昨日は、17:00から
神田センタービルディング6Fで開催の
『金時計』刊行記念
ポール・アルテ先生×芦辺拓先生
対談トークショー
「古典」への憧憬
に、縁あって出席してきました。
上の写真の、消防の隣の細いビルが
神田センタービルディングです。
以下、会場でとったメモを基に詳しい流れをレポートしようと思ったのですけど、よくよく考えると、許可も得ずに勝手にレポートするのは、いろいろと大人の事情も絡んで、マズいような気がしてきましたので(いつものイベントと違い、気の遣いどころが分からないという感じ【^^;ゞ )、当日話題になった固有名詞について、帰ってきてから検索して分かったことを中心に書いていくよう変えました。
また、いつも以上に長文となりがちだったので、いつものように、詩のように分かち書きしてまとめている時間がないこともあり、一般的な文章のスタイルで書いていることも、ご了承いただけると幸いです。
レポに入る前に、海外ミステリに詳しくない人のためにポール・アルテ氏について紹介しておくと、翻訳ミステリの愛読者ならご存知かと思いますが、フランスのミステリ作家で、ディクスン・カーの影響のもと、名探偵が不可能犯罪に挑みトリックを解明する謎解きを興味の中心とする作品を書き、日本の本格ミステリ・ファンの喝采を博した作家です。
ちょうど日本では、いわゆる新本格派の作家たちがデビューしたのと同じころ、フランスで『第四の扉』(1987)を刊行してデビュー。以来、カーのフェル博士をリスペクトしたアラン・ツイスト博士が登場する、現代イギリスを舞台とするシリーズや、ヴィクトリア朝のイギリスを舞台に、オスカー・ワイルドのイメージに基づく芸術批評家の素人探偵オーウェン・バーンズが登場する時代もののシリーズを書き継いでいます。
日本に紹介されたのは2002年になってからのこと。ハヤカワ・ミステリ(通称ポケミス)で、2010年までの間に、ツイスト博士ものを中心に、ノン・シリーズものも含め、9冊ほど紹介されましたが、その後ぱったりと紹介が途絶えておりました。
ところが昨年(2018年)になって、行舟文化という九州(福岡県)にある小さな出版社から、オーウェン・バーンズ・シリーズの『あやかしの裏通り』(2005)が紹介され、今年に入って第2弾として『金時計』(2018)が紹介されることになりました。今回のイベントは、その刊行を記念してのもので、主催は版元の行舟文化とワセダ・ミステリ・クラブの有志で結成された風狂綺談倶楽部です。
当日は、ポール・アルテ、芦辺拓両氏に、三つのテーマに基づいて、それぞれ話してもらったあと、お互いへの質問や会場からの質問を受け付ける、という流れが組まれていたようですが、アルテ氏のミステリとの出会いが語られる途中から芦辺氏の質問が入り、ほとんどアルテ氏へのインタビューと化してました。( ̄▽ ̄)
これは芦辺氏の、日本の読者は今さら自分のことを聞くよりも遠来の作家の話を聞きたいだろう、という判断の現われでもありましょうか。
なお、以下のアルテ氏の言葉は、すべて通訳を通してのものを踏まえていますので、実際に話した内容とはずれている場合もなきにしもあらずであること、こちらで表現を変えたり補ったり、実際の流れとは順序を入れ替えたりしたことなどを、ご了解いただければ幸いです。
最初に、アルテ氏のミステリとの出会いが話されていきましたが、そこで話題になっていた児童向けのまんが『シルヴァンとシルヴェット』Sylvain et Sylvette は、フランス語版 Wikipedia にも掲載されていました。
その話の流れで、フランスの子供向けのミステリ・シリーズの話も出てましたが、正確なタイトルはよく聞き取れませんでしたので、ちょっと調べただけでは分かりませんでした。これは個人的にも残念無念。
15歳になった頃からマスク叢書に入っているアガサ・クリスティーを読み始めたそうです。そこで印象に残っている作品を聞かれて、あがっていた作品の中に『5時間15分』と『謎のある街』とかいう作品がありました。このうち『5時間15分』Cinq heures vingt-cin の原作は何だろうかと話題になりましたが、帰宅してから調べたところ、どうやら『シタフォードの謎』のようですね。『謎のある街』は不詳ですが、あるいは『スタイルズ荘の怪事件』でしょうか(もちろん聞き違いの可能性もありますので何ともいえません)。
アルテ氏の創造した名探偵ツイスト博士は、背が高くて痩せていて、英国紳士のイメージそのものであるように思われる、まんがの主人公クリフトン Clifton をモデルにしたそうです。会場では「キフトン」と聞こえましたが、帰宅して調べてみた結果、おそらくは「クリフトン」だろうと見当をつけた次第です。間違っていたらごめんなさい。
ちなみに、ツイスト博士がフェル博士らしき人物と出会う話も書いているそうで、タイトルは『セイレーンの叫び』Le Cri de la sirène(1998)というそうですが、残念ながら未訳です。芦辺氏から(会場の意を汲んで)翻訳の要望が出たのは、いうまでもありません。
もう一人のシリーズ・キャラクターであるオーウェン・バーンズを創造したのはユーモアを盛り込みたかったからで、探偵は極端な人物がいいと思い、オスカー・ワイルドに似せたとのことです。
そのバーンズが登場する『金時計』について、これは宣伝にもなりますので聞いたことを書いておきますと、作者の意図としては読者を驚かせたいということに尽きるのだとか(この作品に限らずだと思いますけれど)。今回は、理詰めで説明できるところと幻想的な(説明しきれない)所をとない交ぜにしており、現在と過去のふたつの時間が交錯するストーリーそのものに罠を仕掛けてある、と話してました。また、いわゆる足跡のない殺人(雪の密室)トリックを扱っているそうですが、自分の作品を確認してみたら、これまでに14回、同じシチュエーションを使っていることが分かり、自分でも驚いたとも話してました。
最後に会場からの質問を受けつけてましたが、固有名詞が問題になったことなどは特にはなかったので、省略します。
下は会場で頒布していた本(写真左)と、シリーズの短編を1編収録した特典の小冊子(写真右)です。
今日、26日には大阪のジュンク堂で、綾辻行人と有栖川有栖の両氏をゲストに招いた、刊行記念イベントが開催されたはずです。当然、今回とはまた別の話も出たでしょうけど、そちらはどこかメディアが、フォローしてくれるのか知らん。
東京側のイベントレポはおそらく、早川書房の『ミステリマガジン』や東京創元社の『ミステリーズ!』などのメディアにおいて紹介記事が載るとは思いますので、興味を持たれた方はそちらをご覧いただくということで、当ブログの方はこんな感じで御容赦ください。
それにしても、いつものアイドル関連のイベントのように、メモを取り始めただけでなく、いったんは全体レポを書きかけようとしたなんて、もはや業[ごう]としかいえませんね。おかげで話に集中できて、それはそれで良かった、ケガの功名、と、いえなくもないのですけれど。( ̄▽ ̄)
以上、長文乱文深謝。
ポール・アルテ先生、芦辺拓先生
参加されたみなさん、スタッフのみなさん
お疲れさまでした。


