手許にある
ピアノによるバッハのパルティータは
前回のワイセンベルク盤や
グールド盤の他にもうひとつ
クラウディオ・アラウの演奏盤があります。
(フィリップス PHCP-1305〜06、1993.4.25)
録音は1991年の3月から4月にかけてで
発売元は日本フォノグラムです。
クラウディオ・アラウは
チリ生まれのピアニストで
30代の時に世界で初めて
バッハの全クラヴィーア曲のリサイタルを
暗譜で弾いて成功させたという
キャリアの持ち主です。
その後、1942年に
『ゴルトベルク変奏曲』を
録音していますけど
ワンダ・ランドフスカが
モダン・チェンバロで弾いた録音と
重なったこともあり
自分の方のリリースを見合わせる
という経緯もありました。
それ以来、バッハはピアノでなく
チェンバロで弾かれるべきだと考え
コンサートやレコードで
バッハを弾くことはなかったそうです。
ゴルトベルクの録音から40年後
昔の自分の録音を聴いて
バッハをピアノで弾くのもありだと
認識を改めたそうで
それから録音に取りかかったのが
パルティータ全曲だったのですけど
1〜3番と5番を録音したあと
急逝してしまったのでした。
本盤のタスキ(オビ)やジャケットに
「ファイナル・セッションズ」とあるのは
文字通り、最後の録音だったからです。
パルティータの録音にあたり
舞曲のリズムをふまえていることに鑑み
バロック時代の舞踏に関する研究書を
ひもといたりしていたそうなので
本盤のテンポはアラウなりの考えがあって
選ばれたものと考えていいでしょう。
グールドやワイセンベルクに比べると
かなりゆっくりめの演奏で
買った当時はそれが不満だったと見えて
一度か二度、聴いたきりでした。
今回、改めて聴き直してみると
テンポ云々よりも
穏やかで綺麗な音の流れに
ホッとさせられたりしています。
もっとも、第1番のジーグは
ジーグにしては遅すぎる感じがされ
まるでドビュッシーのような気もしますが
アラウはこの時、御年88歳で
演奏が穏やかなのもむべなるかな
というところでしょうか。
録音もいいですし
(演奏は「音」で聴くものではない
とは、よくいわれることですけど
自分は「音」も大事だと思います)
ロマン派風の大仰な表情づけもなく
残りの第4、6番が録音されなかったのが
かえすがえすも惜しまれますね。
それにしても
これを買った当時の自分は
古楽器演奏にハマっていたころのはずで
なぜまた手を出したのか。
今となってはよく覚えていません。
磯山雅の
『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』で
誉められていたからでは
ないでしょうか知らん。
ちなみにブックレットには
全ディスコグラフィが載っていて
これは便利。
これに拠って見るに
主なレパートリーは
モーツアルトやベートーヴェン、
ブラームスやリスト、シューマンといった
古典派からロマン派にかけて
ということになりそうです。
アラウは、第2次大戦後になって
「もっとも正統的なドイツ音楽の継承者」
といわれるようになったそうなので
グールドのエクセントリックさを知る意味でも
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集あたり
ちょっと聴いてみたい気になったことでした。