くかを
示唆するようなことが
書かれているので
これから読もうと思う方がいれば
あとがきを読まない方が無難です。
自分は読んじゃったので
リーダビリティーが
少し落ちちゃった嫌いも
なきにしもあらずでした。
読み終ってみると
実に70年代らしい
××サスペンス
という感じがします。
××をはっきり書いちゃうと
やっぱり読む時の興味を
そぐのではないかと思いますので
伏せておきますけど。
フランス本国の
ミステリ・ガイド本(の翻訳)を繙くと
1968年にパリで起きた
5月革命が影響している
という指摘も見られますが
そういわれれば
なるほど、さもありなん
という感じもしますけど……。
原題は
Le compagnon indésirable で
直訳すれば
「好ましからざる道づれ」
となりますが
手許の辞書だと
好ましくないと考える(判断する)
主体がなんなのか
カッコで補足されています。
それを書くと
上で伏せておいた部分を
示唆することになりますので
こちらもやっぱり
伏せておくことにしましょう。