『並木通りの男』

(1962/長島良三訳、読売新聞社、1986.6.25)

 

1980(昭和55)年に

フレデリック・ダールの

『甦える旋律』(1979)という作品が

文春文庫から訳出されて

ちょっとした話題になった

という記憶があります。

 

さらに

それがきっかけとなり

ちょっとした

フランス・ミステリ・ブームにも

なった気がするんですけど

そうした気運に乗って

読売新聞社から刊行されたのが

フランス長編ミステリー傑作集・全6巻で

ダールの『並木通りの男』は

その第1回配本の1冊です。

 

 

この傑作集でも6冊中2冊が

ダールだったんですけど

結局、この傑作集のあと

スパイ小説が1冊出ただけで

ダールの紹介は途絶えてしまいました。

 

まさにバブルという感じだったんですが

まんざら実質が伴わなかったわけでもなく

例えば本書『並木通りの男』などは

なかなか読み応えのある

印象に残る1編といえるでしょう。

 

とかいっている自分は

古本で買ったままの積ん読で

読むのは今回が初めて

だったりするんですけれども。(^^;ゞ

 

 

欧州連合軍最高司令部が

まだパリにあったころの物語で

そこに勤めるアメリカ人の大佐が

帰宅途上、男を撥ねてしまいます。

 

男が通りを渡ろうとしているのを見て

徐行運転していたのですが

まるで自分から当たってくるように

車の前に飛び出してきたのでした。

 

ところが運悪く

倒れた男は縁石に頭をぶつけて

そのまま死んでしまいます。

 

大佐はボーイスカウト精神から

死んだ男の妻に

事故を知らせに向かうのですが

当の妻は近所の酒場で泥酔しており

放り出して帰るわけにもいかず

介抱しているところへ

死んだはずの男から電報が届き……。

 

 

いったい何が起きているのか

ということを突き止める

巻き込まれ型のサスペンス小説ですが

途中で大佐の妻が駆けつけ

推理を展開するという場面があり

その推理が割と

論理的で説得力があったりして

小味な本格ミステリのような感じも

したりしたのでした。

 

そこが自分の好みにあったんでしょう、

最後まで面白く読み終えられました。

 

 

死んだ夫からの電報は

死ぬ前に出したんだろう

という見当をつけたわけですけど

消印から死後に出されたものだと分かり

いったい何が起きているのか

という興味が俄然、増しただけでなく

合理的な解決を知りたくなって

最後まで厭きさせずに

読ませるわけです。

 

合理的な説明も

複数の人間が絡んだ陰謀

というような無理繰りの説明ではなく

ちょっと視点を変えるだけで

あっという間に筋が通るというような

不自然さが少ないところも

好感度アップでした。

 

 

本書の真相自体は

前例や類例がありそうですけど

真相が分かってからも

サスペンスが持続して

最後までドキドキさせる展開が

なかなか上手い。

 

200ページほどの

短めの長編ですけど

主人公の大佐を取り囲む緊張感が

ひしひしと感じられる

筆致の見事さは

さすが手練[てだれ]の技

という感じでした。

 

欧州連合軍最高司令部が

パリにあった当時

アメリカ人がどう見られていたか

という風俗的興味も

簡潔なタッチで書き込まれており

そんなところにも感心した次第です。

 

これが絶版なのは

ちょっと惜しいですね。

 

 

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