(1992/橘高弓枝訳、偕成社、
1998.4/2015.2. 第8刷)
ひょんなことから
ヴィヴァルディの宗教声楽曲にハマり
ヴィヴァルディの研究書はないか
と思って検索してみた折に
見つけた本です。
カバーや扉、巻末広告には
「バロック音楽を代表するイタリアの作曲家」
という副題が付いてますが
奥付にはありません。
「伝記 世界の作曲家」
というシリーズの第1巻で
日本図書館協会と
全国学校図書館協会の
選定図書になっています。
また
Amazon で購入したため
スリップが付いたままなんですが
そのスリップには
対象が「小学上級から」と
記されています。
要するに
子ども向けの本なんですが
子ども向けだけあって図版が多い一方
子ども向けだからといって妥協しておらず
刊行当時の研究成果を踏んだんに盛り込み
オペラや宗教曲の代表作についても
きちんと言及されており
さすが海外の児童書はひと味違う
と思わしむる1冊でした。
実をいえば
日本語で読める
ヴィヴァルディの研究書というのは
ほとんどありません。
本書にも引用されている
フランスの研究者マルク・パンシェルルと
(下掲写真・左)
パンシュルルの本と
内容がほとんど同じといっていい
やはりフランスのロラン・ド・カンデの本
(下掲写真・右)、
(左:早川正昭・桂 誠共訳、
音楽之友社、1970.6.1/1982.2.20. 第3刷
右:戸口幸策訳、白水社、1970.6.25)
そしてイタリアの音楽家で指揮者の
フェデリーコ・マリア・サルデッリが書いた
小説(!)くらい。
(2015/関口英子・栗原俊秀訳、
東京創元社、2018.3.23)
あと、この他に
BBCによるドキュメンタリーを
基にしたような本が
出てたみたいですけど
日本人研究者による
1冊まるまるヴィヴァルディという本は
楽曲解説に特化した本以外
実はないんですね。
パンシュルルの原著は1955年、
ド・カンデの原著は1967年に
それぞれ上梓されているため
いささか情報が古い。
サルデッリの本は
ヴィヴァルディの死後、
手稿譜がどう扱われてきたかを
主題としていますので
ヴィヴァルディの生涯や音楽について
知ろうとするための本として考えた場合
最良最適とはいいがたい。
というわけで
ここで紹介するブラウンの本が
最新の研究成果を取り入れた
日本語で読める最良のヴィヴァルディ本
ということになるわけです。
読む前は自分も
所詮、児童書だから
とナメてたんですけど
ヴィヴァルディが生まれたヴィネツィアとは
どういう場所か、ということから書き起こし
有名な《四季》を始めとする
器楽曲だけでなく
オペラや宗教オラトリオにまで
ふれられており
びっくりしました。
おそらく日本で
この手の本が書かれた場合
オペラはともかく
それ以外の声楽曲については
ほとんどスルーされるのではないか
と想像されるだけに
脱帽した次第です。
本書を読む以前に
先にあげたパンシュルルやド・カンデ
サルデッリの本は
眼を通していたんですけど
それらの本には書かれていないことも
盛り込まれています。
特に、ヴィヴァルディが死んだ際
鎮魂ミサ曲を歌った少年聖歌隊の中に
幼いハイドンがいたという記述には
上のどの本にも書かれておらず
びっくり。
また、オペラの章では
バロック時代の作曲家でもある
ベネデット・マルチェルッロ
(マルチェルロ)が書いた
『当世風劇場』(1720)にも
しっかり言及されています。
同書は、今風にいえば
ヴィヴァルディを
ディスった本として有名で
ちょうど、その邦訳である
『当世流行劇場』を
(小田切慎平・小野里香織訳、
未來社、2002.4.25)
読んだばかりだったこともあり
驚くまいことか。
オラトリオ、アリア、レチタティーヴォ
セレナータ、カンタータなどといった
音楽用語について
脚註で説明しているのも
実に分かりやすい。
巻末には年譜がついてますが
これに加えて
リオム番号(RV)に基づく
作品リストがあれば
完璧だったんですけど。
ただ、児童書だけあって
「ヴィヴァルディ」ではなく
「ビバルディ」と
v音がバビブベボ表記になってますし
マルチェッロ(マルチェルロ)が
「マルチェロ」と表記されているのも
個人的には違和感があります。
とはいえ
ヴィヴァルディの
基本的な伝記的事実を押さえた
簡にして要を得た入門書となると
今のところ、これに勝るものがない
といっても過言ではないだけに
ヴィヴァルディについて
知りたいという人には
おススメの1冊です。